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(第1章 農村で暮らす死者、トリニティとの再会)

 そこは、農場だった。 皆は一生懸命に野菜を植えたり、牛や羊、馬や豚などの世話をしていた。 ニールは辺りをキョロキョロするが、これと言って珍しい物は見当たらない。 「なあ、神官さんよ。ここにいる奴等、皆、死人なのか?」 「はい。まあ、殆どがそうというわけではありませんがね。この世界の農園を手伝ってもらっています。あなたが知らないだけですが、この世界の死人達は特別なのです」 「特別?」 「そ、ほら、例えば、あそこで仕事をしている子供は、子供の頃から戦闘訓練だけをつまされ、生体CPUとされた子供です。その他、この世界で、新しい生活の為に、今一生懸命勉強中なんですよ。まだ小さいですから、出来る事に限りがありますからね。それと、あそこの黄色い女の子も同様です」 「あいつ戦争の……」 「ええ。エクステンデットと言われ、小さい時から戦闘訓練ばかりつまされ、記憶も改ざんされて生きてきました。なので、ここで新しい生活をしています」 「子供の頃から、そんな……」 彼は刹那・F・セイエイの事を思い出していた。彼も少年兵として、戦場を駆け回り、ガンダムに乗っていた。 そして、自分の目の前で死んだのだから、ショックもさぞ大きかっただろうと思ったのだ。 「気になりますか? 彼等が」 「!」 シスターであるアリアに見抜かれ、ニールはビックりした。 「ウフ。大丈夫ですよ。彼等なら、立派にやっています。後、あなたの弟さんも」 「知っているのか? ライルの事」 「はい。私達は、直接手を下す事なく、あの世へ逝く魂を選別しているんです。そのままあの世にいかせない為に」 「どういう事だ?」 「そこは僕が説明しよう。あの世に逝く者には、悪者も必ずいる。だからそんな奴は、この世界の最下層で、たっぷりと反省させるんだ。自分がしてきた事全部をね」 「するって~っと、アリーアル・サシェスは……」 「心配しなくていい。彼も最下層にいる」 「けどよ。そんな悪ばっか集めてたら、なんかおっぱじめないか? 俺としては、そっちが気になるんだけど」 「一応見張りは徹底している。あ、後、君がよく見ていた敵がいたな」 「え?」 「たしかトリ……」 「トリニティもいるのか? ここに」 「あ、ああ。彼等ならホラ、あそこだよ」 ニールがそちらを見ると、それ専用の服を着て、作業しているヨハントリニティを見つけた。 「あいつ……何やってんた?」 「あれは、競馬用の馬だよ。それの世話を任されているんだ」 「え? じゃああっちも?」 と、ニールが指さす先にいたのは、ミハエルトリニティだったが、背丈は、小学5年生くらいまで縮んでいた。 「あれ? あいつ……なんであんなにちっちゃくなってんだ?」 「彼は、ガンダムに乗る為だけに生まれて来た、デザインベイビーだからですよだから、1から人として生活できるようにしたんです。 彼の仕事は、馬に走る事を慣らせるという作業をしていた。何しろ競馬には、騎手と馬の相性もそうだが、馬で差が出る為、彼等も力が入る。よく食べて、よく遊んでよく走る。 簡単そうに見えても、かなり難しそうだが、彼等の想いは馬にも伝わっているのか、ちゃんと気持ちに答えてくれた。 「よ~しよ~し。良いか? 今からお前にこのコースを走ってもらう。しかも当日じゃ、ライバルの馬も出て来る。その為にもまず、走る事に慣れないとな。おやっさん。準備できたぜ!」 「お~。どれどれ……お~足がシッカリしている。フム筋肉も良い。こりゃ相当な馬になる。だがミハエル。一番頑張らなきゃならんのは騎手だ。騎手の指示で馬はどう走れば良いかが分かるのだ。 「つまり、俺がシッカリしなきゃって 事だろ? 任せとけ」 「フフフ。ではその前に、場慣れと同時に、他の馬を見ても大丈夫なようにしないといけないからな。 「ヒヒーン」 「ネーナ。準備は良いか?」 「ヒン!」 「では、準備するかの」 「え? ああ、あいつも出すのか?」 「ああ。ワシが育てた馬だ。久しぶりにあいつも走りたがっておってのお」 と、その馬担当の、カルス・エネガルが育てた競走馬は、これまでこの世界では、1,2を争うほどの馬で、先日、歳が歳な為に引退をよぎなくされるが、本人は走りたかったらしいので、新しい馬が出来た時、走らせようと準備していたのだ。 その馬は黒く光って見え、目は優しいが、足もしっかりしており、こちらの馬も迫力では負けていなかった。 「すっげえ迫力」 「ヒヒーン」 と、こちらの馬もやるきまんまんだ。 「ではどのくらいの速さかを見てもらおうかの~」 と、彼は自分が育てていた、ブラックシャインを、競馬用のスタート地点に立たせ、ミハエルが乗る馬も、そこに入れる。よっしゃ行こうぜ!ネーナ!」 そして、その声と同時に扉が開き、2匹をほぼ同時にスタートする。 流石に走る訓練はしてきたが、直線からの坂道ではかなりの力を使う。そこをうまくコントロールするのが一番難しかったが、日を重ねるうちに、慣れて良き、坂を上り切った所で曲線を曲がり、 いよいよ最後の200mに達した。 「良いぞネーナ。後もう少しだ!」 「それはどうかの~」 「何!?」 と、あれだけ後ろにいた、はずのブラックシャインが既に自分の真横に来ていたのだ。 「それじゃ、気合で行くかの~若いの」 「チィ! そっちがその気なら、こっちだって負けねえぜ」 「ヒヒーン!!」 と、ミハエルの言葉に答えるかのように、直線を走った。 そして、2頭はほぼ同着だった。 「ほ~! まさかここまでするとはな~」 「へ~へ~疲れた~」 「おいネーナ。大丈夫か」 「ヒヒーン。ブルル」 「ヒンヒン。ブルル」 「ホホホ。ブラックシャインも喜んどるワイ。腕のいい奴と闘えて良かったとな」 「こんなもんじゃ終われねえ。俺だって、さっきの直線でビビっち待ったが、馬も大事だが、一番大事なのは、操る方だろ?」 「そうじゃ。まずは、騎手が馬をうまく走らせるようにせねばいかん。お主はそっちの練習をせんとな。それに、ネーナもよく頑張った。ところで、一つ疑問だったのじゃが、なんでこの名前に?」 「あ、ああ。兄貴が決めたんだ。なんだか引っ掛かりを覚えるから、この馬に付けたいって言いだして」 「ほ~ヨハンも頑張ってくれておるの」 「まだ、馬に乗る事はできないが、せめて、掃除とかそっち方面が、出来るようにならないとな」 「フムそうじゃの。まずは、お主、よく1人で前に出ておらんかったか?」 「ゲッ!」 「やはりの~。まずは、そっから治した方が良いかもしれん。騎手が落ち着いて、指示を出す事で、馬もどうして良いか分かる。馬と走る時は、殆どシンクロした状態で走る事になるからの」 「ヨッシャ! 頑張ろうぜ! ネーナ」 「ヒヒーン」 と、そこへ、ポニーに乗った、ニコル・アマルフィがやって来た。 「カルスさん。こんにちは」 「お~ニコル君か」 「ヒヒーン」 と、彼は、真っ白な白馬のポニーに乗っていた。 「フフフ。エリザベスも元気そうじゃの」 「ん? 君は?」 「あ、僕、ニコル・アマルフィ。この子はエリザベスです。中都市で、ちょっと動物のイベントが有ったので借りていたのですが、どうも僕になついちゃいまして……てうわ~~~ちょちょ、落ちる落ちるってばエリザベス~」 「ハハハハハ笑ってないで助けてくださいよ~」 「ハハハ。エリザベス。その位にしてやれ」 と、カルスにいわれれ、しゃがむと、ニコルはようやく降りる事が出来た。 「フ~~~」 「大変だなお前も」 「あ、ミゲル! お久しぶりです」 「コンサート。良かったぜ」 「あ、見に来てくれたんですか?」 「ハハハ。冗談半分に応募したら当たってよ。それで見に行ったんだ」 「ありがとうございます」 「へえ、お前も仲間いたのか」 「あ、はい」 「よろしくな。ミゲル・アイマンだ」 「ヨハン・トリニティです」 「ミハエル・トリニティだ。で、こいつが俺の担当している馬、ネーナだ」 「この作りからして、競走馬用ですか?」 「ああ。もうすぐこいつもデビューする事になってる。今のうちに、うんと調教しておかなきゃな」 「ブルルル」 と、皆が話している時、ヨハンが掃除していた、馬が、ニールに気付いた。 「ヒヒーン」 「ん?」 「あれ? お前も着てたのか?」 「いちゃワリィかよ」 「ほう。お前さんも死人か」 「アリーアル・サーシェスと共にどころか、あいつが生きてて、結局、弟がやってくれたよ」 「弟がいたのか」 「ああ。ライルってんだけど。双子ってのがどうも嫌だったらしくて、別の学校でテロの事も知らなかったらしい。で、刹那がライルに気付いてCB入りしたんだけど、色々あってな。今は操縦士の方をしてる。あいつ。今頃どうしてるかな~」 と、考えてる時、 「ぐ~~~~~~~」 と、その場を壊す様な音が聞こえた。 「う……」 と、ミハエルが赤くなると、 「カランカラーン」 という音が鳴った。 「昼食の時間だ。さて、皆で食堂で食べよう」 そして、野菜などは、かつて生体CPUとされて来た、クロト、オルガ、シャニが、野菜畑から、新鮮その物の野菜を取り、肉は、トール・ケーニヒと、地元民で食堂へ運び込んだ。 調理場の方では、いそがしく作っているところへ、農家の人達は手を洗って席に着き、ニールもその仲間に加わった。 はたしてどんな料理が出てくるのかが楽しみになった。
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