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第12話

「すごく久々という感じがするな」  魔族の国、『デーモンランド』――この国では悪魔やゴブリン、ミノタウロスといった多種多様な魔族が暮らしている。  この国の建物は全体的に薄汚れており、廃退的な雰囲気を醸し出しているが、俺はそこが結構気に入っている。  視界の遥か先には高くそびえる黒いお城――魔王城が建っていた。 「魔王様……元気だろうか」  おっと、黄昏ている暇などない。早く用意しなければ。  俺は行きつけの散髪屋へと向かった。 「いらっしゃい! って、ネオンの旦那!? なんだい、その髪は?」 「いやぁ、ちょっとイメチェンに失敗してな。銀髪に戻してくれないか?」 「あいよ! ま、黒髪も結構似合っていると思うけどね!」 「そ、そうかな……」  黒髪を褒められ、つい浮かれてしまった。しかし、今日の俺は根音ではない。  魔像幹部の一人、ネオンである。かつて俺は王国軍から『シルバーヘアーデーモン』と恐れられていた。 「これでどうでしょう?」 「ああ。完璧だ。お代はつけておいてくれ」 「あいよ! ありがとうございました!」  散髪屋を出たあと、俺は武器屋を探した。  かなり昔から営業しているこの木造建の武器屋は兵士からこよなく愛されており、品揃えも充実している。  中には剣や盾、槍といった武器が並べられていた。しかし、俺が選ぶ商品は決まっている。 「あったあった……」  赤きマント。戦闘の際はこれが欠かせない。このマントは敵の魔法攻撃を一定数防ぐ効果がある。  まぁ、効果よりもぶっちゃけて言えばビジュアルの方が好きだから使っているというのが大きい。 「これを一つ頼む。支払いはツケだ」 「はい! いつもありがとうございます」  マントを手に入れた後、服屋にていつもこの世界で着ていた服を購入し、服とマントを装着した。 「これで準備万端だな……いや……」  お腹の虫が鳴った。今朝、ヒナギクとの戦闘をたくさんシミュレーションしていたため、朝ごはんを食べていなかった。 「飯を食べるか」  腹が減っては何とやらである。俺はかつての行きつけの食堂に入った。案内されたテーブル席に座り、メニュー表を開く。 「何にするかな……」  パラパラとページを捲り、食べるメニューを品定めしていたが、気になるメニューが目に止まった。  ――レッドホッドチキンの丸焼きとマジックポイントポーションセット  レッドホットチキンのこの国の近くの森に生息する鳥のモンスターなのだが、こいつがかなりのレアモンスターで、食べると美味しいと噂になっている。  しかし、俺は今までこいつを一度も食べたことがなかった。  写真から見るとジューシーな肉汁が溢れ出ていてでとても美味しそうだ。戦い前にポーションを飲んでおくのもいいかもないな。 「すみません! レッドホッドチキンの丸焼きとマジックポイントポーションセットお願いします!」 「はい、レッドホッドチキンの丸焼きとマジックポイントポーションセット一丁!」  一体、どんな料理なのだろうか…… 「ちょっと食べ過ぎてしまったな」  俺は歩きながらお腹をさすった。レッドホッドチキンの丸焼きは俺の想像を超えるほどの大きさで、食べ終えるのにかなり時間を費やしてしまった。  おかげで約束の時間が迫っていた。 「早く戻らないとな!」  食後の運動がてら、俺はダッシュで約束の場所へと戻った。 「はぁ、はぁ……間に合ったか?」  かなり急いで走ってきたため、結構疲れた。 「何よ? 随分ともうヘトヘトね。負ける時の言い訳を作ってきたって感じかしら?」  ヒナギクはそんな皮肉を言ってきた。ヒナギクは銀色の鎧に身を包んでおり、戦闘準備万端といった様子だ。 「気にするな。こっちはいつでも準備万端だ」  ちょうど、胃もたれも消えてきたところだ。身体もあったまってきたし、ベストコンディションと言ってもいいだろう。 「なら、いいけど……それじゃ、始めましょうか」 「その前にいいか?」 「何かしら?」 「ヒナギク、お前は俺を殺すつもりで戦うんだよな?」 「ええ」  何を今更と言いたげな表情である。 「そうか。なら俺もお前を殺すつもりで戦う……特に問題はないな?」 「もちろんよ」 「ならいい。覚悟のない人間を殺すのに罪悪感があったんだ」 「随分と舐められたものね……私は死ぬ覚悟なんていつでも出来てるわ!」  曲がりなりにも王国の騎士団と言ったところか。 「そうか。余計なことを聞いて悪かったな」 「まぁ、いいわ。決着を付けましょうか。我が名はヒナギク=サファビィー。王国の騎士団にして、王国にこの身を捧げる者。あなたに勝負を申し込む!」  ヒナギクが名乗りを上げ、この場で改めて決闘を申し込んだ。 「我が名はネオン=トリナ。魔王軍最強の幹部にして、魔王様に支える者! 魔王軍に敵対するお前との勝負、申し受ける!」  一対一の勝負の際はこのようにお互いの所属と名前を名乗り上げることがしきたりとなっている。 「それじゃ、行くわよ! 『キングダムバースト』!」  ヒナギクの持っていた剣が発行すると、剣から無数の光の玉が放出された。 「来たか……『アクセレイト』」  高速移動の魔法を使い、光の玉を避けた。 「中々、やるわね……ならこれならどう!」  先ほどと倍くらいの量の光の玉を俺に向かって放ったが、俺は弾と弾の間を縫うように避けた。 「な……! 何その動きは」 「中々良い攻撃だが、当たらないものだな」  怒首領蜂最大往生の動画を幾度となく見てきた俺からすれば、ヒナギクの攻撃を避けることなど造作もない。それに何度も避けるシミュレーションを頭の中でしてきた。  もっとも、この戦術にはそれ相応のリスクはある。  アクセレイトという魔法は自分が動くスピードを上げる魔法であるが、原理としてはとても単純で、自分が持つ魔力を全て足に移動させるというものである。  通常魔力は体全体に行き渡っている。  魔力は攻撃を受けてもダメージを抑える効果や攻撃力を上げる効果を持ち、もし今の状態で足以外の箇所にダメージを受ければ即致命傷となる。  もっとも、当たらなければどうとでもないが。 「どうした? もう終わりか!」 「まだよ、まだ!」  ヒナギクは無造作に光の玉を打ち続けていた。俺の戦略は至極単純。ただ、こいつの攻撃を避け続け、魔力が尽きたところで、こちらが攻撃するだけだ。 「どうして……どうして当たらないの!」  今まで、ヒナギクとの戦いの際は防御魔法(バリア)を使って応戦していたため、今回もヒナギクは同じ戦法を使ってくると予想していたことだろう。  最後に戦った時よりも攻撃力は増している。だが、当たらないということは想定していなかったようだ。 「一体、何をしたっていうの? どうしてこんなに強く……」 「残念だがヒナギク。そうじゃない。多分、俺の強さはそんなに変わっていないはずだ。変わったのは……視点だ」 「し、視点……? 視点ですって?」 「そうだ。向こうの世界で気づいたんだ。俺が生きている意味は魔王様に支えるだけじゃなかったってことにな。俺はそれに気づくことができた。そのおかげで様々なゲームと出会い、新しい戦術を編み出した。お前はどうだ? 自分の本当の思いを押し込んで、自分の使命、地位に囚われているんじゃないか?」 「そ、そんなこと……」 「俺を倒したらどうする気だ? 仕事を辞めてこの世界に戻るのか? 本当にそう決断できるのか?」 「う、うるさいわね! あんたに、何がわかるっていうの!」  さらにヒナギクの攻撃が激しく鳴った。無数の光の玉に加え、視認できるほどの剣の衝撃破を同時に放ってきた。 「まるで発狂のようだな……だが……」  避けるルートはすでに頭の中にできている。玉と衝撃波の間を縫うように移動する。  しかし、動きを読んでいたのか、移動した先にヒナギクがいた。 「掛かったわね! これで終わりよ!」  ヒナギクは剣を俺に突き刺そうとした。避ける間も無く剣は俺の身体に突き刺さった。  いや、正確には『俺の分身』の身体に。 「掛かったな」 「な……い、いつのまに……」  決闘の場に向かう前、あらかじめ分身を作っておき、本体である俺は上手く気配を消して、ヒナギクに隙ができるのを伺っていた。  今までヒナギクの攻撃を避け続けていたのは分身の方だ。魔力の大半を分身に与えていたため、本体の俺は辛うじて一度きりの攻撃ができるくらいの魔力しか残っていないが、上手く作戦が成功した。  ちなみに、これはとある忍者漫画を読んで思いついた作戦である。 「終わりだ。死ぬがよい!」 「うわぁ!」  ヒナギクに体力と動きを一気に奪いとる魔法を掛けた。魔力を一気に吸い取られたヒナギクは地面に倒れ込んだ 「く……完敗ね。それじゃ、約束通り殺しなさい」 「悪いがそれはできない」 「どうしてよ!」  ヒナギクの申し出を断ると、彼女は不服立てをしてきた。 「簡単な話、お前を殺すと俺は向こうの世界に行けなくなるからだ」 「そんなの……自分で何とかしなさい」 「何とも出来ないんだ」 「なら、私を脅すなりして向こうの世界に戻らせた後にでも殺したらいいでしょう。そんなことも思いつかないの!?」 「向こうの世界で人を殺さないと決めている。だから、俺はお前を殺せない」  もとより、ヒナギクを殺す気などさらさらなかったが。  ヒナギクは向こうの世界に溶け込んでいるように見えた。こいつがいるべき世界は多分、この世界ではないのだろう。 「なんって……甘い魔族なのかしら」 「魔族なのも今日までだ。俺は人間として……いや、クリエイターとして向こうの世界で生きていく。お前もそうしたらどうだ?」 「そんなことできるわけないじゃない……だって私は王国の騎士団……」 「それ、本当に大事なのか? 本当は向こうの世界で生きていきたいと思ってるんじゃないか?」 「随分と痛いところを突いてくるわね……」  戦いを申し込んできた日、会社に向かっているのを見て、すっかりヒナギクは向こうの世界に馴染んでいるように見えた。 「正直に言うと、そうかもしれないわ。向こうでの生活、大変なこともあったけど、楽しい生活だったわ。やっぱりゲーム作りって楽しいのよね」 「俺も同じだ。あいつらと一緒にゲームを作るのが楽しくてしょうがない」  プロとして働いているヒナギクからすれば、俺なんてアマチュアレベルだろうが、それでもこれだけは言える。 「俺はな……ゲーム作りが大好きなんだ。だから、魔族を辞めてでも向こうの世界で生きていく」 「ネオン……あんた」  すると、ヒナギクは立ち上がり、ボロボロになった鎧についた埃を払った。 「本気なのね?」 「ああ」 「分かったわ。とりあえず、あんたの言うことは信じる」 「ヒナギク、お前はこれからどうするんだ?」 「私は……」  すると、突然強力な魔力をキャッチした。ヒナギクのものではない。これは…… 「悪いが貴様はここで死ね」  ヒナギクに向かって、素早い魔弾が飛んできた。 「危ない、ヒナギク!」 「きゃ!」  俺はヒナギクを魔弾から庇った。魔弾は俺の背中に命中した。 「い、いてて……」 「ちょ、ちょっとあんた、大丈夫?」 「ああ」  マントを羽織っていたからある程度は防げたものの、それでも結構ダメージを受けた。 「ネオン、どうして其奴をかばうのだ? 奴は私達の敵だぞ」  声のする方向を見ると、魔王様が俺達の前に立っていた。
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