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第42話「ドキドキ」

「すっかり夜になってしまったか」 「長時間座りっぱなしっていうのも疲れるのだよ~」  列車を乗り継いで、メイルとメルが目的地へと到着した。メルは眠い目を擦っている。 「とりあえず宿を取ろう。前に来たときに泊まったホテルにしよう」 「お師匠さん、ここにいるといいけどね」 「それは明日でも構わんだろう。今は身体を休めないと」  メイルは以前泊まったホテルを見つけると、チェックインを済ませてベッドに身体を預けた。一気に睡魔に襲われていく。 「メイル、寝ちゃ駄目なのだよ。シャワー浴びないと」 「……そうだった……」  寝かけたメイルを無理矢理起こして誘導するメル。お湯を出して温度を確認する。 「大丈夫なのだよ、メイル」 「おう」  眠気と戦いながら服を脱ぎだすが、そこでメイルは重大なことに気がついた。 「どうしたのだ?」 「なんで、僕とメルが一緒の部屋にいるんだ!?」 「部屋を一つしか取ってないからなのだよ。一つしか空いてなかったから」 「そういえばそうだった。僕の方が寝惚けていたか」 「ベッドだって一つだけなのに、メイルが受付の人にウンウン頷いてたのだよ」 「し、しまった!?」  自分の落ち度を反省するメイルだが、今更宿泊を取り消すわけにもいかなかった。とりあえずシャワーを浴びようと服を脱ごうとするが、視線を感じて脱げないでいた。 「いくらなんでも、人前で全裸になるほど寝惚けていないぞ。向こうに行ってくれないか」 「ボクは構わないのだよ」 「僕は構わなくないぞ」  メイルに言われて渋々離れるメル。シャワーのお湯が、疲れたメイルの身体を解きほぐす。油断をしていると、そのまま寝てしまいそうだ。 (この街の夜は不気味だ。ショウの死亡推定時刻からして夜だったのは間違いない。左目は、こんな夜更けにも行動しているということになる。左目と遭遇するにはうってつけだろうが、無闇に出歩くのは控えた方がよさそうだ)  シャワーを止めて濡れた身体を拭いていく。丁寧に畳まれた寝間着に袖を通して、髪を拭きながら出てくる。  メルは本を読んでいた。メイルが上がったのも気づいていないようだ。 (まったく。不用心にも程がある)  仕方なくメイルはベッドに腰かけると、メルはようやく気づいた。読んでいた本を慌てて閉じる。メルの慌てっぷりが不思議でしょうがないメイルだったが、あえて追及はしなかった。 「凄い集中力だ。本が好きだとは知らなかった。寝間着出してくれてありがとう」 「メイルのサイズがあってよかったのだよ。……ボク、シャワー浴びてくるね」  メルがポンと置いた本を何気なくメイルは捲っていく。どうやら恋愛小説らしい。するとメイルは気になる一文を見つけた。メルがしおりを挟んだ箇所だった。 「まさか……メルの様子がおかしかったのは……!?」  小説の一文には、『寝床を共にする男女。愛する二人は抱き合って眠りに就いた』とあった。もし、この一文を真に受けてしまっていたとしたら、メルの様子のことも説明がつく。偶然にも寝床のベッドが一つだけなのも拍車をかけているのだろう。 「僕達はまだ子供だぞ。この小説のターゲットは、僕らよりも上のはずだ。それを理解してないな」  シャワーが止まる音を確認したメイルは、本を素早く片づけた。腰かけて乱れたシーツを正すと、椅子に座って伸びをする。 「メイル、髪を乾かしてほしいのだよ」 「分かった。座って」  メルを椅子に座らせ、メイルはドライヤーを片手に櫛を通していく。濡れた髪に櫛を通すのは容易く、ドライヤーの温風が髪を乾かすのもあっという間だった。 「メイルは髪を乾かすのが上手いのだよ。ボクが自分でするよりも早いし」 「慣れれば簡単だぞ? 一人でもできるようになる」 「メイルがやってくれるから、無理して慣れる必要もないかも」 「甘え上手というものか」 「……かも、なのだよ」  メルは、そのままベッドにダイブする。折角直したシーツがしわくちゃになる光景にメイルは苦笑した。 「しっかりかけるんだぞ。風邪を引きかねないからな」 「……メイルも一緒に寝るのだよ」 「そのベッドはシングルだ。一人で寝るのが最適なんだ。僕なら椅子の背凭れにでも寄りかかれば寝れる」 「……メイルが可哀想なのだよ」 「僕のことなら気にしなくていい」 「……今日だけ、ね?」  メイルに背を向けていたメルが振り返って訴えてくる。シャワーを浴びたことで火照ったからなのか、頬がほんのり赤くなっていた。  メルの円らな瞳に吸い込まれるように、メイルがメルの隣で横になった。 「メイル」  メイルの腰に腕を回すと、そのまま背中に顔を埋める。メルの吐息を背中で感じているメイルは、心臓の高鳴りを抑えきれないでいた。 (ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!! こんなのとても堪えきれんぞ!?) 「…………」  メルの吐息が寝息に変わっていた。それでも腰に回された腕はなかなか外れないでいた。仕方なくメイルはそのまま瞼を閉じる。その後、メイルも寝息を立て始めた。睡魔とベッドが、メイルに助太刀したのかもしれない。二人は起きるまで、そのままの状態であった。
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