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第27話「紹介」
翌朝、メイルはメルを起こしに隣の部屋に向かった。ノックをして待つ。だが、一向に出てくる気配がない。昨日のように抱きついてくると思っていたため、余計に不安になる。
「僕がわざわざ起こしにきてやってるんだぞ。僕がノックをしたら、有無を言わず起きるのが筋だ」
まったく反応がなく、ドアノブを回す。するとどうだ。鍵はかかっておらず、メルの姿は消えていた。窓が開いたままになっており、カーテンが靡いている。
「冗談……ではないか」
特に部屋は荒らされておらず、争った形跡も見受けられなかった。ここはホテルの三階。まず、十歳の女の子が飛び降りて無事な高さではない。
「連れ去りか? 彼女を連れていくとは物好きだ」
昨日買ったクッキーやビスケットがテーブルに置かれていた。食べかけの状態で。
「面倒だが、捜さないわけにはいくまい」
メイルはホテルを出て走り出した。アテがあるわけではないが、走らずにはいられなかったのだ。
(争った形跡はなかった。つまり、顔見知りの仕業)
昨日の靴屋の通りへ。相変わらずの商の賑わい。骨董品や金物を買っている人が大勢いる。街の人たちに訊いて回るが、有力な情報を得られずにいた。
「くそ!」
汗を滴ながら走り続ける。そんなメイルの体力は徐々に奪われていく。飲み物を買い喉を潤す。しかし、そんな簡単に体力は戻らない。
「本当に世話が焼ける。昨日の今日で僕をこんなに振り回すとは……」
(このまま、一人で旅に出るのも)
諦めの溜め息をついたとき、メイルの視界に金髪の少女の姿が飛び込んできた。「メル!」と呼びかけるが反応がない。仕方なく近づいていくメイルだが、徐々にその距離を離していく。
「いや、このままでいい」
自分に黙って行ったのは、さよならということだろうと思ったメイルは踵《きびす》を返す。
――助けて。
「……何だ?」
――助けて!
メイルの左目に声が聞こえる。必死な涙声の少女。その声は次第に大きくなっていく。メイルの胸騒ぎが心臓の鼓動となって高鳴る。
――助けてなのだよ!!
再び踵を返した瞬間、メイルの拳は男を殴り飛ばしていた。背中で「ありがとうなのだよ」と呟く少女に、メイルは一安心した。
「知り合いか?」
「一応……パパ」
「なんだと!?」
「本当なのだよ」
殴り飛ばされた男は、ゆっくりとメイルの方に向かってくる。笑顔を装ってはいるが、おそらく笑ってはいない。
「メル、駄目だろう。友達を利用しちゃあ」
「利用じゃないのだよ。それにメイルは友達じゃないのだよ」
「じゃあ何かな?」
「ボクの将来の旦那様、なのだよ」
「「は!?」」
動揺するメルの父親とメイル。そんなことメイルは認めた覚えはない。完全に寝耳に水のことで混乱する。
メルの父親は余程ショックだったのか、その場に塞ぎこんでしまった。
「ど、どうしてそうなる!?」
「昨日、ボクに抱きつかれて照れたじゃん。ボクのこと、好きなのだろう?」
「あ、あれは……いきなり女の子に抱きつかれたからで――」
「――娘に手を出したのか!」
「違う。断じて違う!」
「野蛮な獣があ!」
「違あああ……」
メルの父親からの執拗な問い詰めに、メイルは必死に否認するしかなかった。
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