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第49話「レベルアップ」
力なく剣先を地に着け項垂れる。その姿からは覇気を感じることはできなかった。ウルの変身が解け、黒い髪が瞳を隠す。隠れた瞳から、大粒の涙が溢れ落ちる。両膝を着いたウルの間近には鋭い刃が眩しく光る。触れれば最悪の事態も避けられない。
「腕を斬った……だと。こりゃあ傑作だ!」
「ギル! 動けば撃つわよ!」
「撃ってみろよ、ネエチャン。ネエチャンの身体に返ってくるぜ? うはは!」
ギルのワープを警戒して、撃つのを躊躇うキリナ。ギルならば、銃弾をワープさせてキリナに当てることなど朝飯前だろう。キリナの銃は重りと化していた。
「……随分と!」
ギルに向かって無数の刃が飛んできた。ギルは穴を出現させてワープで返す。
メイルも攻撃を繰り返す。飛んでは返す無数の刃。果てなく続くと思われたが、左腕の痛みに耐えきれず、メイルのワープが途絶えてしまう。そんな状況のなか、ギルの放った刃が、痛みに苦しむメイルに向かっていく。
(駄目だ! 痛みでどうにかなってしまう)
死を覚悟して目を閉じる。後ろにいるウルの壁くらいになってやろうと胸を張る。しかし、一向に攻撃は来ない。メイルが目を開けると、赤い炎が現れていた。
「ウル!?」
「さっきの借りを返したって……。剣、使わせてもらうな」
「なんだぁ。まだオレと戦う気か。懲りないやつらだ」
「簡単に懲りたりはしないって。俺は、俺の闘志が尽きるまで戦う!」
「お友達の左腕を斬り落とした剣でか?」
「意地でもテメエを捕まえてやる。大尉の面前で詫びさせてやるって!」
「バカなやつだ。大人しく震えてればよかったのによ」
ギルが穴から刃を飛ばせば、ウルは燃え盛る剣で薙ぎ払っていく。ギルの右腕がウルの首元を執拗に狙ってくる。
ウルは赤い炎でギルの攻撃をかわしていく。
「右腕に持ってる短剣で俺の首を掻っ斬ろうって算段だろうが……そうはいかねえって!」
ウルはメイルの剣に炎を纏わせる。そして、炎の刃としてギルに放った。
「!?」
(かかったって!)
穴から穴へとワープしたギルだったが、その先にはウルが待ち構えていた。ギルの左腕に剣を突き刺す。ギルはウルごと穴の中へ。軍隊にしたようにウルにもしようということなのだろう。
「瞳術使い以外は、この空間で自由は利かない。オレの独壇場ってわけだ!」
「く!?」
ウルの炎が弱まっていく。ウルとギルが消えたことを認識したキリナは、重傷のメイルへと駆け寄る。
「気をしっかり!」
「気はしっかりしてる……。けど流石にマズイ……!?」
(このままでは、出血多量で死んでしまうわ!)
※ ※ ※
「街の人たち、大分避難したみたいよ」
「ティタちゃん?」
「メルちゃん。私、行くよ!」
「え、だってメイルは!」
「分かってる。けどね、私も核師 だから……行かないといけない」
「ボクだって、メイルの役に立ちたいのだよ。だけど、ボクが行ったら足手纏いになるのだよ。ボクだって核師 なのに!」
「メイルちゃんも核師 なの!?」
※ ※ ※
「ぐわあああ!!」
「いい声をあげるねえ。殴り甲斐がある」
(ヤバい。このまんまじゃ殺されるって)
「これが瞳術使いの怖さだ。異空間へと相手を閉じ込めてボコる。次元をねじ曲げ、どんな距離でも追いかける。どんな相手だろうがな。うはは」
「……楽しいか?」
「あ?」
「そんなに殴って楽しいかって訊いてんだ」
「楽しいに決まってんだろ。じゃなきゃあ、さっさと殺してる」
「……ああそうかい。俺はもう、殴られすぎて冷めちまった……。お陰で頭も冴えてきた」
「今更か。いったい何ができる」
「『オレを燃やし尽くさなかったことを後悔するんだな』とか言ってたな。今度は、後悔しないように燃やしてやるって!」
「この空間では無理だ。身に染みたはずだ」
「たとえ核 を打ち消したとしても、俺の心 は絶対消えねぇー!」
ウルの身体を赤い炎が纏っていく。その炎は、どんどん燃え盛り熱を上げていく。
「この異空間で……何故だ!」
燃え盛る炎は高温を維持しながらウルの身体へと吸収されていく。逆立つウルの髪色が、赤から青へと変化する。そして、ウルの身体に青い炎が纏まる。
「俺の、テメエへの激しい焔 。俺の核 と心 が、俺の殺意に呼応した」
「だからどうした。炎の色が変わったくらいで」
「炎は、赤よりも青のほうが熱いんだ!」
ウルは一瞬でギルを追いつめる。あまりの出来事に、ギルのワープが追いつかないでいた。
「ぐううっ!」
ギルが殴られ飛んでいく。痛みに耐えながらも穴を出現させて抜けていく。閉じていく穴を見逃さず、ウルも穴をすり抜けた。
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