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第13話

「ま、魔王様……」 「ネオンよ。お前、やはり私を裏切ったのか?」 「ま、魔王!? こいつが? お、女じゃない!」  勘違いされることがあるが、魔王様は女性である。赤い長髪に褐色の肌、黒い装束で身を包むその姿は見間違えることない、我らが魔王様だ。 「女が魔王じゃなきゃいけないというルールでもあるのか? 王国の騎士団、ヒナギクよ」 「ま、魔王に名前を覚えてもらえて光栄だわ……それにしても随分と可愛らしい魔王様ね」  挑発するようなヒナギクの発言が気に食わなかったのか、魔王様は顔をしかめた。 「魔王様……どうしてここに?」 「お前の魔力を検知したので付いてきた。見事な戦闘であったぞ。だが……」  まじか。全く気づかなかった。 「どうしてお前は私を裏切ったのだ?」 「それは……」 「言っておくが、その女を庇ったことではないぞ。お前は私に嘘をついたな。向こうの世界の人間を全て抹殺したなど。分身まで作ってまで……」 「い、一体、いつから気づいていたのでしょうか? さっきの会話で?」 「馬鹿者。私を侮るな。最初からだ。あんな分身、お前じゃないことくらい一目で分かった」  う、嘘だろ。完璧な分身を作り上げたはずなのに、一目で見破っただと。 「初めから気づいていたのなら、どうして直接……」 「お前の口から真実を話してくれるのを待っていたのだ。分身をこの世界に送っているならこっちに戻ってくることだってできただろう? それなのに、全くこの世界に来ない。ようやく本体のお前がこの世界に戻って来たから、直接こうして会いに来たのだ」  実は分身魔法は解除することで、分身体の方の身体をベースにして融合することができ、身体を向こうの世界からこの世界に戻すことも可能であったのだが、ヒナギクとの戦いを避けたかったため、彼女にはこの世界には戻れないと嘘をついていたのである。  ヒナギクが自由に向こうの世界とこの世界を自由に行き来できるため、結局戦う羽目になったが。 「え? ちょっとネオン! そうなの?」 「ああ。その通りだ。申し訳ございませんでした。魔王様」 「謝罪はいい。裏切った理由を言え」 「はい。向こうの世界でやってみたいことが出来たのです」 「さっき、なんか言ってたな。その……ゲーム制作というやつか?」 「そうです」 「一体、それは何なのだ?」 「えっと、なんて言うかその……」  ゲームを全く知らない人に説明するのはとても難しい。俺が悩んでいたその時だった。 「自分で理想の国を作ることよ」 「ひ、ヒナギク……お前……」  ヒナギクが助け舟を出してくれた。しかし、ゲーム作りの説明がやけにスケールが大きいものになっている。 「国だと?」  魔王様は訝しんだ様子で聞き返した。 「そうよ! 自分の魂を込めて、理想の国を築き上げるの。すごいことだと思うでしょう? ネオンがやりたいことはそういうことなのよ!」 「そうなのか、ネオン?」  魔王様は赤く鋭い瞳を俺に向けた。どんな嘘も見破ってしまいそうな瞳光である。 「はい、そうです。俺は……いや、俺と信頼できる仲間たちは一緒に理想の国を作りたいのです!」 「そうか。お前のやりたいことは分かった。だがな、私もそう易々と『はいそうですか』とは言えないのだ。分かるだろう?」 「そうですね……」 「私のことを捨ててでもやり遂げたいのか? ネオンよ、お前言ってくれたではないか。一生私に使える。この身を私に捧げる。一生、愛を誓っていくと」 「あ、あんた……このロリ幼女になんて不埒なこと言ってるのよ!」 「おい、貴様。なんだそのロリ幼女とは。意味はわからんがバカにされているのは分かるぞ」  あ、分かるんだ。 「ヒナギク。一応言っておくが、魔王様は俺よりも年上だ」 「な、なななな……なんですってー!」  ヒナギクが大声を出した。この様子だともうすっかり回復したのではないだろうか。 「ちょっとネオン! あんた、今何歳なの?」 「俺か? 確か……千歳は超えているはずだが、今何歳なのかはちょっと忘れてしまったな……」 「魔族ってサイヤ人なのかしら……」 「とにかくだ! そう易々と私を捨てるなんて酷いということだ!」 「ではどうしたら良いのでしょうか」 「私と戦え」 「え? 私が魔王様とですか?」  俺が訊くと、魔王様は「そうだ」と頷いた。 「私を捨てて、どうしてもやりたいと言うのなら、私と命を賭けて戦うのだ。私はお主を殺すつもりで戦う。お主も私を殺すつもりで戦うのだ!」 「や、やだ……この子、ヤンデレってやつなのかしら……」  ちょっと待てヒナギクよ。それ多分違うぞ。 「で、出来ません! 魔王様を殺すなんて!」 「根性なしだ、なお前は。私はできるぞ、お前を殺し……そして、私も死ぬ!」 「や、やっぱりこの子、ヤンデレだわ!」  だから、違うっつの! って、それどころじゃない!   魔王様が魔力を込めたパンチをしてきた。 「うわ!」  俺は何とか避けたが、間髪入れずに魔王様は次々と黒い魔弾を放って来た。  とても速く、密度の高い魔弾はヒナギクのよりも遥かに避けるのが難しい。  まさか、ここに来て、真のラスボスと戦うわなくてはならないとは。 「ま、待ってください! 魔王様! やっぱり、魔王様とは戦えません!」 「ならばそのまま死ぬがよい! そして、私も死ぬ!」 「あなた様が死んだら誰が魔族を統率するというのですか!」 「知るかそんなもん!」  王にあるまじき発言だぞそれは。そうツッコミたくなるのをぐっと抑えた。元々の原因は俺にある。 「分かりました。では、ゲーム作りを諦めます!」 「え? ちょっとネオン。何言ってるの!? ダメよ、そんなの!」  俺がそう言うと、魔王様はピタッと攻撃を止めた。  ヒナギクが異議を唱えたが仕方ない。ゲーム作りは好きだが、魔王様には何があっても死んで欲しくはない。 「本当だな? 嘘ではないな? 指切りげんまんしてもいいな? もしも破ったら針一千万本飲ませるぞ」 「は、は……」  俺が魔王様に「はい」と告げようとしたその時、俺の目の前にある人物が現れた。 「その必要はないわ。根音くん」 「あ、明梨さん……どうしてここに?」  なんと、どういうわけか明梨さんが現れた。明梨さんはコンビニの制服を着用している。 「ネオン、誰なのこの人は?」 「俺が働いているコンビニの店長だ」 「へぇ……この世界にいるって言うことはつまり、王国の魔法使いの転移魔法で来たってわけね」 「いいえ、違うわ」  あっさりと明梨さんが転移魔法でこの世界に来たことを否定した。一体どういうことだ? 「おい。貴様、何者だ?」 「分からないかしら。まぁ、直接は会ってないし、無理はないか……」 「何だと?」 「初めまして、クロム=アザレア二世。私はあなたの父親の前の魔王、クロプト=セレンよ」  俺とヒナギク、そして魔王様は無言のまま顔を見合わせた。 「「「えぇーーーー!」」」 「あ、明梨さんが元魔王!? どういうことですか?」 「う、嘘を付くな! お前のような人間が歴代最強の魔王と言われたクロプト様なわけがないだろうが!」  俺も噂には訊いたことがある。クロプト=セレン――一人で王国軍と渡り合い、壊滅寸前まで追い込んだ最強の魔王であると。  彼女が魔王である限り、魔族の国は安泰であると言われていたが、ある時突然姿を消したと言う。 「嘘だと思うのなら、試してみたら? もっとも、私は根音くんのように手加減したりはしないけどね」  明梨さんは髪を搔き上げ、挑発するかのように魔王様を煽り始めた。  魔王様はと言うと、挑発を真に受けて、歯ぎしりをしている。 「いいだろう! お前が本当に歴代最強の魔王と言うのなら、これくらい、どうってことないな!」  魔王様は両手を上げた。魔王様の魔力が大きな玉の形となっていった。 「喰らえ! 街すら滅ぼすと言われるこの攻撃! 『ビッグ・ブラック・バレット』!」  十メートルほどの大きさをほこる黒い魔弾が明梨さんに飛んでいく。 「あ、危ない! 明梨さん、避けてください!」  俺が叫ぶも、明梨さんは全く動く気配がない。まさか受け止める気か? 流石に食らったら死ぬぞ。  しかし、明梨さんは右手を伸ばすと、黒い魔弾に増れた。 「ふん、これがあなたの力ね……なかなかいい攻撃してくれるじゃない」  なんと、明梨さんは涼しい顔で受け止め、あっさりと上空に弾き飛ばした。  弾き飛ばされた黒い魔弾は花火のように上空で『バン』と大きな音を立てて、破裂してしまった。 「なんだと……」 「それじゃ、こっちから行こうかしら、魔王様」 「くそ! 舐めるな!」  魔王様は次々と魔法攻撃を繰り出すが、目のも止まらぬ速さで攻撃を避けていく。 「ねぇ、ネオン。動き、見える?」 「い、いや……」  見えん! このネオンの目にも!  「くそ! 当たれ!」  攻撃を躱し続けていた明梨さんであったが、なぜかピタッと動きを止めた。 「こんなの、避けるまでもないわ……は!」  明梨さんが叫ぶと、なぜか魔王様が放った魔法攻撃が消滅した。 「お、お前……今、何をした……」 「『気合』で攻撃を消してやったのよ」  つまり、どういうことだってばよ? 「つまりどういうことだってばよ?」  ヒナギクのやつ、口に出して呟きやがった。 「根音くん!」 「な、なんですか?」 「さっき、ゲーム作りを諦めようとしたけど、ダメよそんなの! 今まであんなに一生懸命シナリオを作っていたじゃない!」  明梨さんはただのバイトに過ぎない俺の為に激励してくれた。なんていい人だろうか。こんな店長そうそういないだろう。 「ありがとうございます。けど……」 「お前、何を勝手なことを! 部外者が口を出すな!」 「部外者なんかじゃないわ! 根音くんは、私の大切なお店の仲間で同じ魔族で、向こうの世界の住人よ!」 「あ、明梨さん……」 「根音くん……諦めたらそこで試合終了ですよ?」 「明梨さんも呼んだことあるんですね、その漫画」 「ええ、すごく面白い漫画よね」  人は挫折してしまいそうな直面に到達する。  しかし、この言葉には挫折から立ち直らせてくれる力がある。よし、伝えるんだ。俺のゲーム作りへおの思いを。 「魔王様、俺やっぱりゲーム作りがしたいです……」 「ネオン……お前、やはり……」 「明梨さん、俺の代わりに戦ってくれてありがとうございます。けど……ここからは自分で戦います!」 「根音くん……分かったわ。頑張りなさい」 「はい……我が名は藤里根音。魔王軍最強の幹部にして……サークル『コバルト』のシナリオライターである! ゲーム作りを行う権利を賭けて魔王様、あなたに勝負を申し込む!」  高らかに宣言すると、魔王様は訝しんだ様子で訊いた。 「ネオンよ……お前、私を殺す覚悟が出来たのだな」 「ありませんよ、そんなの」 「な、なんだと……?」  魔王様は心底驚いたような表情を見せた。やはりこの人は何も分かっていないな。 「あなたは俺にとって大切な人です。殺す覚悟なんてありません。いや、そんな覚悟なんか持ちたくもありません。ただ戦闘不能にするだけです」 「そうか……お前は本当に甘いな。それで私に勝てるかな?」 「勝ちますよ、必ずね」  しばらく、俺と魔王様は見つめ合った。空気が振動するようなピリピリとした緊張感が走る。 「いくぞ、『ブラック・ボール』!」  小さな黒い魔弾を魔王様が放つ。とても素早い攻撃である。 「ぐ……!」  とっさに防御体制を取ったが、完全に防ぎきることができなかった。砂埃が上がり、魔王様の姿が見えなくなった。 「後ろだ」 「しまっ……!」  後ろを振り向くと、すぐさま魔法を掛けられた。 「『フィンドラ・グラビティ』。これで動けないだろう」  体全体にとんでもない重力がのしかかった。徐々に身体が地面に沈んでいく。 「く、こんなの……効くか! 『アクセレイト』!」  高速移動の魔法でなんとか魔王様の魔法から脱出した。 「小癪な……避けやれるものなら避けてみろ!」 「上等だ。全て避ける!」  迫り来るおぞましいほどの数の攻撃を俺は避けた。思い出せ、響木の操作を。  あの光景を。どんな攻撃も必ず、避けることができる。クリアできない戦い(ゲーム)などない。 「す、すごい……ネオン、全部避けてる」 「ええ。さすがは根音くんだわ」  長時間攻撃を続けていた魔王様は流石に疲労したのか、一度攻撃を中断した。 「もう終わりですか? 魔王様」 「ふ、ふざけるな……ふざけるなよ……」  魔王様は怒りで肩を震わせていた。怒りは確かに戦いにおいて力を増幅させる。しかし、どんな凄まじい攻撃も当たらなければ何も意味はない。  戦いというのはやはり冷静であることが一番である。相手の特徴、攻撃、動き全てを冷静に分析したものこそ、勝利を掴むことができる。 「もうやめましょう。あなたは私に勝てませんよ」 「なんだと? 寝言はこれを避けてから言うがよい! 来たれ、終焉の時よ。落ちよ怒りの鉄槌よ。『メテオライト・クラッシャー』!」  魔王様は上空に手をかざすと、掌から一筋の光を放出した。すると、激しい地震が発生した。 「え? なななな、何? なんなのよ、一体!」  ヒナギクは突然の地震に対応できず、尻もちをついた。 「こ、これは……想像していたよりも随分とすごい魔法を使えるものね……」  明梨さんも魔王様が繰り出した魔法に驚いていた。この魔法は数多の隕石を引き寄せ、相手に浴びせるという、下手すれば一国を滅ぼすことができると噂される事実上の魔王様の最強魔法である。 「ヒナギク! 明梨さん、今すぐこの場から離れて!」 「え? ネオン、あんたはどうするの?」 「俺は大丈夫だ。早く逃げろ!」 「ここはネオンくんに任せましょう」 「わ、分かったわ。いい? 絶対に死ぬんじゃないわよ!」  そんなこと言われるまでもない。俺は死ぬ気も……そして魔王様を死なせる気もない。  魔王様は無茶な攻撃を放ったせいか、地面に倒れ込んでいた。意識を失いかけている。  無理もない。俺と戦う前に、明梨さんとも戦っている上、残りの魔力も考えず、あんな無茶な魔法を使ったからだ。  俺は魔王様を担ぎ、すぐにその場から離れようとした。俺もだいぶ魔力を消費したためか、思うようにスピードを出して走ることができない。  おまけに魔王様は手足を激しく動かし、暴れ始めた。 「は、離せ! どうして私を助けようとする。私が死ねばお主も好きなように生きていけるだろう!」 「断ります! 魔王様を死なすわけにはいかないんです!」  やがて、けたたましい爆風と防音が発生した。隕石が地面に落下したようだ。  俺は自分と魔王様の周りにバリアを張った。 「うわ!」  爆風に飲み込まれ、数十メートル先まで吹っ飛ばされた。やがて、爆風が収まり砂煙が消えると、地面に大きなクレーターが出来ているのか確認できた。  俺は担いでいた魔王様を地面に下ろした。 「どうします? まだ戦いを続けますか」 「いや……もうよい。私の負けだ。ネオンよ。お前の思いはもう十分に分かった」 「魔王様……すみません。五百年前、私はあなたの父親に助けてもらいました」  それは王国軍との戦いのことであった。当時まだ幹部ではなく、中隊長であった俺を魔王様の父上殿が敵の攻撃から庇ってくれたのである。  しかし、俺を庇ったのが原因で父上殿は亡くなってしまった。  死ぬ間際に父上殿からこう言われた。 「ネオンよ。あの子を……頼む」  それから、俺は魔王様を死んでも守ると誓った。たとえ命に代えても守ると。  そして、この世界で愛し合うと誓った。  しかし、向こうの世界でやりたいことができてしまい、俺は誓いを破ってしまった。本当に愚かしい魔族である。 「魔王様……どうか愚かな私をお許しください。いくら罵られても、殴られても文句は言えません」 「もうよいと言っただろう。お前は私の大切な思い人だ。どうか、幸せになってくれ」 「魔王様……もしよければ、魔王様も一緒に向こうの世界で暮らしませんか?」  やはり向こうの世界でゲームは作っていきたい。しかし、魔王様とも離れたくはない。魔王様と戦って、そんな思いが強まった。 「嬉しい誘いだが……それはできない。私がいないとあいつら困るだろうからな。私は魔王として、あいつらを守らなくてはならないんだ」  やはりダメか。魔王という役職はすぐに辞めれるものではない。ただでさえ王国は魔族の国を滅ぼそうと考えている。  魔王様がいなくなれば、戦力は一気に下がってしまうだろう。 「その必要はないわ!」  俺たちの前にヒナギクと明梨さんが現れた。 「あ、明梨さん……無事だったんですね!」 「それはこっちのセリフよ! ネオンのくせに心配させるんじゃないわよ!」  言葉こそ刺々しいが、ヒナギクから本当に心配していたことが伝わってくる。 「すまなかったな。それより明梨さん、その必要はないっていうのは?」 「実はネオンくんと会う前にね、王国に寄って行って、魔族の国への不可侵条約を結んできたのよ!」 「は?」  明梨さんの言うことが飲み込めず、呆然と立ち尽くしていると、明梨さんは契約書を俺に見せてきた。  内容をじっくりと確認すると、確かにアルカディア王国はデーモンランドに攻め込まないという趣旨の記載があった。さらにはもう異世界の人間を転移させませんとも書いてある。 「な、なんでそんな条約を明梨さんが結ばせたんですか?」 「実は私に一人娘がいてね。人間と魔族のハーフで、人里離れた場所に住んでるんだけど最近、魔族の国に住んでみたいって言い出したのよ。それで娘の為に人肌脱いだってわけ!」  娘の安全の為に一国を動かしたのか。 「よく一人でこんな条約を結べましたね。というか、娘さんいたんですか? しかも、人間と魔族のハーフですか?」  ちょっと驚くことが多すぎて脳の処理が追いつきそうにない。 「ええ。まぁ? ちょーっと、何人かの冒険者やら騎士団やらぶっ倒しておどしただけよ」  この人はやっぱり敵に回したらやばそうだ。 「娘さんもやっぱり強いんですか?」 「いやぁ、そんなでもないわよ。ネオンくんと同じくらいの強さだと思うよ」  多分、俺より強いな。世界はまだまだ広い。とんでもない実力者がたくさん潜んでいるものだ。 「だからさ、魔王様。安心して向こうの世界で暮らして大丈夫よ。新しい魔王なら私の娘に任せてちょうだい。あのこ、結構素質あると思うから」 「ありがとうございます。クロプト=セレン元魔王様。私は向こうの世界で暮らそうと思います」 「ふふ、どーいたしまして。その代わりと言っちゃなんだけど、私のお店で働いてくれないかしら? 最近、人手不足でねぇ」 「何人かバイト辞めちゃいましたもんね」 「そーなのよ! ちょっと注意しただけで来なくなるやつとかなんなのかしら! 電話しても連絡つかないし、退職代行サービスまで使って辞める奴までいるし! 辞めるならちゃんんと本人に面と向かって伝えなさいって感じよね!」 「た、確かにそうですね……」  俺にとってはとても耳が痛い言葉だ。 「分かりました。このクロム=アザレア二世、必ずしやお役に立ってみせます!」 「うん! ネオンくん、しっかりクロムちゃんをサポートしてあげてね!」 「はい! ヒナギク、お前はどうするんだ?」 「私も……ゲームを作りたい! 自分にしか作れないゲームを。だから……私も向こうの世界で暮らすことにするわ」 「そうか。お互い頑張ろうな」 「横手雛菊……」 「え?」  ヒナギクが何か呟いたのだが、ちゃんと聞こえなかった。 「横手雛菊(よこてひなぎく)よ。向こうでの私の名前。改めてよろしく頼むわ、根音。まぁ、とーぜん私の方がすごいゲームを作っちゃうけどね」  ふん、相変わらず可愛げのない奴である。 「ああ、よろしくな。雛菊」 「ね、ネオン……」  背後から元魔王ことクロム様が俺の肩を叩いた。 「なんですか?」 「私からも改めて……これからよろしく頼むな。『根音』」  魔王様は小さな手を差し出した。ようやくこれでこの世界における唯一の心残りを取り除くことができた。 「はい。こちらこそ」  クロム様の小さな手を握りしめた。柔らかく、とても暖かい温もりが自分の手に伝わる。  こうして、雛菊及び魔王様との戦いを終えた俺は向こうの世界へと戻った。
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