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第8話

 麻友と一緒に池袋を見て回った日から二日開け、月曜日がやってきた。  今日はサークルの集まりがある日である。その日、俺はいつもより少し早めに起き、コンビニに朝食を買いに行くことにした。 コンビニに入り、真っ先に雑誌コーナーへと向かった。月曜日は俺が毎週買っている雑誌の発売日でもある。 「あったあった」  お目当ての雑誌である週刊ヤングマガジーンを発見した。ちょうど最後の一つである。  俺は雑誌を手に取ろうとした。  すると、俺の手に他の人の手が当たった。 「「うん?」」  顔を上げると、そこにはヒナギクがいた。ヒナギクはこの前に会った時とは違い、黒いスーツを着用している。 「げ……!」  思わずそんな声が出てしまった。一方、ヒナギクは俺を見るや否や明らかに不機嫌そうな表情を見せた。 「あーら? 随分と嫌そうな表情をするのね。悪いけどこの雑誌は私がいただくわ!」 「ああ、どうぞ」  俺は即刻、コンビニから立ち去ろうとした。しかし、ヒナギクに後ろからガシッと肩を掴まれた。 「ちょっと待ちなさい! 仮にも魔王軍最強の幹部と言われたあんたがそう簡単に食い下がるの? 情けないわね」 「ああ。別に他のコンビニでも買えるしな」  食って掛かるヒナギクを無視し、扉へと向かった。 「あ! ちょ、ま……今、マガジーンとコーヒー買ってくるから待ってなさいよね!」  待つわけないだろう。というか、他のお客さんが好奇の目で見ているからやめてほしい。  コンビニから出た後、俺はダッシュしてコンビニから離れた。 「流石にここまで来れば大丈夫だろう」  今、俺が立っている場所はさっき入ったコンビニからだいぶ離れたところにある。 「どこが大丈夫ですって?」  背後から声がした。ゆっくりと後ろを振り向くと、したり顔をしたヒナギクが俺の前に立っている。 「うわ! 追ってきたのか……勘弁してくれよ」 「そうわ行かないわ。今日こそ決着を付けるわよ!」 「今の俺が戦っても勝ち目はない」 「ええ。分かってるわ」 「は?」  俺が勝てないと分かっていて勝負を挑んで来やがったのか。性格がひん曲がっているとしか言いようがない。 「あんたと幾度となく戦いを繰り広げてきたのよ? 事情はよく分からないけど、どうせ力の大半を預けた分身を元の世界に置いてきたってところでしょ?」  こいつ、そこまで分かっているのか。さすがに俺と今まで互角に戦ってきただけのことはある。 「た、確かにそうだが……」 「だから元の世界で私と戦いましょう! それなら文句は無いでしょう?」  確かにお互い全力を出して戦った方がいいに決まっているが、それには問題がある。 「それはできない」 「あら? どうして?」 「俺は魔王様の魔法でこの世界にやってきた。自分で元の世界に戻ることはできない」 「あー、なんだそういうことか。それなら大丈夫よ」  大丈夫というヒナギクの意味が俺には良く分からなかった。 「どういうことだ?」 「私はこの世界と元の世界を自由に行き来できるの。あんたも一緒に連れて行ってあげるわ!」 「何? お前、そんなことができるのか?」 「ええ。これで断る理由はないわね?」  いや、断りたい。そもそも俺はこの世界の人間を滅ぼす気などないのだ。戦う意味がない。 「やはり、どうしても戦わないとダメか? 俺はこの世界の人間を滅ぼす気など全くないんだが……」 「ダメよ! 魔族の言うことなんて信用ならないわ!」 「現に俺はこうしてこの世界に溶け込んで暮らしているだろう?」 「それは……そうだけど……」 「それに戦いでお前が命を落とす可能性だってあるだろう? する必要もない戦いで命を賭けるなんて馬鹿げていないか?」  半分、脅しのつもりで言ったのだが、予想に反してヒナギクは鋭い眼光を向ける。 「何を言っているのかしら? 私は命を落とすことなんて怖くも何ともないわ。全ては王国のためよ! あんたの首を取って元の世界に戻るわ。いい? あんたに選択肢はないのよ! 何なら今ここであんたを殺すことも……」  どうやらいくら説明しても理解してもらえそうにない。戦闘は避けられないようだ。 「そうか……いくら言っても無駄なようだな。いいだろう。そこまで言うならお前と戦おう。どうする? 今から戦うか?」 「いえ、今から仕事に行かなきゃいけないから今日の夜七時にさっきのコンビニの前で待っていてもらえるかしら?」 「ああ……というか普通に仕事に行くんだな」 「勿論よ。お世話になっている会社に迷惑掛けるわけには行かないからね! 私は王国軍の騎士団の前に一社会人だからね。いい? 絶対に逃げるんじゃないわよ!」  ヒナギクはそのまま会社へと走り去っていった。離れていくヒナギクの背中を見つめる。 「王国軍の騎士団の前に一社会人か……」  もしかしたら明日、俺は生きていないかもしれないんだな。  この世界に来てから全くと言っていいほど戦っていないため、かなり戦いの勘が鈍っていると思われる。こんな状態で果たして勝てるのだろうか。  一度、家に戻り朝食を採った後、コンビニのバイトに向かった。すでにレジには明梨さんが立っていた。  今日のシフトは俺と明梨さんの二人である。 「おはようございます」  俺は更衣室で着替えた後、レジに立った。接客、陳列など明梨さんと一緒に仕事をした。 「なんか、根音くん。今日なんだか元気ないね。大丈夫?」 「ええ、大丈夫です。ちょっと決闘を申し込まれてしまって……」 「へ? 決闘?」  明梨さんは目を丸くした。しまった。何を馬鹿正直に話しているんだ俺は。 「根音くん、誰かと決闘するの?」  明梨さんが俺の顔を覗き込んできた。興味津々という様子だ。 「じ、実はそうなんです……こう見えても昔、ヤンチャしてまして……過去の因縁をつけたいって決闘を申し込まれたんです」 「ふーん、そっかぁ。確かに根音くん、得体の知れない雰囲気を持ってるよね」 「そ、そうですか……?」  真斗にも似たようなこと言われたことがある。うまくこの世界に溶け込んでいるつもりでいたが、驕りだっただろうか。 「うん。それで、決闘勝てそうなの?」 「いやぁ……しばらく戦ってませんからね。自信ないですよ」 「根音くん、あなた勘違いしているわ」 「か、勘違いですか?」  一体俺が何を勘違いしているというのだろうか。俺は明梨さんが言おうとしていることが全く分からなかった。 「ええ。強さって言うのはね。肉体的な力だけじゃないの。精神も成長してこそ本当に強くなったって言えるのよ」 「は、はぁ……」  まぁ、言いたいことは分かる。分かるのだが、この世界で俺がやったことと言えば、バイトとゲーム作りくらいなものだ。  これで弱くなっていないはずがない。 「根音くんは今までゲーム作りに携わってきたでしょ? 創作活動っていうのはね、自分と向き合う神聖な行為なのよ。根音くんは自分でも気づかないうちに成長していると思うわ」 「そう……なんですかね」 「ええ。戦いとは本来、相手に勝つためじゃないわ。自分に負けないためにするものよ。そのことを忘れずに戦ってね」  深い言葉だな。明梨さん、何者なんだろう。昔、スケバンとかしていたのかな。 「分かりました……やってみます!」  明梨さんと話したお陰で少しだけ自信が湧いてきた。コンビニバイトを終えると、すぐにサークルの事務所に向かった。
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