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最終話

「根音!」  響木のプレイを見終えた後、他の企業ブースを見ていた俺であったが、観客の対応を終えた響木が俺の元にやってきた。 「おお、響木。クリアおめでとう」 「うん!」  響木は渡されたグッズの入った袋を大事そうに手に持っている。 「袋の中には何が入っていたんだ?」 「開けてみるね」  響木は袋の中身を確認した。袋の中を覗き込むと、CDやアクロリスタンド、パスケース、マグカップなどが入っていた。 「うわぁ……すごい豪華だ。嬉しいな」  グッズは怒首領蜂シリーズのグッズより、『ゴシックは魔法乙女』というゲームのグッズのものが多かった。  『ゴシックは魔法乙女』はスマホゲームで、俺も何度かプレイしたことがあるがかなり面白いゲームであった。しかし、難易度は結構高めである。 「うん! 根音はまだ休憩時間?」 「いや、そろそろ終わりだな」 「そっか。それじゃ、一緒に戻ろうか」 「そうだな」  大方、見たいところも周ることができた。響木と共に自分たちのサークルスペースへと戻った。  俺たちが戻ってきたことに気づいた真斗は軽く手を振ってきた。 「やぁ、真斗くん、響木ちゃん。ちょど今ゲーム完売したよ」 「おお、そうか」  ゲーム完売か。良かった……とても嬉しいものだな。 「それじゃ、みんな片付けしようか」  片付けを開始することにした。ポスターを剥がし、展示用のグッズをしまう。片付けしていると、なんだか物寂しくなってくるな。 「それじゃ、みんな先に僕は帰っているから。今日の七時に打ち上げだから、遅れないようにね!」  真斗は一足先に帰っていった。麻友と響木もコスプレエリアに向かうと言い、その場から去っていった。  残ったのは俺と黒夢のみである。 「根音、お前はこれからどうする?」 「一度家に戻ろうと思うけど」 「そうではない。これからについてだ。ゲーム会社で働くのか?」  予想外の質問をされて、思わず戸惑ってしまった。 「ああ……そのつもりだけど」 「ゲーム会社で働いたら、サークルはどうする?」 「一応、続けるつもりだけど……」 「そうか、良かった」  黒夢は安心したように微笑んだ。 「一体、どうしたんだ?」 「いや、なんていうかサークル活動が楽しくてな。私はできれば来年も根音達と一緒にゲームを作りたい。今回はお手伝いしか出来なかったが、今度はもっとみんなの役に立ちたいのだ」  サークル活動が楽しいか……本当にその通りだ。ゲーム作りは大変だが楽しい。  真斗、麻友、響木、雛菊、明梨さん、そして黒夢。みんなと一緒に作るから楽しさが増すのである。 「そうか。一緒に頑張ろう。来年はもっと……すごいゲームを作ろうな」 「もちろんだ」  秋葉原にある某焼肉屋にて。サークルコバルトのメンバー達が集まっていた。  コミケには仕事の都合で参加できなかった雛菊と明梨さんも揃っていた。 「あー、私本当にコミケに行きたかったわ! プレゼンさえなければ……本当にもう!」  雛菊はコミケに参加できなかったことに対し、とても不満を感じているようだ。 「まぁまぁ、雛菊さん。無事完売できたことだし」  不機嫌そうな雛菊を真斗がリーダーらしく宥めた。雛菊は脚を組み、諦めたように大きなため息を吐く。 「まぁね。無事完売できたようだからいいんだけどさ……」 「それより、乾杯しない?」  麻友が乾杯するよう促した。乾杯を行う際、グループ内において、最も上の立場の者が行うことが多い。 「それじゃ、真斗。よろしく頼む」  俺が頼むと、真斗はグラスを手に持ち立ち上がった。このサークル内でただ一人、未成年である響木のグラスの中身は烏龍茶である。 「みんな。コミケお疲れ様。思い返せば、僕と麻友さんと響木ちゃんの三人で始めたサークルだったけど、最初の頃と比べて二人とも本当に成長したと思う」  真斗は二人に視線を向け、しみじみと語り出した。 「懐かしいな」 「うんうん、よく響木ちゃんとデザインのことで大げんかしてたよね」 「そうだね。キャラとかゲームの設定のことでね」  へぇ、そうなのか。意外だな  この二人サークル内では仲良さそうにしているから、喧嘩するようなイメージが全くなかった。 「仲裁する僕は本当大変だったよ……けど、そういう経験があったからこそ、お互いの仲を深めることができたわけで」  すると今度は俺の方に視線を移してきた。 「それと根音くんがサークルに来て、さらにサークルの力が強まった。このサークルに来てくれて本当に感謝するよ」 「いやぁ、俺はまだまだ実力不足だ」 「そーね! あんたのシナリオはまだまだ未熟よ!」  雛菊がここぞとばかりに野次を飛ばしてきた。ちょっとそこうるさいぞ。 「確かにまだ進化の途中だと思う。けど、これからもっといいシナリオが書けるようになると思う。だからこれからもよろしくね」 「ああ」 「黒夢さんは興味のある分野とかある?」 「えっと、私はプログラミングを覚えてみたい! あと……もしできれば声優というのをやってみたいと思う!」  声優か。確かに最近はボイスが入っているゲームも数多くある。  今まで気づかなかったが黒夢に声優はピッタリかもしれないな。  声質的にツンデレキャラとか似合いそうな気がする。 「そっか。プログラミングに関しては僕や雛菊さんが教えられると思う。声優に関しては、そういったゲームもこれから作ることになるかもしれないから自分なりに発声練習とかして欲しい」 「分かった!」 「それと雛菊さんと明梨さん、仕事で忙しいのにサークルに参加してくれてありがとう。二人の実力のおかげで今回のコミケに間に合ったと言っても過言じゃないよ」 「気にすることないわ! サークルメンバーとして当然よ!」 「うん。力になれてなによりだわ」  真斗は軽く顔を伏せた後、再び俺たちに顔を向けた。  何かを決心したかのようにゆっくりと口を開く。 「それと実はみんなにお知らせがあるんだ……僕、独立して会社を立ち上げようと思う」  突然の発表にサークルメンバーは一斉に静まり返った。 「ま、真斗。それは……起業するっていうことか?」 「そうだね。前から独立したいと思っていたんだ。自分の会社でゲームを作る。それが小さい頃の夢だったんだ」  素晴らしい夢である。しかし、どうしても気になることがあり、質問せずにはいられなかった。 「サークルは? サークルはどうするんだ?」 「根音くん、実はそれが本題なんだ。もし良ければ、みんな僕が立ち上げる会社で働いてほしい。僕はこのメンバーでゲーム作りがしたいんだ」  真斗の言葉を聞いて、バクバクと心臓が激しく脈を打った。 「真斗くん、本気なの? 水を差すようで悪いけど、あなたほどの実力なら、今の会社でも十分自分が作りたいゲームを作れると思うわ」  明梨さんの言うことも一理ある。それに起業には大きなリスクが伴う。 「本気だよ。このメンバーなら、これからもすごいゲームを作っていけると思うんだ」  真斗の言葉を黙って訊いていた雛菊がグラスを持って立ち上がった。 「私は乗るわ。面白そうじゃない。一緒に神ゲーを作りましょう!」  すると、今度は黒夢が立ち上がった。 「私も参加しよう。雛菊の言う通り、面白そうだ。共に素晴らしいゲームを作ろうではないか!」 「雛菊さん、黒夢さん……ありがとう!」 「私も大学卒業したらお世話になろうかな。卒業まではバイトとして雇ってね。社長さん! すぐ潰れるような会社にはしないでよ」  麻友もグラスを持って立ち上がった。 「もちろんそのつもりだよ、麻友さん」 「僕はまだ進路のこととか考えてなかったけど、みんなと一緒にゲームを作りたい。だから……よろしく頼むよ。社長」  響木もまた、グラスを持って立ちあがった。 「響木ちゃん、こちらこそよろしく頼むよ」  まだ真斗に答えを言っていないのは俺と明梨さんだけである。 「ねぇ、真斗くん。もう、会社の場所とか、作るゲームのこととか考えてるの?」  明梨さんがやや厳しめの口調で質問してきた。 「うん。とりあえず最初はサークルの事務所が拠点になるかな。仕事は大手会社の下請けから始めることになるけど、利益が出てきて、余裕が出てきたら自社製品を販売していこうと思う」  真斗は明梨さんに怯むことなく返答する。会社の場所はいつものサークルの事務所か。いいじゃないか。みんなと活動していたあの場所は俺のお気に入りの場所だ。 「そう。会社としてやっていける自信があるのね?」 「ある……と言いたいところだけど、僕だけの力じゃどうしようもなところもある。だから協力してほしい」  真斗は頭を下げた。そんな真斗の様子を見ていた明梨さんは立ち上がり、グラスを持った。 「そこまでみんなに言えるのなら、心配なさそうね。私は一度、ゲーム作りを挫折した身だけど……協力できることは何でもするからよろしく頼むわ」 「ありがとうございます。明梨さん」  真斗は起業に賛同してくれた明梨さんに対し、お礼を述べた。  すると、みんなの視線はまだ座ったままである俺に集中した。 「根音くん、君はどうするんだい?」  真斗が起業する会社に入るか訊くと、 「根音くんももちろん参加するよね?」 「僕もできれば根音がいてくれた方がいいんだけど……」 「根音よ。断る理由なんてあるのか?」 「そうよ! あなた、前からゲーム会社で働きたいって言っていたじゃない!」  明梨さんを除く他のメンバーが『入れ』と言わんばかりに迫ってきた。 「まぁまぁ、みんな。決めるのは根音くんよ。根音くんがいないのは残念だけど、もし他に行きたい会社があるのなら私たちに止めることはできないわ」 「そ、それはそうですけど……けど私は根音くんとも一緒にゲームを作りたいです」 「麻友、そう言ってくれて嬉しいよ。真斗、入るのに一つ条件がある」 「条件?」 「ああ。会社名にはサークル名である『コバルト』を入れてくれ」  コバルトで過ごしたこの世界の時間に換算して一年にも満たないが、とても濃密な時間であった。  コバルトのメンバーと共に過ごした時間はかけがえなく、そしてこれからも続いていくことだろう。 「うん、分かったよ。それじゃ……入ってくれるんだね?」 「もちろんだ。よろしく頼むぞ社長」  最初からそのつもりであった。俺はグラスを手に持ち、立ち上がる。 「えー、それじゃコミケの無事終了のお祝いと、新しい会社の繁栄を祝って……乾杯!」 「「「「「「かんぱーい!」」」」」」  グラスとグラスがぶつかり合う音が店内に響く。俺たちのゲーム作りはまだ始まったばかりである。  これからも俺は……いや、俺たちは新しいゲームを作っていくんだ。
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