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第32話「変身」
修練場に響き渡る声。響く動音。その中でも一際小さい身体の主は、大人に混じり汗を流す。手や足には包帯を巻いて、顔には絆創膏を勲章の如く付けている。
「そろそろ上がることだ。疲労を溜め込んでの鍛練は身体を痛めるだけだ」
「了解って。なあ、大尉……俺、強くなったかな?」
「二ヶ月前に比べたら、だいぶ身体が出来上がっている。充分に鍛えられているはずだが」
「ギルを倒せる?」
「それは無理だ。核 を習得したとはいえ、君の核 は生半可だ。まだまだ実戦では使えんよ」
「この二ヶ月、ギルの消息は不明なんだっけ。おちおち休んでなんかられないって」
「修業の前に言ったはずだが。『ギルのことは軍に任せろ』とね。君が焦る必要はない」
「んなこと言われてもぉー!」
地団駄を踏みながら、ライドに訴えるウル。ライドは手で×を作ってみせた。ウルの地団駄は激しくなる。
※ ※ ※
「そろそろウル君が戻ってくる時間ね」
キリナの腕時計の針が、十二時を差していた。並んで歩くティタの手元には風呂敷に包まれた弁当があった。
「また根を詰めてなきゃいいけど……。最近、ウルの傷が酷くなっているから」
「骨折とかではない分、結構丈夫な身体なのでしょうけど、度を越えて大怪我に繋がっては困るでしょうに」
「キリナさん。ギルについての情報で変化はありましたか?」
「無いわね。相変わらず消息不明。最近の死亡事件にも関与ないわね」
「逃げているのか……タイミングを窺っているのか。いずれにせよ、早く見つけないと」
「そうね。ワタシたちが早急に」
※ ※ ※
「……はあ、やれやれ……仕方ない。君の実力を計ってみよう。私の基準値を超えたなら、ギルの捜索を手伝わせてやる」
「待ってました! 懐が広くて助かるって大尉」
「さあ、やってみせろ」
ウルが精神統一をする。呼吸を整え、全身の力を抜いていく。目を閉じて感を尖らせる。
「はあー!」
ウルの身体を炎が包みだす。炎を纏ったウルの髪は赤く燃え上がるように染まり逆立つ。筋肉が膨れ上がることにより、鍛え上げられた身体が一層際立った。
「核 の能力の一つ、変身。珍しい能力に目覚めたものだ」
「俺って天才?」
「馬鹿者。同じタイプの能力者と出会ってからが本番だ」
「冗談だって」
(まだ完璧には発動出来ないか。だが上達はしてるって!)
「その分ならば、ギルの捜索に加えても支障はないようにみえる。よって、捜索を許可する。が、捜索だけだ。戦闘は許可しない」
「了解だって!」
ウルは変身を解くと、用意していた水を一気に飲んだ。普段は炭酸水を飲んでいたウルが水を飲む。それだけでも充分な変化だ。ウルはこの二ヶ月で様々な“変身”を遂げたのかもしれない。
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