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第1話「旅立ち」
緑豊かに芝が生い茂り、鳥は空を舞う。
健気に咲き誇る小さき花はなによりも可憐である。
そんな場所で三人の子どもが身支度を終えて集まっていた。
「ふぁ~。たくっ、俺はまだ眠いってんだ」
黒髪の少年は眠い目を擦りながら訴える。名前はウル。これから旅立つというのに、その格好は散歩の装いだ。
「だらしないよ。今朝だって私が起こしに来なかったら起きなかったくせに。今日がどういう日か分かってるの?」
茶髪を肩まで伸ばした少女が腰に手を当てて説教をしている。名前はティタ。この旅にかける意気込みと真剣さが伝わってくる。
「そいつに今更何を言ったって無駄だ。いつまでも甘やかしていると、そいつのためにならんぞ」
銀髪の輝きが眩しい少年は呆れている様子。名前はメイル。
「んだと! テメエだってティタに起こしてもらったくせに。 俺らと同い年のくせに、上から目線も大概にしろってんだ」
「ふん。僕と同い年にお前みたいなやつがいると思うと情けない」
「はあ……情けない。大の男が揃いも揃ってくだらない背比べ。私には、ウルもアンタも大差ないよ」
ティタは背負っていたリュックから地図を取り出すと、棒立ちの二人に渡した。
「二人共、なかなか起きないんだから。送迎書も地図も私がもらってきちゃったよ!」
「「す……すみませんでした」」
ウルもメイルも言い返す言葉がなかった。
「いい? 二人共。私たちは国の習わしに従って旅に出るの。三年間、自分の力で過ごさなきゃいけないの。誰かを頼るにしても自分で交渉しなきゃいけないの。この街から一人で出たことのない私たちがよ。分かってる?」
「んなの分かってるに決まってるだろ。俺だってそこまでバカじゃない」
「ふーん。半袖短パンの格好で分かってるだなんて言われてもなんだけど?」
ティタはどこか楽しんでいる。
からかわれていることに気づいていないウルは、歯軋りをしつつ耐えるのが精一杯のようだ。
「そいつから、この旅にかける意気込みを感じない。服装までティタの世話になるつもりか? ウル」
「アンタも他人のこと言えないよ、メイル。
格好はまあまあだけど荷物が見当たらないじゃない。もしかして手ぶらで行く気なの?」
「僕に荷物は不要。心配など結構さ」
銀髪を掻き分けて誇るメイル。そんなメイルを見て、ティタは深い溜め息をついた。
「こんなとこにいつまでもいたかねえよ。さっさと出発しようぜ」
「まったく。アンタは感傷に浸らないの?」
「永遠に帰れないわけじゃないんだ。そんな時間がもったいないって」
今にも走り出しそうなウル。そこは十歳の男の子。見えない恐怖より好奇心の方が勝っているらしい。
「ホント……男ってバカ。この世に永遠なんてないことくらい私だって知ってるよ」
ティタはリュックを背負い直して送迎書を読む。
『子どもたちよ。この書を受け取ったその日から、君たちの精進の儀は始まっている。楽しいことも苦しいこともあることだろう。それを乗り越えて三年後、心身共に逞しくなった姿を是非とも見せてほしい。健闘を祈る』
「よし!」
「どした?」
ティタが送迎書を見ていると、ウルが顔を覗かせる。
「アンタねっ!?」
「顔、赤いぞ。大丈夫かよ?」
「ウルに心配されるほど、私は落ちぶれちゃいないよっ」
すぐに平静を装うティタだが、心臓はバクバクしていた。実は、ウルのことを異性として意識している。だが、そんなことを言い出せるはずはなく今日に至る。三年後、心身共に成長したとき、想いを伝えようと思っている。
「僕もウルの意見に賛成さ。いつまでも未練たらしくいるのはどうかと思う。さっさと出発しよう」
「……分かったよ」
芝生を歩いていくと、道が三方向に分かれていた。
三人は立ち止まる。ここで別れることになるからだ。旅をしていれば、どこかで会えるかもしれないが、それがいつかは分からない。
「本当にバラバラで行くのかよ。一緒でもいいんじゃないか?」
「ウル、もしかして怖いのか?」
「そう言うテメエこそどうなんだ? メイル」
「はあ……アンタらね、覚悟は出来てるのよね? ゴチャゴチャ言わずに選んで進む!」
ティタが二人の背中を押す。左にウル、右にメイル、残った真ん中にティタが立つ。
「これでよし。もう後戻りはできないよ。私たちは前に進む。いい?」
「当たり前だ」
「ふん。当然だ」
三人は揃って一歩を踏み出すと、そのままその場を離れていく。少年少女の旅が始まった。
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