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第44話「向き合い」
「ウル。起きなさいよ、ウル!」
「なかなか返事がこないわね。ウル君、朝が本当に苦手なのね。大尉のところに泊まっていたときも、大尉が相当手を焼いていたらしいもの」
ドアを何度もノックする。何度も呼びかけるも返事はない。ティタは仕方なく苦肉の策に出た。
「起きなさい!」
ドアのノブを核 の力で変形させると、一気に室内へと入っていく。案の定、ウルはベッドですやすやと寝ていた。仰向けになっているウルのお腹の上には、ルーが丸まって寝ている。
「飼い主に似るとは言うけれど、朝寝坊なとこまで似なくてもいいよ!」
ウルの耳朶 を引っ張り、頬を引っ張り……挙句、鼻を摘まんだり。ティタによる目覚まし攻撃に観念したのか、ウルが堪らず起き上がった。
「おはよう。今日もゆっくりなお目覚めだよ」
「……ゆっくり……何時?」
「九時だよ。チェックアウトまで、あと三十分」
「もうチェックアウトかぁー~! 仕方ない、起きるって」
顔を洗いに洗面所に向かうウル。その後をちょこちょこ付いていくルー。飼い主と飼い猫の行動に、キリナはおかしくなってしまった。
「キリナさんの前なのに」
「マイペースでいいわね。ワタシ、ウル君を見習おうかしら」
「キリナさん!」
「ふふ。今のは冗談だけど、ちゃんと自分を持たなければならないのは確かよ。ワタシは職業柄、特にね」
洗面所からバタバタと駆けてくるウル。歯ブラシを加えながら窓を眺める。
「こら! ちゃんと磨きなさいよ」
「くぁんびぃぶぅんばぁ! びぃぶぼぉ!」
「ウル君?」
口を濯ぎに洗面所に戻ったと思ったら、さっさと窓際に帰ってきた。ウルの顔が真剣である。ルーもどこか落ち着いていない。
「ウル……もしかして」
コクッと黙って頷くと、足早にチェックアウトを済ます。その後を必死に付いていくティタとキリナ。
「ティタちゃん。ウル君は!?」
「第六感が働いたんだと思うんです。ウルの向かう先には……ギルがいます!」
※ ※ ※
「しぶとい。そんなにオレに楯突いて楽しいか?」
「はあ……はあ……。師匠の仇ー!」
「……金縛り……か。オレに楯突くのも頷ける。しかし、縛るだけでは敵わないぞ? オレには」
ギルの左目が光る。立っているのもやっとな傷を負っているダイの背後に、巨大な穴が発生する。
「瞳術使いを敵に回したのが、お前の運の尽きだ」
巨大な穴へと吸い込まれていくダイ。次々に穴を発生させていくギルは、ダイを穴から穴へと飛ばしていく。身体の自由が利かないダイは、されるがままだった。
「そこの! 指名手配中のギルだな! 手を上げろ!」
「軍の人間か。余計な邪魔を」
ギルを取り囲む軍人たちだったが、ギルが発生させる穴の前では無力だった。吸い込まれては吐き出される。腕や足を折られる者もいた。
「お前には大サービスだ。師匠の元に送ってやるよ!」
穴から武器を取り出すと、それをダイに突きつける。にんまりと微笑むギルに、ダイは恐怖しか感じられなかった。
「……師匠の作った方が……全然斬れそう……だ」
「そうか。試してみようか」
それは一瞬の出来事だった。スパッと、二の腕から下が斬り落とされる。短くなった左腕に、ダイは言葉を失った。だが痛みはやって来る。激しい痛みがダイを襲う。言葉にならない声をあげながら、二の腕から流れ出る血によって赤く染まる半分の腕に絶望した。
※ ※ ※
「どうなってるんだって!?」
軍人たちが倒れている異様な光景にウルは目を丸くする。緊張感がウルを包む。
「また会ったな。オレのファン」
「ギル。やっぱ、いやがったか」
「まあいいや。ああ、預かりもんだ、ほれ」
放り投げられる布袋。それを受け取ったウルは、重さで尻餅をつく。それを見たギルは笑みを浮かべる。
「なんだよこれ!」
「開ければ分かる。見るのはオススメせんが」
「はあ?」
ギルの忠告を無視して封を開ける。その中身を見たウルは絶句した。感情の概念が壊れていく。喜怒哀楽のどれにも当てはまらないものがウルから湧き出てきた。激しい感情を炎に変えて、ウルは涙を浮かべながら立ち上がった。
「知っていた“頭”か?」
「ああ」
ウルはギルを睨む。激しい殺意を向け、ウルは戦闘態勢に入った。
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