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第36話「捨てられない情」

 ティタから槍を受け取ったウルは、それを素早く構える。炎で染められた槍は、触れればただでは済まない熱を帯びている。 「炎の槍、か。厄介ではあるだろうが、大したことはなさそうだ」 「そいつはどうかって!」  力一杯に地面を蹴りあげ突っ込んでいく。勢いよく突いた槍はギルを捉えるには至らない。ギルの動きを予測するのは並大抵ではなかった。 「どうした? 当ててみるんだな」  ギルの突き出した右拳が、距離を取っているウルの目前へと現れる。ウルはその隙を見逃さず、槍をギルの拳に突きだした。刺さりはしなかったが、ギルの表情に変化があった。 「……熱気か!」  拳を押さえるギルの姿を見たウルは自信をみせる。やはりギルも炎には弱いのだ。  それを見ていたライドは煙草を取り出した。 「ウル。私も炎を出そう。ギルフォードの戦意を削ぐ」 「いんや。大尉は稲妻を頼むって。痺れさせてやつの動きを封じるんだ」 「……よかろう。ならば攻撃は任せたぞ」  ライドが稲妻が発する。狙いを定めたライドは迷わずギルに放つ。  なんとか避けたギルだったが、ライドの追撃には反応できずに喰らってしまう。痺れて動けなくなったギルは抗いも虚しく這いつくばった。 「ギルフォード。お前の負けだ、降参したまえ。兄としての忠告だ」 「だ……れが……!」 「呂律もろくに廻らんくせに一丁前に反抗か。その威勢は買おう。が、お前は罪を……人を殺めた。十九歳という年齢を考慮しても、極刑は免れんぞ」  ライドの目は冷たく、それでいて怒りを秘めていた。軍の人間として“罪人”を見過ごすわけにはいかない。しかし、目の前に居る“罪人”は“弟”でもある。軍には素性を隠している。ギルの捜索に出れたのはそのためだ。 「観念するんだ、ギルフォード。私の手で捕まえてやることが、お前にしてやれる配慮だ」  手錠をかけようとするライドだったが、実の弟に手錠をかけることに一瞬の迷いが生じた。その一瞬がギルにチャンスを与えてしまう。ギルの左目が光る。ギルの周りに複数の穴が現れた。 「馬鹿な兄貴だ。そんなんで軍人が務まるかよ。甘い……兄貴は……どうしようもなくだ」 「テメエ、何する気だって!」 「逃げさせてもらう。流石のオレも数的不利とみた」 「逃げるだって!? この状況で」 「瞳術は奥深い。まあそれは、お前の変身も同じだが」 「ギルフォード!」  穴の中へと吸い込まれていくギルに対して、ライドとウルは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 「……何をモタモタとしていたんだ、私は!」  ギルという嵐が去り、ルワンに穏やかな風が吹き抜ける。だが、ライドの心境は穏やかではなかった。兄としての自分と、軍人としての自分。ライドの心を強く締め付けていた。
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