16 / 17

第16話

 ようやく企業ブースへと辿り着くと、ブース内にはたくさん人がいた。ブース内を歩いていると、今期や前期アニメのグッズが目に止まった。  タペストリーやスマホケース、さらには防災グッズなども販売されている。  ゆっくりと企業ブース内を周っていた俺でであったが、その中で気になるブースを見つめた。  ブースの名前は『人類への挑戦』であった。そして、その出展者は怒首領蜂最大往生の制作会社である。  ブースではゲームのサウンドトラックが収録されているCDや、美少女のイラストが描かれたポスターなどが販売されている。  しかし、その中で俺はグッズよりもブースで行われているイベントに目が止まった。  掲示されている張り紙には『史上最強の隠蜂を倒そう! 倒した方先着1名の方に豪華プレゼントを配布します』と記載されている。  男性がイベントのために設置されたゲーム台に座り、必死にプレイしていた。  彼の腕前もかなりのもので、迫り来る弾幕を避け続け、半分ほどHPを減らしていたが、やがて被弾し、ゲームオーバーとなってしまった。  ゲームオーバーになると、見ていた人たちから「ああ!」や「惜しい!」と言う声が出た。  だが実際のところ、第二形態まで辿り着いていないのでそんなに惜しくはないと言ってもいいだろう。 「次の挑戦者の方、お願いします!」  すると、ゲーム台に座ったのは桃髪色ショートにメイド服を着た人物――響木であった。さっき張り紙を見た時、もしかして挑戦するんじゃないかと思ったが、予想通りであった。  響木は俺がいることに気づき、軽く手を振ってきた。響木は真剣な表情でゲーム画面と向き合い、力強くボタンを押した。  隠蜂は特定の条件を満たした状態でないと出現しないが、このゲーム台はイベント専用のため、無条件でプレイヤーの前に現れる仕様になっているようである。  ――あなたは人類ですか? それとも別の次元の存在ですか? まぁ、いいでしょう……私が選別して差し上げます。  セリフが一般のものと変わっている。イベントの為にわざわざ変更したのか。  BGMが流れると、隠蜂は攻撃を開始した。  ――より強い形になりなさい。  これも新しいセリフか。全方位に赤と青の高速連射弾針弾が放たれる。凄まじい攻撃であるが、響木はこれをあっさりと避ける。まぁ、響木なら当然だろう。  ――当たらないものだな。  これは既存のセリフである。三方向に放たれる青弾と二方向から放たれる矢印型の赤弾を放つ。さらに度々、円形状に高速弾を放つが、響木は素晴らしいプレイングで避け、会場を大きく沸かせた。  ――実にしぶといな。  新しいセリフである。青弾を扇状に放ち、機体を狙う。更に追尾型の赤い針弾を放つ。  やがて、扇型に放たれていた青弾は円形状に放たれ、ほとんど安全地帯を消してしまった。 「す、すげぇ……避けてるぞ」「何者だ、あの少女?」「あの少女……もしかして響木じゃないのか?」  正体がバレかけている。秋葉原でのあのツイート、拡散されたのか?  ――イライラする……  これは既存のセリフだ。全方位に高速で迫り来る大きな青弾と低速で迫り来る小さな青弾が回転しながら放たれる。  こんなの、普通は避けられない。実際に秋葉原でも響木は何回か被弾していた。  しかし、あれから更に腕を上げたのか、響木は顔色一つ変えず、淡々と避けていった。  気がつけば、いつのまにか多くの人が集まり、響木のプレイを見つめていた。  隠蜂の攻撃をまだ一度喰らわず避け続けていた響木であったが、隠蜂のHPが残り僅かとなると、隠蜂は姿を変えた。  蜂そのもの姿――隠蜂は「認めようあなたのその実力。だが、これで終わりだ……死ぬがよい!」という新しいセリフを言った後、発狂へと移った。  発狂の攻撃を目の当たりにした観客は悲鳴にも似た叫び声を上げた。  洗濯機のように回転しながら繰り出される青色の弾と色鮮やかなふぐ刺し弾の同時発射――弾は高密度で機体に迫り、攻撃パターンが微妙に通常のものと違うのが俺には分かった。  明らかに今の攻撃の方が一般のものより難しそうである。  おい運営、クリアさせる気あるのか。さすがの響木も渋い表情で操作をしている。被弾すると隠蜂は「頑張っても、結局駄目だったわね」と言ってきた。  ちなみにこれは既存のセリフである。  何度か被弾してしまった響木であったが、徐々に慣れてきたのか、スイスイと避けていった。  本当のこれ、どうやって避けているのか見当もつかない。0.5倍速でもクリアできる気がしない。  そしてついに隠蜂のHPが0となった。  隠蜂は「こっちでは、ないのか……うぁぁぁぁ!」と既存のセリフを叫び、ようやく力尽きた。  クリアした響木に大拍手が送られた。響木は観客から「一緒に写真撮ってもいいですか?」、「ぜひ、サインお願いします!」と迫られた。  しばらく観客の対応をしていた響木であったが、五十前後くらいの男性が響木の元にやってきた。男性の右手にはマイクが握られており、左手には会社名のロゴが入った大きな紙袋を手に持っている。 「どうもこのゲームの製作者の一人、TKDと言います。極殺最凶最終鬼畜兵器と呼ばれた隠蜂を見事撃破したあなたにこちらのグッズをプレゼントしたいと思います。どうぞお受け取りください」 「ありがとうございます」  響木はグッズが入った袋を受け取ると、軽くお辞儀をした。TKDさんは観客の方に視線を向けた。 「この隠蜂ちゃんは『怒首領蜂最大往生』が稼働した二千十二年からおよそ八年近く撃破の報告がありませんでした。しかし、今年の十一月の上旬にこんなツイートを見かけました。『美少女天才ゲーマー、隠蜂を撃破!』というツイートを」  会場がザワザワしだした。TKDさんは再び視線を響木に戻した。 「ずばり、あなたが隠蜂を初めて撃破した響木さんなんでしょうか?」 「はい、そうです」  響木があっさりと認めると、会場内が歓声で満たされた。すごい盛り上がりようである。 「そうですか。あなたのプレイ、本当にすごかった……実は怒首領蜂最大往生、来年から稼働を完全に停止しようと考えていました。しかし、やっぱりやめます!」  観客が「おお!?」との声が上がる。とりあえず、怒首領蜂最大往生がゲームセンターから姿を消すことはないということか。 「みなさん! 隠蜂は人類が勝てる相手です! それを響木さんが証明してくれました。より腕を上げて、怒首領蜂シリーズの最新作を待っていてください!」  会場が一気に「わああああああーー!」という大歓声で満たされた。  怒首領蜂シリーズはまだ最新作の制作が発表されていなかった。  いや、それどころかアーケードゲーム自体、基盤を作るための部品がもうないとの理由で制作が休止されている状態であった。  その為、今回の電撃発表はファンからたまらないものであろう。 「響木さん、次の作品では更に強い蜂が出てくると思いますが倒す自身はありますか?」 「もちろん……あります」  響木は自信満々に宣戦した。会場からは盛大な拍手が起こる。 「それでこそ作りがいがあります。腕を上げて発売を待っていてくださいね」  IKDさんは人類への宣戦布告を終えると、スタスタと戻っていった。  人類と蜂との戦いは始まったばかりである。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!