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第7話

「う〜ん、ダメだ。上手くいかないな……」  明梨さんから貰ったアドバイスを基に改良作業を行なっていたのが、作業は難航を極めていた。  改善作業を行なっているのは魔王軍を裏切り、王国軍に忠誠を誓うエンドである。  魔王様に対する思いを消そうと思うのだが、そうすれば主人公が極悪非道な漢のように見えてしまい、どうしても消すことができない。  曲がりなりにも主(あるじ)として自分のことを親身に育ててくれた魔王様を殺すことに罪の意識はないのかこの主人公は。まぁ、書いたのは俺だが。 「もうこんな時間か」  スマホで時間を確認すると、麻友の待ち合わせ時間近くになっていた。外に出る準備を済ませ、最寄駅から電車に乗り、待ち合わせ場所へと向かう。    いけふくろうにて、すでに麻友が待っているのが確認できた。遅刻というわけではないが、約束の時間ギリギリになってしまった。 「お待たせ。すまない遅くなって」 「根音くん! ううん、私も今着いたばかりだから大丈夫」  今日の麻衣はいつもより服装に関して気合いを入れているように思えた。  サークルで会うときには見ることのない花柄のスカートに白のカラーシャツを着用している。 「そうか、良かった。それでどこに行く?」 「えっと、まずは本屋に行きたいんだけどジュンク堂書店に行ってもいい?」 「ああ」  俺たちは並んで歩き、ジュンク堂書店に向かうことにした。今日は土曜日ということもあってか、スクランブル交差点ではいつもよりもたくさんの人々が行き交っている。  歩くことおよそ五分でジュンク堂書店に到着した。ジュンク堂書店の池袋本店にはたくさんの本が取り揃えられており、さらに喫茶店まで設けられている。  本を購入した客が喫茶店で本を読むのに使われるケースが多い。 「ちょっと絵の描き方の本を見たいんだよね」 「そうか」  俺たちは上のフロアに上がり、絵の描き方に関する本を探した。  イラスト・デザインの本が並べられている棚に麻友の目的の本はあった。 「絵の本って色々あるんだな」  俺は興味本位で数ある絵の描き方に関する本の中から一冊を手に取った。  ペラっとページを捲ると、鮮やかなイラストとともに、パッと読んだだけでは良くわからない難しそうな絵の技法が細かく書かれている。 「まぁね。私もいろんな本を読んで勉強しているよ」 「そうなのか。絵の勉強ってひたすら描きまくるっていうイメージだったな」 「もちろん、たくさん描くことも重要だけどね。技術を覚えて絵に落とし込むっていうのも必要になってくるんだ。根音くんはシナリオの本とかは読まないの?」 「ああ、そういうのは読まないな」  シナリオの書き方については、真斗から教えてもらったサイトを使って覚えた。それ以外には特に参考にしているものはない。  あとは気分転換がてら、ライトノベルやアニメを見て研究するくらいだ。 「そうなんだ。シナリオの本とか買ってみれば? 読めば結構役に立つかもしれないよ」 「そうだな。ちょっと読んでみるか」  麻友に勧められ、俺は『猿でも分かる! ゲームシナリオの書き方』という本を購入した。  麻友も目的の本を購入し、俺たちはジュンク堂書店の中にある喫茶店で休憩することにした。 「俺はホットコーヒーにする。麻友は何にする?」 「私も同じので」  俺は店員を呼び、注文をした。 「いや、良い本買えたなぁ」  麻友は購入した本を取り出し、ページを捲った。 「麻友は本当に絵を描くのが好きなんだな」  とても真剣そうに本を見つめる麻友を見て、思わずそんな感想が溢れた。 「うん、まぁね」 「麻友はいつから絵を描いてるんだ?」 「小学校に美術部に入ってからかな。部活も楽しかったんだけど、中学校入ってからはゲームにハマって、それから漫画の模写とか、ゲームのキャラクターの絵を描くようになったんだ」  懐かしむように話す麻友はとても輝いているように見えた。 「そうか。俺は好きだぞ」 「え?」 「麻友の描く絵。お前の描く絵は魂が込められている」 「え、あぁ……そっか」 「俺も麻友の絵に負けないくらいのシナリオを書かないとな」 「シナリオの進捗は順調?」 「えっと、そうだな……」  思わず言葉を詰まらせると、麻友は少し呆れたように微笑んだ。 「分かりやすいな。根音くんは。あんまり順調じゃない感じ?」 「正直に言うとそうだな」  明梨さんに指摘を受けたところがどうも上手く改善できる気がしなかった。直さなければならない二つのエンドについて、どう改善するか俺は迷っていた。 「私はシナリオのこととか分からないからあんまり役に立てないかもしれないけど、困ったことがあればできるだけ手伝うよ」 「ありがとう。助かる」 「ふふ、どういたしまして」  とても頼りになる言葉である。こんな頼りになる仲間は元の世界だっていなかった。  思い返せば元の世界において、対等な友人というものを俺は持っていなかったかもしれない。 「麻友。お前は俺の大切な友人だ。これからもサークルメンバーとしてよろしくな」  麻友に対し敬意を持ち、率直な思いを伝えると、なぜか彼女は不満そうに眉をひそめた。 「そっか。『友人』か。ふーん……」 「ど、どうした。何か不満なことでもあったか?」 「いやー、別にー?」  これは多分怒っている。どことなく雰囲気を感じる。しかしながら理由は全く不明である。  もしや友人というのがあまりにもおこがましかっただろうか。 「麻友。もしかして友人っていうのが気に入らなかったのか? やはり、麻友の配下ではないとダメだろうか?」  サークルに入った順番としては俺が後だしな。この世界は実力、功績関係なしに組織に所属した順に偉いというような風潮がある。も  もっとも、麻友は俺よりも遥かにサークルに貢献しているのだが。 「違うよ! もういいよ!」  その後、ちょうどいいタイミングでコーヒーが運ばれた。コーヒーを飲み終えた後、俺たちは別の目的地へと向かうことにした。  麻友は服を買いたいと申し出たため、服が売っているお店へと向かう。  俺たちが入ったお店は池袋パルコ店であった。四階に上がり、女性ものの服が売っているコーナーへと入る。 「根音くん。こっちとこっち、どっちがいいと思う?」  両手に服を持った麻友はどちらの服が良いか聞いてきた。右手には黒と白のストライプのセーター、左手にはピンク色のセーターを持っている。 「うーん……そうだな。俺はこっちかな」  直感的にピンク色のセーターを指差した。 「根音くんはピンク色が好きなの?」 「ん? 好きというほどではないが、嫌いではないかな」 「それじゃ、一番好きな色は?」 「やはり……黒だな」  黒。それは魔族を象徴する色である。我ら魔族は夜に活動を行うことが多い。  漆黒の闇、そして我ら魔族から溢れ出る暗黒のオーラといい、魔族と言えば黒なのである。 「黒か。そっか……黒いのはなさそうだね」 「麻友。別に俺の好きな色を選ぶ必要はないぞ。自分の好きな色を選べばいい」 「そ、それはそうだけどさ……そうだ!」  何かを思いついた麻友は服を元の場所に置き、別のお店へと移動した。 「こ、ここは……」  ランジェリーショップであった。下着類が売っているお店だ。こんな場所、元の世界で入ったことはない。  いや、こんなところに入った日には、全魔族からド変態扱いされてしまうことであろう。  麻友は平然とした様子で下着を手に取った。 「これとこれ、どっちがいい?」  際どい二着の黒い下着を手に持ち、どちらが良いか尋ねてきた。いや……これはいけない。  はっきりと麻友に伝えておかなければならないことがある。 「いいか。麻友よ」 「え? な、何?」  俺は『コホン』と大きく咳払いし、 「そういうものはな、心の底から愛する人だけに見せるべきだ。麻友も俺なんかではなく、生涯を遂げるであろう人に選んでもらえ」  麻友に女性としての立ち振る舞いを伝えた。  しかし、なぜか麻友は引きつった笑いを見せた。 「あ、あはははは……根音くんは真面目っていうか潔癖っていうか。根音くんは付き合っている人はいるの?」 「今はいないな」 「それじゃ、前はいたってこと?」 「そう……だな……」  付き合っていたというべきか。お互い忙しくてデートなどする時間もほとんど取れなかったが。  それにお互いの関係性を考えると他の者の前で堂々とデート出来なかったのも当然と言えば当然であるのだが。 「その人のこと、今でも好き?」 「ああ」  俺は頷いた。なぜか麻友は悲しそうな表情をしている。 「そっか……ねぇ、今度は根音くんの服も見てみない?」 「俺の服か?」 「うん! 根音くん、背も高いし、似合う服たくさんあると思うよ! いこ!」 「あ、おい!」  麻友に手首を掴まれ、半ば強引にメンズファッションのコーナーに向かうことになった。 「これとかどうかな? 試着してみて!」 「お、おう……」  試着室に麻友が選んだ服を持ち込み、着替える。  麻友が選んだ服は黒のチェストコートと、紺色のジーパンであった。  服を着て、鏡に映る自分の姿を眺める。似合っているのか似合ってないのか良くわからない。  とりあえず、俺は麻友に見せるべくカーテンを開けた。 「おお! 根音くん、すっごい似合ってるね!」 「そ、そうか?」 「うん、かっこいいよ!」  かっこいいなどと言われたのは元の世界でヒナギクと激戦を繰り広げた時以来だ。  戦いの後、いつも必ず部下達から「ネオンさん、すごくカッコよかったです!」という感激の言葉をもらっていた。 「そうか。ありがとう。よし、これ買うかな」  麻友お墨付きの服を購入することにした。  麻友も先ほど買おうか迷っていたピンク色のセーターを購入した。  店を出ると、外はすでに暗くなっていた。 「ねぇ、根音くん。良かったら一緒に夜ご飯食べない?」 「ああ、いいぞ」 「私、行きたいお店があるんだけどそこに行ってもいい?」 「ああ」  飲み屋が立ち並ぶ繁華街に入り、建物が建て並ぶ中に一件の古い建物が視界に入った。 「このお店に行ってみたかったんだよね〜」  その建物には『焼き鳥 イケブクロ』という看板が掲げられていた。看板は古く錆びており、建物は隠れ家的な雰囲気を醸し出していた。  扉を潜り抜けると、焼き鳥の香ばしい香りが鼻腔を突く。 「いらっしゃいませ。二名さまでしょうか?」  お店の中に入ると、すぐに若い女性の店員が出迎えてくれた。お店の中はやや薄暗く赤めの照明が灯されている。  店内は大学生と思われる団体、サラリーマンで賑わっている。 「はい、そうです!」  麻友が答えると、店員にカウンター席に案内された。 「根音くん、何頼む? 私、とりあえずビール頼もうかな」 「それじゃ、俺もビールにしよう」 「分かった。それと串焼きセットとキャベツのサラダも頼むね!」  麻友は手際よく注文を決め、店員に注文をした。注文してからすぐにビールが運ばれた。 「それじゃ、根音くん。乾杯しようか!」 「そうだな」  俺はビールの入ったグラスを掲げた。 「かんぱーい!」「乾杯」  グラスとグラスをぶつけ、ビールを喉に流し込む。シュワっと冷たい辛口の液体が喉を通っていく。 「根音くんは家にいるとき、何してるの?」 「そうだな……シナリオを書くか、アニメかユアーチューブを視聴するかのどっちかだな」 「そっかぁ。余計なお世話かもしれないけど、運動もした方がいいよ。運動すれば脳の活動が活発になって、作業効率がグンと上がるんだって!」 「ああ。一応、早朝にランニングはしてるけど、確かにもう少し運動する機会を増やした方がいいかもな。麻友は何か大学で運動したりしているのか?」 「うん、たまに友達とバスケしてるよ」  バスケ。バスケと言えば、この世界に来てからスラムダンクという漫画にハマったな。  主人公がひたむきな努力をして驚異的なスピードで成長していく様は読んでいて、思わず心が熱くなった。 「お待たせしました! 串焼きセットとキャベツサラダです」  頼んでいたメニューが運ばれてきた。串焼きセットのお皿にはモモ・ムネ・皮・レバーが二本ずつ置かれている。 「それじゃ、焼き鳥も食べようか」 「そうだな」  俺はモモの焼き鳥を手に取り、食べてみた。肉はとても柔らかく、ソースの味と相まってとても美味しかった。 「美味しいなこれ」 「そうでしょ! そういえばさっき、根音くんアニメ見てるって言ってたけど、どんなの見るの?」 「ああ。このすばとか異世界魔王とか見るな」 「そっかぁ。異世界ものが好きなの?」 「まぁ、そうだな」  単純に面白いという理由もあるが、元の世界と似ているため、見ていて懐かしい気持ちになるのである。 「私は学園ものが好きだなー。俺ガイルとかゲーマーズとか」  どちらも聞いたことはある。しかし、見たことはない。 「学園ものか……今度俺も見てみようかな」 「うん! 特に俺ガイルは本当に面白いから絶対見てみてよ!」  その後も麻友と自身の好きなアニメについて語り合った。楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、すでに遅い時間となっていた。 「そろそろ出ようか」 「そうだな」  お会計を済ませ、お店を後にした。最寄駅まで麻友と一緒に歩く。 「根音くん、今日はすごく楽しかったよ。ありがとう!」 「ああ、俺も楽しかった。おかげでいいシナリオが書けそうだ」 「うん! 面白いシナリオ期待してるよ!」 「ああ。それじゃまたサークルで」  麻友と別れ、駅の改札口をくぐり抜け用とした時、 「根音くん!」  麻友に呼び止められ、後ろを振り向いた。 「なんだ?」 「あの……冬コミが終わったら、その……」  麻友の次の言葉を待っていたが、なぜか麻友はその先を話そうとはせず、無言のまま俺に近づいてきた。 「ううん……やっぱりなんでもない。気をつけて帰ってね」 「ああ。それじゃまた」
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