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第21話「弔い」
昼食をとった二人は、襲い来る睡魔と戦いながら歩いていた。太陽のほどよい気温が眠気に追い討ちをかける。
「眠いのだよ~」
「歩くんだ。歩いていれば眠気など吹き飛ぶぞ」
「ボクを背負ってほしいのだよ」
「冗談じゃない、僕が疲れるだけだ」
「メイルのケチんぼ!」
「何の得にもならん。つべこべ言わず歩くんだ」
自分の腕に絡まってくるメルを引きずりながら、メイルは懸命に足を動かしていく。暫くして、人とのすれ違いが増えてきた。
「リリッシュは近いぞ。さあ、ちゃんと歩くんだ」
「ボクは、か弱い女の子なんだよ~」
「か弱いのなら、僕の腕を締め付けるな」
メイルの頑張りによって遂にリリッシュへと辿り着いた。疲労困憊のメイルに比べ、着くなり走り回るメル。
堪らずメイルは座り込むと、履いている靴に視線を落とし、この街に来た目的を再確認した。
「メル。僕の用を済ましたい。早速だけど、僕の靴を買いにいく」
「いいよ。なんなら、ボクが靴を見立ててあげるのだよ」
「自分の靴くらい自分で選ぶ」
街の人からオススメの靴屋を訊いたメイルは、その靴屋へと脇目も振らず向かった。
「すみません。僕の履く新しい靴を探しているのですが、何かいいのありますか?」
「足を見せな」
店主に促されるがまま足を見せるメイル。店主は注意深くメイルの足を見て触る。一通り見終わると、店主は店の奥から靴を持ってきた。
「ボウズ、よく歩くだろ。靴底の減り方を見れば分かるんでな」
「歩くのは好きなんで」
「こいつならボウズに似合いだ。だが、いいもんには相応の値が付くんだ。ボウズに出せるかな」
そう言われメイルは送迎書を見せる。
店主の口元が少し歪む。
「賢いなボウズ。送迎書《そいつ》を使える歳《いま》のうちに、いい靴に履き替えようだなんてな」
「どういたしまして」
店主が靴をメイルに履かせる。メイルに合わせて調整を済ますと、メイルが履いていた靴を大事そうに箱にしまった。
「今までボウズの足を支えてくれたんだ。それに対してしっかりと答えてやらなきゃならない」
「どういうわけだ?」
「弔ってあげるんだ。靴だって生きてるんだ。役目を終えたら当然死ぬ。この靴を作った職人に代わって見送ってやるのさ」
「弔う、か」
メイルの脳裏にショウの姿が浮かぶ。何気なく履いていた靴とショウを重ねたメイルは、店主の言葉に動かされ見送ることにした。
※ ※ ※
「なんか分かんないけどよかったのだよ」
「おかしなことを言うんだな」
「だって、さっきまで履いてた靴を燃やすんだよ。なんか……こう、心にくるって感じなのだよ!」
「君と僕の靴の付き合いなんか数時間だ。まるで長年の夫婦の別れみたいに言うんだな」
「いい例えするのだね、メイル」
「だっ、黙れ。そして僕に引っ付くんじゃない!?」
「照・れ・な・い・の・だ・よ」
(クッ、クソッタレ)
複雑な心境の中、メイルは新しい靴の履き心地を堪能しつつ、メルを連れてリリッシュを歩いていった。
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