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第17話「列車の暴れん坊」
「ふわあ~」
「ちゃんとしなさいよ。いい加減、朝弱いの直したらどうよ」
「眠いもんは眠いって。俺の朝の苦手っぷり、舐めちゃ駄目だ」
「誇らない。毎朝、私が起こしてあげなきゃ本当にいつまでも寝てるんだから」
「今日も起こしてもらって助かった」
「感謝されるのは嬉しいけど、それとこれとは話は別よ。はい、シャキッと目を覚ましなよ」
ティタは水を差し出す。
ウルは水を受け取ると、ガブガブと飲んでいく。
「この水、美味いな。なんでだ?」
「知らないよ。ウルって普段からあまり水を飲まないからじゃない?」
「そう言われれば」
「毎日、コップ一杯は水を飲みなさいよ。身体にもいいんだから」
「考えとくって」
「で、どこで降りるかは決めたわけ?」
「いいや。ティタが決めてくれって」
「そうやって人任せにする。自分で決めなさいよ」
「決められないから言ってんだって」
「変なところで優柔不断なんだから」
ティタの説教を聞き流しつつ、ウルは景色を眺める。車窓から覗く景色は、一つの絵のように鮮やかであった。
「聞いてるの!」
「聞いてるよ」
「もう!」
頬を膨らませてティタは拗ねる。
ウルはティタが膨らませた頬を突いて遊んでいる。ティタは、そんなウルの行動に顔を染めてしまった。
「顔赤いけど……どうした?」
「知らないよっ!?」
二人を乗せた列車が停車した。「降りる?」とティタが訊き、ウルは「いいや」と返事した。
※ ※ ※
「くぅ~……」
いくつもの駅を乗り過ごし、ティタは座っているのが退屈になってきた。ふと隣を見れば、ウルは寝ていて話せない。景色は変わるものの、大きく変化があるわけでもなく次第に飽きてきた。
「お爺さん、食べますか?」
「ありがとう、オバサン」
通路を挟んで座っている老夫婦。ティタはなんだか羨ましくあった。お爺さんの姿とショウの姿を重ねる。自分にもっと力があったなら、もしかしたらショウを死なせずに済んだかもしれないという思いが湧き上がる。
(このままじゃ、私だって死んじゃうかもしれない。左目に勝つ自信なんかない)
「食えないって……むにゃむにゃ……」
(呑気に眠っちゃって。どんな夢を見てるのか知らないけど、幸せねアンタは)
コツンとウルの頬を突くティタの表情はウルを羨ましがりながらも、どこか嬉しそうである。
「オンボロ列車だ!」
「壊しがいがあるね」
二人の少年が列車に乗り込んできた。とても態度がいいとは言えず、空いてる席に座るなり大声で話し出す。
(なんなのよ、あれ!)
ティタは不快感を覚える。
二人の少年は、持っていた飲み物を周りの乗客にかけ始めた。その乗客の中にはあの老夫婦も。かけられた乗客が注意をするが、二人は聞く耳を持たない。それどころか、段々とエスカレートしていく。
「あはっはっは!! 窓が割れた。流石はオンボロ列車。壊れるさまもオンボロだ!!」
「見て見て見て。壁も簡単に壊れるね」
「これこれ、やめんか。列車にイタズラにしてはやりすぎだよ。その辺にしときなさい」
「お爺さんの言う通りだ。元気なのはいいことだが、それとこれとは話が違う」
「うっせーんだ老害! 長生きだけが誇りの逝き遅れ!」
「そうだそうだそうだ。さっさと灰になっちゃってね」
二人の少年の暴言に車内は怒りに満ちていた。それはティタも例外ではなく、我慢の限界がやってきていた。
「ちょっとアンタ達! オジサン、オバサンに失礼じゃない! 謝りなさいよ!」
「はあ? 誰だよオマエ。喧嘩売ってんのか」
「謝りなさいって言ってるのよ!!」
ティタの言葉に目くじらを立てる二人。立ち上がりティタの席へと来るや、いきなり殴り倒してきた。
「このフウマ様に喧嘩を売るなんて生意気なんだ。ふーん。よく見ればかわいい顔してるじゃないか。このフウマ様の彼女にしてやってもいい」
ギリギリとティタの顔を踏みつけながら笑っている。お爺さんが止めに入るが、逆にフウマの拳を喰らってしまった。気を失ったお爺さんを心配するお婆さんだったが、もう一人の少年の手で気を失ってしまう。
「ライ。手始めにその老害殺せ。見せしめにしてやる」
「うんうんうん。精進の義として殺しちゃお」
ライが、持っていた硬貨を刃物に変えてお爺さんに突き刺した。ほかの乗客が止めにいくが、刃物になった硬貨が飛んでいきて乗客を刺していく。
「動いたら殺す殺す殺す。まあ、全員殺すけどね」
「よくやった、ライ。ふふふ。このフウマ様に見逃してほしければ――!?」
フウマの腹部に激痛が走る。真っ直ぐ伸びた石ころは、フウマの脇腹を刺していた。
「私も核師 よ。そのくらいの傷なら、掠り傷と大差ないよ」
「かわいい顔してえげつない。ますます、このフウマ様の好みだ」
「キモい! 私の対象外よ」
「尚更……欲しくなった」
ティタの顔に手をかけ、フウマが顔を近づけていく。
ティタにとって地獄の瞬間である。石を深く刺していくが、フウマの顔色は変わらない。
(なんで!?)
ティタは視線を落とす。フウマの脇腹に刺さっていた石ころは無惨にも砕けていた。
「残念だった? 創造と破壊は表と裏だ。作れるんだから、壊せるのは当然だ」
ライの攻撃に狼狽えて乗客は動けずにいた。フウマの唇がティタの唇に迫る。
力負けして抵抗できないティタの目には、悔し涙が溢れていた。
(こんな奴に……こんな奴に私は……!!)
諦めかけていたティタの身体が後ろに引き寄せられる。ティタに迫っていたはずのフウマが、鼻を押さえている。
優しく涙を拭う手にティタは安心した。
「俺の幼馴染を泣かせたのはテメエか。自分のことを様付けで呼ぶ奴が、女の子一人も喜ばせられないとは情けないって」
「……よくも……このフウマ様の鼻を!!」
「知るかって。自分勝手も大概にしろ、お子さま野郎が。 ティタを泣かせたんだ。許さねえ!」
ウルは拳をボキボキと鳴らし始めた。
寝起きの彼は、随分と機嫌が悪いのだ。
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