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第9話

「やぁ、根音くん。お疲れ」 「ああ」  部屋の中に入ると、にこやかな笑顔を浮かべながら真斗が挨拶してきた。すでに麻友と響木も来ている。 「お願いしていたシナリオ、できたかい?」 「一応な。これ、人数分用意したから見てくれ」  印刷しておいたシナリオをみんなに渡した。真斗は無言のまま、シナリオを見つめた。  しばらくシナリオを見ていた真斗であったが、読み終わったのか顔を上げた。 「どうだった?」 「そうだね。最初の王国軍を滅ぼすエンド、これは結構面白かった。だけど、他の二つが正直微妙だったかな」  真斗は明梨さんと同じ意見を述べた。あれから、他の二つのエンドも改良してみたのだが、やはり成果は芳しくなかったみたいだ。 「そうか……やっぱりか」 「良くないって自覚はあったのかい?」 「まぁな」 「えー? 私はそんなに悪くないって思ったけどな。響木ちゃんもそう思わない?」  麻友は割と肯定的な感想を述べた。 「うん。僕も普通に面白いって思ったよ」  響木も面白いという評価をくれた。 「二人の意見も分かる。魔王軍を滅ぼすエンドと自由気ままに暮らすエンド、どっちもそれなりに面白いとは思った。けどね、この二つは迷いが感じられるんだよ」 「迷いか……」 「根音くん、もしかして君自身がこの二つのエンド、好きじゃないんじゃないか?」 「そ、そんなことは……」  いや、あるのか。主人公は魔王様に忠誠を誓うべきだと思ったし、魔王様を裏切るだなんてありえない。そこがどうしても自分の中で納得することができないでいる。 「とりあえず、王国軍を滅ぼすルートについてはOKってことで麻友さんと響木ちゃんは作業を進めてくれるかな?」 「了解です!」 「分かった」 「根音くんはこの二つのルートをもう一度自分が納得できるような形にしてみてくれ。最悪、出来によってはこの二つのルートを削るってことも視野に入れる」   マジか。せっかく作ったシナリオだから、なんとか削るのだけは避けたい。 「真斗、僕はこのシナリオ普通に面白いって思うんだけど削っちゃうの? 別に僕たち、商業作品を作っているわけじゃないしさ、削る必要はないんじゃない?」  響木は俺の気持ちを汲み取ったのか、シナリオを削ることに対して、反対意見を述べた。 「響木ちゃんの言う通り、確かに僕らが作っているのは商業ゲームではなく、同人ゲームだ。けどね……僕は君達ならプロが作るものと匹敵する作品を作れるんじゃないかって思っているんだ。だから根音くん。厳しいことを言うようだけど、この程度のシナリオに満足しないでさ、もっとすごいシナリオを書いてくれるかい?」  真斗のやつ……俺たちにそこまでの期待を寄せていたのか。嬉しいのか恥ずかしいのかあるいはその両方か、心臓がバクバクと激しく鼓動していた。 「分かった。任せてくれ」  と言っても、もし俺がヒナギクに倒されず、無事この世界に生きて帰ってこれたらの話だがな。  その後、スケジュールの確認やミーティングを行い、解散することにした。  麻友はバイトがあるとのことですぐに事務所から出て行った。  俺も麻友に続くように事務所から出ようとした。  すると、背後からコンコンと響木に肩を叩かれた。 「根音。途中まで一緒に帰って欲しいんだけどいい?」 「ああ」  響木と共に事務所の最寄駅まで歩くことにした。外は薄暗く、仕事帰りのサラリーマンや帰宅中の学生が目に留まる。  ヒナギクのやつも仕事終わっただろうか。 「最近、肌寒くなってきたね」 「ああ、そうだな」  十月下旬となり、半袖で過ごすには厳しい季節になってきていた。 「根音。そういえばさ、この前麻友と一緒にお出かけしたんだって?」 「ああ、そうだな」  麻友が響木に話したのか、俺と麻友が池袋のお店を回ったことを知っていた。 「そっか。楽しかった?」 「ああ」  頷くと、どういうわけかじっと響木が俺の顔を覗き込んできた。 「ね、ねぇ……」  響木は何かを言おうとしているが、言いづらそうに俺の表情を伺っていた。 「どうした?」 「僕とも……今度、一緒にお出かけしてくれない?」  サークルにおいて、一人で作業していることが多い響木が誘ってくるのは少し意外に感じた。ちょっと驚きだ。 「ああ、別にいいぞ」  もっとも、その時俺が生きていればだが。もちろん、生き残るつもりではいる。 「それじゃ、今度の土曜日、秋葉原駅に来て欲しいんだけど、いい? 色々と見てみたいお店があるんだ」 「分かった」  こうして、響木と共に秋葉原を見て回る約束をした。 「あ! ゲームセンターだ」  響木は目に止まったゲームセンターを指差した。 「そうだな」 「ちょっと、寄ってもいい?」 「ああ」  ゲームセンターに中に入ると、店の中ではクレーンゲーム、太鼓の超人、レースゲームといったゲームに興じているお客さんで賑わっていた。 「あ。このゲーム……」  響木は一台のアーケードゲームの前に立ち止まった。 「このゲームがどうかしたのか?」  画面には『怒首領蜂最大往生』というタイトルが表示されていた。初めて見たゲームである。 「中学の時よくやってたんだよね。このゲーム」 「へぇ、面白いのか?」 「うん。かなり面白いよ。今までプレイしたゲームの中で一番好きかな」  へぇ、そんなにか。どういうゲームなのかちょっと気になるな。 「やってみたらどうだ?」 「いいの?」 「ああ」  俺が承諾すると、響木は嬉しそうに微笑み、椅子に座った。  この時、俺はヒナギクとの待ち合わせの約束のことを綺麗さっぱり忘れていた。  響木はゲーム台に百円を入れ、じっとゲーム画面を見つめた。セレクト画面を操作し、ゲーム台から「ドレスを選択してください」という音声が流れた。  ――特殊部隊、出撃命令です! 3、2、1……発進!  セリフとともに、いよいよゲームが始まった。  響木は機体を操り、迫り来る敵をビームで迎え撃っていく。  その操作技術はとても高度なものであると、初めてこのゲームを見る俺であっても一目で分かった。 「す、すごい……」  響木は集中しているのか、一言も言葉を発しずに黙々とゲームを続けた。  長時間プレイを続けていた響木であったが、ラスボスと思われる巨大な蜂の形をした戦闘機のような敵を倒した。 「ようやくクリアだな!」  俺が声を掛けるが、なぜか響木はそのままじっと画面を見つめていた。 「……まだだよ」 「え……?」  ――より強力なエネルギー波をキャッチ。来ます!  ゲームから音声が流れ、画面上にツインテールの水色髪をした美少女が現れた。 「な、なんだこれは?」 「隠しボスだよ」 「か、隠しボス? そんなのがいたのか……」  しかし、見た目的には先ほどの敵よりも強そうには見えない。  ――みんなにはみんなの……もっとふさわしい形があるの。私はみんなのお手伝いをしていたのにぃ! じゃあ……いきますよ。    セリフが終わると、疾走感が感じられる荒々しいBGMが流れた。隠しボスは「だだだだだだだだだだだだー!」という掛け声とともに激しい攻撃を繰り出す。  しかし、響木はこれを巧みに避けていった。  その後も相手の攻撃を避けつつ、ダメージを与えていったが流石に避けきることが難しいのか何回か被弾し、その度、敵は「ウェヒヒヒヒヒ」と煽るように笑った。  しかし、響木は順調に敵のダメージを削っていった。残機もそこそこ残っている。  すると敵は「変っっっ身っっっっ」というセリフとともにたちまち姿を変えた。  ツインテールの美少女から本物の蜂のような姿に変貌した。  ――たのしくなーい! もうさよなら!  敵は凄まじいほどの弾幕を放ってきた。その弾幕は得てして正に筆舌に尽くし難い代物 である。 「来たか……発狂……」  なんだ、発狂って? 響木は顔をしかめながら夥しいほどの弾幕を避けようと試みていた。しかし、やはり当たってしまい、残機は残りわずかとなった。 「さすがは陽蜂(ひばち)……だけど、これで終わりだ。死ぬがよい」  響木は相当集中しているのか、かなり物騒な言葉を呟いた。操縦している機体から強力なビームが放たれ、敵のHPを全て削った。  ――ぐはぁー。どうして……? 私が……? いやぁぁぁぁ!  ついに敵は倒れた。とてもすごいゲームであった。俺が今までやったゲームの中に、『アンダーテール』という弾幕を避けるゲームがある。  そのゲームもまたラスボスが強力であったが、この怒首領蜂最大往生というゲームはその比ではないほどの難易度である。こんな難しいゲームがこの世界に存在したのか。  やはり、まだこの世界は奥が深い。 「ふぅー。久々にやったけど、なんとかクリアできた」  長時間ゲームをしていた響木は椅子から立ち上がった。 「お疲れ。すごかったぞ、響木。まさかあんな敵を倒してしまうなんてな」 「まぁね……けど、実はあれより強い敵がまだいるんだよね」  それを聞いて思わず思考が停止しそうになった。さ、さっきのよりも強い敵がいるだと? 「う、嘘だろ?」 「いや、本当だよ。ある条件を達成すると出現するだけど、そいつね。今までノーコンクリア者ゼロ人なんだ」 「ちなみにこのゲーム、いつから稼働してるんだ?」 「えっと、確か二千十二年だったかな?」  二千十二年。今は二千二十年だから、八年近くノーコンクリア者が出ていないということか。 「どう考えても難易度調整ミスってるよな。このゲーム」 「そうだね」  さっきの敵よりも凄まじい攻撃を繰り出す真のラスボスか。ちょっと気になるな。 「響木はその敵と戦ったことはあるのか?」 「うん。あるよ。勝てなかったけどね」 「そうか。良かったら今度秋葉原で会う時、そいつと戦うところを見せてくれないか?」  俺が真のラスボスと戦うようお願いしたが、響木は困ったように顔をしかめた。 「うーん、腕も落ちてるしそこまでいけるかどうか……それに戦っても多分勝てないだろうし……」  響木は自分の腕に不安を持っているようであった。とても強いのに。 「大丈夫だ。きっと響木なら勝てる。この俺が保証する」  響木に真のラスボスに挑戦するよう諭すと、響木は目を丸くした。  是非とも響木が八年近くもノーコンクリア者を出していないという真のラスボスを倒す瞬間をこの目で見届けたい。 「たかがゲームにそこまで真面目に応援する人、初めて見たよ」  響木は呆れたように微笑んだ。たかがゲーム。されどゲーム。だが、俺はこの世界のゲームほど面白い娯楽は存在しないと思っている。 「まぁ……ゲーマーであり、クリエイターでもあるからな。響木もだろう?」 「まぁね。分かった。戦ってみるよ」 「随分と楽しそうね」  不意に俺の背後から声がした。後ろを振り向くと、ヒナギクが腕を組み、不機嫌そうな表情で俺を睨んでいた。 「ど、どうも……」 「どうも、じゃないわよ! 待ち合わせ場所に来ないから必死に探して回ってようやく見つけたと思ったら……こんなところで何をやってるのよ!」  ヒナギクから怒声を浴びせられた。これは相当ご立腹のようである。 「根音。この人は?」 「ヒナギクって言うんだ。ちょっとした昔からの知り合いでな……」 「そうなんだ。初めまして合川響木って言います。よろしくお願いします」  ヒナギクは響木に丁寧な挨拶をされて、少し戸惑っているようであった。 「え、えぇ……初めまして。ネオン。この子は?」 「同じサークルメンバーの仲間だ」 「さ、サークルですって?」 「ああ。実は俺、同人ゲームを作るサークルに入ってるんだ」 「同人ゲームですって! あんた、そんなの作ってるの!?」  ヒナギクは俺が同人ゲームを作っていることについて、かなり驚いているようであった。 「まぁな」 「ふーん……まぁ、いいわ。それより、約束通り行くわよ!」  ヒナギクは俺の手首を掴み、元の世界に連れて行こうとした。 「ま、待ってくれ!」 「何よ?」  ヒナギクは不機嫌そうな表情でこちらの方に顔を向けた。 「実は今度の土曜日、響木と出掛ける約束をしたんだ。それまで待ってくれないか?」 「はぁ? 約束を破っておいて何よ、その言い草は」 「頼む。この通りだ!」  俺は深々と頭を下げた。俺の行為に対して、響木もヒナギクも驚いていた。 「ね、根音……いいよ、僕との約束のためにそこまでしなくても……」 「いや、ダメだ」  最悪死ぬかもしれないのだ。その前に響木が真のラスボスを倒すところを見届けておきたい。  ここはなんとしてでもヒナギクから許可をもらう必要がある。 「まさかあんたがそこまでするなんてね……まぁ、いいわ。この子に免じてOKしてあげる。それじゃ、日曜日の十時にコンビニのところで待ってるから」  ヒナギクは少々不満そうながらもそのままどこかへ去ってしまった。 「根音。良かったの? 先に約束してたんでしょ?」 「ああ。気にするな」 「さっきの人、彼女じゃないの?」 「断じて違う」  ヒナギクが彼女だなんて、考えただけでも恐ろしい。常に死との隣り合わせの恐怖を感じていなくちゃならない。  長時間ゲームをしていたため、すっかり夜は更けていた。響木と途中で別れ、家に帰宅した。 「怒首領蜂最大往生か……」  俺はパソコンを立ち上げ、ユアチューブでプレイ動画を拝見してみることにした。 「こ、これは……」  目を疑うような数々の光景が映った。
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