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第29話「頼み」

 翌朝。ティタは、当たり前のようにウルの部屋に入っていくと、ウルの耳をつねる。深い寝息を立てているため、なかなか起きない。 「ウル!」  耳元で叫ぶティタ。身体を揺らして目覚めを促すが、ウルはビクともしない。こんなことはティタにとっては日常茶飯事なのだろう。ウルのシャツを捲し上げると、へその辺りを(くすぐ)り始めた。 「う……ううううぅぅ……ははは! やめろぉーって!」 「起きるまでやめないよ。観念することよ!」  擽る指の速度を速める。ウルが目に涙を溜めている。その様子を見て、ようやくティタは擽りをやめた。 「おはようウル。私が起こしに来なかったら、いったい何時まで寝てたのかな」 「……なんじ……?」 「九時。ここまで寝かせてあげたんだよ。感謝してよ。さ、起きた起きた!」  ウルの背中を叩いて気合いを入れるティタ。  ウルもなんだか慣れている。顔を洗いに起き出すウルを確認すると、ティタは自分の部屋から荷物を運び出した。 「で、どうするよ。もう少しロイズを見ていく?」 「いや、もういいだろ。ギルの動向が気になってしょうがない。先に進もう」  すっかり目を覚ましたウルはテキパキと支度を始める。寝起きのときとは別人のようだ。とはいってもこれといって荷物はない。 「何か必要な物ってないの? いくらなんでも荷物を持たなすぎだよ」 「必要な物はお前が持ってるから要らない。じゃあ行こう」  二人はホテルをあとにした。ロイズの次の行き先を考えていると、ティタの視界に、ある女性が入ってきた。 「昨日の軍人さん」  走り出すティタだったが、女性の真剣な表情から物事を察して距離を取った。女性と相対する男は、老婆を人質にして抵抗している。 「このババアを殺されたくなけりゃ、今すぐに車と金を用意しろ! ヘタな真似をしてみろ。このババアの首をへし折るぜ!」  男は腕を老婆の首に回している。少しでも力を入れれば確実に折れてしまう。現場に緊張感が漂う。 「軍の司令部があるロイズで犯行だなんて、なかなかに根性あるようね。ワタシを見ても動揺していないもの」 「軍人なんか見慣れちまった。怖くもなんともないぜ。早く用意しろ!」  男の腕に力が入る。女性は司令部に要求内容を伝えると腰にぶら下げていた銃を捨てた。 「これでワタシは丸腰よ。よかったわね」 「上出来だ。それでいい」  均衡したまま時間だけが過ぎていく。そんな緊張感を車のエンジン音が解いていった。軍が用意した車が現場に到着した。男は老婆を突き放すと、一目散に車へと乗り込みアクセルを踏んで走り出す。男の勝ち誇った声が車から聞こえてきた。 「軍人さん、あのままじゃ!?」 「あら、ティタちゃん。大丈夫。ワタシたちは犯人の要求を飲んだけど、逃がすつもりはないから」 「え?」 ※ ※ ※ 「さあて。これから豪遊し放題だぜ」 「そうか。豪遊とは楽しみだ」 「そうだろう……え!?」  後部座席から聞こえる声。余裕と自信を感じさせるその声は、運転席で勝ち誇っていた男に追い討ちをかけるには充分だった。 「出血大サービスで、車と金を要求した記念として軍人を付けてあげた。ボディーガードにはうってつけのはずだが……お気に召したかい?」  男の心境は最悪だった。天国から地獄とはこのことだろう。車はよろけながら壁に追突して停まる。  車から降りて走り出す男。  後部座席から降りた軍人は、持っていた煙草を取りだし、逃げる男に投げていく。 「私の貴重な煙草の数だけ、罪人は罪を償わなければならない。思い知るがいい」  軍人から一筋の稲妻が先走る。煙草が激しく燃え、男に雨のように降りかかった。  叫ぶ男だったが、軍人は退屈そうに煙草に火をつけて吹かしていた。 ※ ※ ※ 「少尉。すまないが煙草をくれないか」 「駄目です。犯人確保に使った分を差し引いても、本数が減ってます。喫煙数が明らかに増えてますよ」 「私の楽しみを奪わないでくれ」 「『煙草の吸いすぎで上官が死んだ』と報告は出来ません。我慢してください」  キリナの鋭い眼光がライドにそれ以上の発言をさせなかった。 「キリナさん、かっこよかったよ」 「あら。ティタちゃんは褒め上手なのかしら」 「……ライド煙草ダメダメ軍人さん。えーと……」 「少年。私はライド大尉だ。ダメダメ軍人ではない」 (煙草の否定はなしかって!?) 「で、言いかけていたが」 「……大尉はその……(コア)、使えるの?」 「さっきの私の活躍の通りだ。私は稲妻を自由に発電させることができる。それがどうかしたかい?」 「俺、(コア)を使いたいんだ。コツを教えてほしいんだって!」 「精進の儀の最中だそうだが、急ぎはないのか?」 「俺が(コア)を使いたいのにも理由がある。理由を話すから!」  ウルの目がライドの目をしっかりと捉えて離さない。 「よかろう」  ライドは、ウルに付いてくるよう促した。
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