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第39話「託されし剣」
メイルとメルは、鍛冶屋が沢山集まる街であるファロンへと到着していた。大小様々な剣や槍、鉄鍋などが店を彩っている。あまりの店舗数の多さにメイルはキョロキョロとしている。一方、メルはというと、芸術品のように陳列されている包丁に夢中になっていた。
「鉄製のどっしり感もいいけれど、こっちのステンレス製の軽いのも捨てがたいのだよ」
「料理できるのか?」
「やらざるを得なかったのだよ。ママとパパは離婚しちゃってて、お姉ちゃんは家を出ちゃったし」
「わ、悪かった!? 余計なことを訊いちゃったみたいだ」
「気にしないでいいのだよ。ボクが物心付く前に別れたみたいだから。ママの顔、覚えてないのだよ。お姉ちゃんはお仕事で家を出たんだけどね」
「そうだったのか……悪かった」
「もう! メイルは反省しすぎなのだよ。それよりもメイル、どっちがいいと思う?」
包丁を差し出し意見を求めるメル。どうして自分に選ばせるのか疑問が湧いたメイルは率直に訊いてみた。
メルは少々照れながら、「だってメイルは、ボクの未来の旦那様なのだよ?」と答えた。以前ならスルーしていた言葉だったが、今はそれをスルーすることが出来なかったため、メイルは顔を赤らめてしまった。
「へぇ~。最近の子供は進んでるねぇ! しかも変に隠そうとしないときた。その心意気、気に入った。嬢ちゃん、その包丁、おじさんからのプレゼントとして持って行きなぁ! 砥石もあげちゃうからなぁ!」
「でも、この包丁……一生懸命おじさんが打ったんでしょ。流石に悪いのだよ」
「いいんだ。懸命に打ったからこそ、大事に使ってくれる人の手に渡ってほしいのさ。こうやって直接、謂わば自分の子供を嫁がせることができるのは職人として凄く嬉しいんだ。嬢ちゃん、おじさんの子をよろしく頼むねぇ!」
「うん、大事にするのだよ!」
こうして二本の包丁が十歳の少女に貰われていった。幸せそうに、包まれた包丁を抱えるメル。メイルが持つと言ったのだが、メルは自分で持つと譲らなかった。
「メイル。目ぼしい物は有った?」
「うーん。何でかピンとこなくてさ。こういうのって出会いが肝心と聞く。そういう意味でピンとこないんだ」
各店を彩る品々が充分に素晴らしいことは、メイル自身感じていた。しかし、惹かれる物はなかなか見つけられない。
「ボク。メイルが望めば応えてくれると思うのだよ。見つけるんじゃなくて、感じればいいんじゃない?」
メルからの突拍子もない提案だったが、メイルはなんとなく信じてみることにした。目を閉じて全身の力を抜いてみる。耳に届く鍛冶屋の声。品定めをしているお客の声。そんな声に混じって、不思議な声がメイルに聞こえてきた。
――来て。
(今のは?)
声のする方向に歩いていくメイル。辿り着いた先は、小さな金物屋だった。調理器具は売られているものの、武具の類いは売っていない。
「いらっしゃい。何をお探しで?」
「お婆さん。ここは剣を売っていますか?」
「売ってないよ。昔は鍛冶屋として腕を鳴らしていたが、今は趣味で集めた金物を扱っているに過ぎないよ」
「……そう……です、か」
「銀髪の。何故来たんじゃ?」
「聞こえたんで……声が」
「なるほど。そういうことかの」
「え?」
「売ってはいないが、置いてはあっての。気に入るかは知らんが……ほれ!」
店の奥からお婆さんが持ってきた、一本の剣。鏡のようにメイルを映す刃は、丁寧に作り込まれているのが一目瞭然であった。それを見たメイルの目の色が、あっという間に変わる。
「これだ!」
「でもメイル。それ、売り物じゃないのだよ」
「欲しいなら、くれてやるよ。年寄りにはすぎたものだ。持っていき」
「いくらなんでも流石にタダってわけには!?」
「声を聞いたと言っていたろ。それで充分だよ」
「ありがとうございます! 大事にします!」
背中に背負い込んでみせるメイル。メルは目を輝かせて拍手をしている。
「格好いいのだよ!」
「そうか?」
メイルとメル、それぞれが大きい収穫を得た。ファロンという街の人情に触れたことで一層の想いが籠った物になったはずだ。そんな二人の背中を見送るお婆さんの目には、若い男女の姿が重なって見えていた。
「可愛い子には旅をさせよ、だろ? お爺さんや」
メイルの背中の剣が、お婆さんに何かを言うかのように一瞬輝いたような気がした。
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