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第12話「集まって」
腹部の痛みに耐えながら宿へと向かっていたウルの視界に、見覚えのある姿が映る。
「メイル!?」
「ウル!?」
「偶然だ。俺、この宿に泊まるんだ」
「なに? 僕は昨日から泊まっているが」
「え!?」
「君、昨日はどこで一夜を」
「……途中の森で野宿……」
「な、なんだと!?」
ウルの発言にメイルは唖然とした。まさか野宿をしているとは思いもしなかったからだ。まして、メイルは昨日の時点で街に着いていたため、尚更驚いている。
「いやあ。最初はどうかと思ったけど、言うほど悪くもなかったな」
「君には危機感というのがないのか! 旅立った当日に野宿とは無謀にもほどがあるぞ」
「心配してくれてるのか?」
「だ、誰がするもんか!」
即答で返すメイル。それを聞いたウルは「ふーん」という素っ気ない態度。
ウルは手に持っていた猫缶を見るや「ちょっと悪い」と言い残して宿へと入っていった。
「ちっ。相変わらず勝手なやつだ。僕が珍しく心配をしてやればこれだ」
その場で立ち尽くすメイルだったが、自分に向かってくる少女と老人に気づいた。
「君もこの街にいたんだな」
「君も、て?」
「ウルもいるんだ。今、ここの宿に入っていったんだが」
「奇遇だね。私もここに泊まってるんだよ。だったら声をかけてくれてもいいのに」
「いや、それが……昨日は野宿だったみたいなんだ。僕もさっき聞かされたんだが」
野宿という単語を聞いた瞬間、ティタの表情が青ざめていく。それを見たメイルはあわてふためく。
「あ、あ、安心するんだティタ! アイツは元気そうだったから!」
「そう……なんだ……よかったあ!」
ふぅーと肩の力を抜くと、ティタはショウに背中を預けた。相当疲れが溜まっていたのだろう。
「おやおや。修業で結構な体力を消耗してしまったらしいの。部屋に戻るとしようか」
ショウはティタをお姫様だっこして歩く。ティタは顔を思わず赤らめるが、そんなことをショウが気にする素振りはなかった。
「師匠!?」
宿に入ろうとするショウに声をかける少年。
ショウもまた、その少年を見て目を丸くする。
「ダイではないか! 久しいの!」
「はい! 師匠こそ変わりなく安心しました」
「これでも歳は取っておるよ。おっと、お嬢ちゃんを部屋に寝かせたいのだ。少し待っておくれ」
宿に入っていくショウの背中を見つめるダイの目は、自分に修業をつけているときの彼とは違うとメイルは思った。
「そっちの師弟関係は良好のようだな」
「師匠は偉大なんだ。今の俺は師匠なくして語れない。だってあのときに――」
「――いや、そこまで誰も訊いてないぞ」
やんわりと話を遮り、戻ってくるのを待つ。ショウ、ウルの順で戻ってきた。
「二人共、部屋で話さぬか。お嬢ちゃんを一人にしておくのは不安での」
「はい師匠!」
「構わないぞ」
メイルとダイも宿へと入っていく。ショウの取った部屋に集まる。すぐさま話題になったのは、“左目を閉じた少年”だった。
「思い出すだけでムカつく!」
感情を露にするウル。
メイル、ダイ、ショウの三人は、ウルの愚痴を黙って聞いていた。
※ ※ ※
「はあ! はあ!」
「気は済んだか? 珍しく愚痴を溢したと思ったら、三十分以上も話をするとは。まあ、今の話を聞いた分だと、やはり、ただ者ではないみたいだ」
「俺を見る目は冷たかったねえ。闇を抱えている感じを受けた」
「いーや! あの目は人をバカにした目だ。左目の金色が気に食わないって!」
「「金色!?」」
ウルの言葉にダイとショウが反応した。二人の表情が、みるみる暗くなっていく。
「どうしたんだ?」
メイルがダイの様子に不安を覚える。
「もしかしたら、左目は核師 かもしれん。だとすればヤバいね」
「核師 ?」
「核 を使う者をそう呼ぶんだ。お前だって修業すればそうなる」
「何のことだ?」
核 のことを知らないウルは、話に付いていけていない。それでも話は続いていく。
「それもおそらく瞳術じゃ。厄介じゃの」
「瞳術だと?」
「核 には色々と種類があるのだが、瞳術はその中でも厄介での。一筋縄ではいかんかもの」
ショウの言葉に黙ってダイは頷いている。ダイの表情が、メイルに全てを悟らせた。
「僕達には何も手立てはないのですか」
「否定も肯定もできぬ」
「師匠。なんとなくですが、左目はまた現れます。そんな気がするのです」
「お前さんの予感は当たるからの。警戒は必要かもしれん」
「次会ったら容赦しねえって!」
ウルは闘志を燃やしていた。
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