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Gate Of Sin

「ねーぇー、暇ぁ」 「じゃ仕事取ってきたら?」 怠惰……あらゆる宗派で悪とされるそれをむさぼるリル・デビルとまるで子猫のように姉御にじゃれつく手下の女。 リル・デビルは日々、罪を犯すことによりそれなりの稼ぎを叩きだしていながらも、ねぐらはずいぶんとみすぼらしいものでもあった。船橋の繁華街から少し離れたところにある、デジタルストリーミングサービスの拡大で廃業したレンタルビデオ店の跡地が彼女とその仲間のねぐらである。元々多様な作品を人々に提供していて娯楽の供給を担っていた店内は、今やいかにもだらしないならず者のねぐらという風体で、あちこちに煙草の吸殻が落ちていて、今だってリル・デビルが過去に稲毛で拾ってきた手下が食べ終わったハンバーガーの包みを無遠慮に床に放り投げた。アジトの中には全員揃えばリルを入れて総勢五人いるはずだが、これはリル・デビル率いる船橋発ローカル零細ギャング、バタフライ・チルドレンのフルメンバーである。しかし、リルと腕や首や、ミニスカートから見える太ももに大量の切り刻んだ痕がある女以外今日は各々自分の仕事を片付けに出かけている。何かと都合がいいので寄せ集まっているだけで、彼女らは基本独立採算制である。みかじめもないし、給料は自力で稼がねばならない。この孤立時代にはふさわしい立ち振る舞いかもしれない。 リルは今日珍しく外に一歩も出ていない。どちらにせよ、リルは街は嫌いだった。そして街以上に、人が嫌いだった。君子危うきに近づかず、というのをこの危険人物が実践しているのもおかしな話ではあるが、金はしばらく食べてゆくには十分にある。リルはマルボロをくゆらせたまま、ソファとベンチプレスとベッドを兼用している接合したビールケースの上に横たわったまま、朝から用を足す時以外はずっとうつろな目で何も食べす、飲まず、瞑想でもしているかのように煙草を延々と吸い続けているだけであった。 「彩花、やめな」 「今日はもう一日何もないってわかりきってるもん」 寝そべるリルの腹の上にジェンガを組み立てていた手は払いのけられ、自分の体を切り刻むのが趣味の彩花は不服そうに散らばったジェンガを蹴り飛ばした。ピンクと赤に染めた髪は、裏稼業をする上では目立って仕方がないようにも見えるが、この2040年代ではかなりの流行で若者は皆不自然な髪色をしているのでかえって目立たない。 「あんた、海神組の賭場の用心棒はどうしたのよ」 「ガサ入れでみんな捕まったー」 「フィリピンパブの女将の代理は?」 「お店潰れちゃったー」 「佐藤建設の月イチ恒例の洗濯(*資金洗浄のこと)の手伝いは?」 「税務署に凸されたー」 「じゃ何、あんた今ただでさえ無職なのに、収入源が完全にないってこと?」 「ピッタシカンカンね」 「ハァッ、千葉は今47都道府県の中で一番貧乏だって言うけど……そのアオリをモロに喰らったね。ホント住むとこ間違えちゃった」 「どこもそんな変わらないよ」 彩花は用もないので、寝そべるリル・デビルに巻き付きながら話を続ける。 「リル、今1ドル何円か知ってるの?」 「知ったこっちゃない、あたしの世界は目の前だけだから」 「800円だよ、もうこの国ほぼ終わってるようなもんだよ」 「アタシが金のことでムカつくのは酒と煙草の値上がりと報酬の後払いだけだよ。あと必要なもんは奪うか合法的に買う、それだけだよ」 「ホントにクール!」 彩花は懲りずに、リルのシャツを捲ろうとして、その手をピシャリとやられた。これが知らない相手なら、喉にナイフが突き刺さっていただろうが。 「久しぶりにヤんない?」 「百合やるとエイズになるかもしれないからヤダ」 「大丈夫よ、この前見てもらった時はシロだったから」 「かかったかわかるようになるまで2ヶ月はかかるって知ってる?あんたみたいに老若男女問わず人を見たら欲情しちゃうような性病自販機とか、エイズの橋渡しみたいな例えしか出てこないようなヤツとはヤんない」 「すっごいムラムラなんだけど」 「じゃ、股に麺棒でも入れたら?」 「この前あんた、登志がやらかしてお仕置きした時、折れるまでぶん殴るのに使ったじゃない」 「あのガキはアタシに殴られて喜ぶから、そこまでしなきゃ反省させられないんだ。てかラーメンでも作るわけじゃないのに誰が麺棒なんか買ってきたのよ……って」 リルは起き上がり、猫のように伸びをして煙草を床に落とし踏みにじると気だるげに立ち上がり、寝起きの立ちくらみを少し楽しんでからため息混じりに続ける。 「マック行かん?夜になったら面倒だからご飯済ましちゃおう」 「行こう、今月の期間限定はジンバブエ風象の煮込みバーガー(*アフリカの一部地域では象食の習慣がある)だってよ」 リルは緩めていたトラックパンツの紐をあらためて締めると、MA-1を羽織って尻のポケットに財布を入れ、事務所から出ようとしたその時、誰かが階段を駆け降りてくる音を聞いて舌打ちをした。 「彩花、悪いけどあんた一人でテイクアウトしてきて。3人分ね……飛び込みのお客さんだ」
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