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第34話「兄弟」
風車の街――ルワン。街のあちらこちらで風車が回っている。街に吹く風は心地がいいと評判で、観光地としても有名だ。
だが、ウル達は観光で来たわけではない。この街で起きた連続殺傷事件の現場へと来るためだ。
「ここが現場かね。やはり、すっかり片づいてしまっている。髪の毛一本も落ちていないか」
「資料によりますと、現場には被害者の血痕、毛髪はありましたが、第三者のものと思われる物は残されていなかったようです。ギルの犯行ならば造作もないでしょうね。生き残った方もかなりの重傷で、とても話を訊ける状態ではないようです」
「死人に口無し、だな。少尉、事件当日の目撃証言はないのかね?」
「複数あったみたいですが、犯人に繋がる証言は得られなかったようです」
「事件は一週間前だったな。さて、どうしたものか」
顎に手を当て考えるライド。ギルの居所に繋がればと遥々来たが、骨折り損だったようだ。
風に吹かれてしまったのか、とライドが思っている横で、ウルは辺りを警戒していた。
「さっきからどうしたのよ。落ち着きないけど」
「感じねえか? やつの気配を」
「やつって……ギル!? 私は何も感じないけど、もしかしているの?」
「風の中に感じるんだって。ギルの殺気をよ」
「殺気!?」
ティタは、ウルの言うことを疑わずに信じる。実際、ウルの勘は当たったことがある。それでギルと邂逅しているため、疑う余地はなかった。
「大尉。ちょいと殺気を捻り出してくれないか。誘い出すって」
「私に指示をするとは。一丁前になったな少年」
「少尉。ティタと一緒に物陰に隠れてて。で、もしものときは応援頼むって!」
「分かったわ。大尉、ウル君、気をつけて」
「「了解」」
ウルとライド。二人の核師 が構える。どこからともなく吹きつける風が二人の髪を靡かせる。そのたびにウルは地を、ライドは天を見張る。神出鬼没のギルのことだ。どこから現れても不思議ではない。
「どんどん濃くなってきてるって。大尉、気ぃ抜くな」
「君もな。油断こそ大敵だ」
風がやむ。風車が止まる。風車の街には珍しい光景……。それは、嵐の前の静けさのようで……。
ガシャンと物音がする。その音の主はウルとライドのあいだをすり抜けていった。二人のあいだに吹いた風は、ルワンに吹く風とは違い邪を帯びているようだった。
「とうとう現れやがったな、ギル!」
「『今度会ったら殺す』と言ったはずだが」
「そう簡単に殺られてたまるかってんだ。テメエこそ覚えてるか。俺が『ショウの仇を討つ』って言ったことを!」
「さあ? あり得ないことに興味ないんでな」
ギルの腕がウルの首へと届く。ショウのときと同じくウルとの距離は大人の腕二本分だ。不敵な笑みを浮かべるギルだったが、ライドの稲妻に阻まれた。
「それも瞳術の力か? なるほどな。空間をねじ曲げ、物質を移動させる、か。それならば障害物があろうともお構いなしだな。通常ならあり得ないことでも可能だろう。“槍を相手の背後に上空から刺す”とか。どうなのかね? ……ギルフォード」
「ちっ、最初からお見通しかよ。できるやつは違うってことか。兄貴」
「あ、兄貴!?」
「ギルフォード――ギルは私の実の弟だ。だが関係はあるまい。問答無用で押さえる!」
「りょ、了解!」
動揺したウルだったが、ライドの変わらない目付きによって冷静になった。
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