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第30話「離れない」
メイルは困っていた。今、目の前で繰り広げられている父娘の言い争いをどう収束させようかと考えていた。
「パパには関係ないのだよ。ボクの想いはボクのものだよ」
「パパは認めない。ぜーったい認めない。十歳で色恋だなんて認めない」
両者互いに譲らない平行線。とてもメイルが口を挟める隙はなかった。
「ボクは旅を続けるのだよ。ボクの旅に口出しは無用なのだよ」
「精進の儀だからそこは仕方ない。だが、異性と旅をするのは認めない」
「……あの……えーっと」
無理矢理会話に入ったメイル。
メルの父親は鋭い目付きで見てくる。なんとかそれを耐えながらメイルはメルに提案した。
「メイルはボクが嫌いなの!?」
「そういう問題じゃないぞ。我が子を大事に思うのは当然だ。僕とは離れて旅を続けるんだ。心配事を減らしてあげるんだ」
「ボクはメイルと離れたくないのだよ。メイルと会えていなきゃ、ボクはリリッシュにも着けずに挫けていたのだよ」
「だからだ。だから、まずは君が一人でも立派に旅ができることを証明するんだ」
メイルの眼差しがメルの心に突き刺さる。メイルの言っていることは充分に理解できる。理解はできるが、想いが決断を鈍らせる。メルは、メイルの身体に飛びついた。驚くメイルだが拒絶をすることはなかった。頭を撫でてゆっくりと剥がす。泣いているメルの涙を拭って、にっこりと微笑んでみせた。
「メルのお父さん。僕、彼女とはここで別れます。だけどお願いです、彼女と会うことを許可してください。彼女の気持ちは承知してますが、僕にとってはまだ友達です。友達と会うのは許してほしいんです。お願いします!」
頭を下げたメイル。人に頭を下げるのは、旅を始めて二度目だ。最初は自分のためだったが、今回は他人のためである。それを見たメルの父親は「分かった」と了承した。メイルは深い溜め息をついて座った。
※ ※ ※
「それでは気をつけて。無事を祈る」
メルの父親がメルを見送る。そこにメイルの姿はなかった。
(……メイル……メイル……)
メルは恋心一色だった。メイルのことを考えまいと思えば思うほど、その想いは強くなってしまう。ポツリポツリと涙を流して立ち止まる。大粒の涙が地面を濡らす。彼女の視界は涙で閉ざされた。
(ボクは……こんな気持ち……初めてだったのだよ!)
十歳の初恋。その初恋は実らず埋もれた。芽吹くことを許されなかった種は芽吹くことを諦めた。種は種のまま、想いを封じ込めて埋まることに決めたのだ。
(バイバイ。ボクの恋)
「おーい! さっきから呼んでいるんだぞ」
「え!?」
木に凭れかかり呼ぶ少年。金髪の少女の初恋の相手が、目の前で待ち構えていた。
「待ちくたびれたぞ。僕をいつまで待たせる気だったんだい?」
「ど……して?」
「友達と会うのは許してもらえたろう。僕はそれを守ったまで」
「最後のお見送りのつもりなの?」
「何を言ってるんだか。行くぞ」
「え? でも……」
「いつまでも追っては来ないさ。あの場は、ああでも言わないと収まらなかった」
「ボク、メイルと一緒にいたい。いたいのだよ!」
メイルに駆け寄り抱きつくメル。メイルは案の定照れている。そんなメイルの頬に柔らかい感触が伝わった。
「……君は……な、何をっ!?」
耳まで赤くなるメイルをよそに、メルはとびきりの笑顔を見せた。
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