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第6話

 シナリオ制作と忙しいバイトをこなしていると、あっという間に土曜日がやってきた。カーテンを開けると、窓から清々しいまでの眩い光が差し込んできた。  今日の為になんとかシナリオを完成させた。ゲーム会社で勤務経験のある明梨さんにシナリオを見てもらうため、さすがに緊張する。  一体、明梨さんは俺のシナリオに対し、どんな評価を下すのだろうか。  シャワーを浴び、寝間着から外出用の服に着替え、もう一度シナリオを見直すことにした。  キャラクターのセリフ、戦闘シーンをより良いものにするため、推敲作業を行った。 「やべ、もうこんな時間か」  時刻を確認すると、待ち合わせ時間近くとなっていた。そろそろ家から出ないと待ち合わせ時間に遅れてしまう。  いつも使っているリュックに相棒のノートパソコンを詰め込み、約束の場所である喫茶店へと向かった。  喫茶店の前に到着し、スマホを確認すると明梨さんから「先に着いたから席で待ってるね」と連絡が来ていた。  まだ待ち合わせの時刻の五分前であるが、明梨さんもう先に着いていたか。お店の中に入ると奥側の席に明梨さんが座っているのが目に入った。  店内には少し古めの趣のある茶色いテーブルと椅子が置かれていた。照明はやや薄暗く、ゆったりとしたクラシックのBGMが流れていてなかないいお店である。  やや駆け足で明梨さんが座っている席へと向かった。 「すみません、遅くなって」 「ううん、大丈夫」  明梨さんはニコリと微笑んだ。ラーメン屋であった時はシンプルな服装をしていたが、今日の明梨さんはダークブラウンのカーデに緑色のズボンというお洒落な服装をしており、いつもストレートである髪にはウェーブを掛けられていた。  いつもコンビニで見ているか明梨さんとは違う雰囲気の明梨さんを見て、思わず緊張してしまった。 「座ったら?」 「ええ、そうですね」  明梨さんに座るよう促され、荷物入れにリュックを置き、椅子に座った。  じっと明梨さんに見つめられ、思わず背筋が伸びる。 「それじゃ、早速だけどシナリオ見せてくれる?」 「はい、分かりました」  リュックからノートパソコンを取り出した。ゲームのタイトルは『デーモン・アルカディア』である。  三日前にタイトルを考えた。最初に見てもらったのは魔王軍に忠誠を誓い、王国軍を滅ぼすエンドである。  明梨さんはとても真剣そうな表情でシナリオを読み進めた。すごく緊張するな。  やがて、読み会えたのか明梨さんは「ふー」と大きく息を吐いた。 「ど、どうですか?」 「これ、別のエンドもあるんだよね?」 「はい、そうですけど……」 「別のエンドの方も見てもいい?」 「もちろんです。お願いします!」  明梨さんに別のエンドも見てもらうことにした。  最初のエンドの感想が気になるところであるが、せっかく別のエンドも見てもらえるため、ここは明梨さんが読み終えるのをじっと待つことにした。  明梨さんが読み終わるまで何もすることがなく暇であったが俺は注文したコーヒーを飲みながら待っていることにした。  初めて入った喫茶店であるが、なかなか美味しいコーヒーを煎れてくれるお店である。 「読み終わったわ」 「ど、どうですか?」  恐る恐る感想を訊くと、明梨さんは「うーん」とこめかみに指を当て、悩んでいるような態度を見せた。 「まず、王国軍を滅ぼすエンドなんだけどね、これはなかなかいいと思った。主人公が魔王のために王国軍を戦って無双していく様は爽快感を感じたわ」  俺が最初に作り上げた王国軍を滅ぼすエンドに関して、明梨さんは想像していたよりも良い評価をくれた。  曲がりなりにもゲーム会社で働いていた人に良い評価をもらえてとても嬉しい。 「そ、そうですか。ありがとうございます!」  礼を言うと、明梨さんは顔を曇らせた。 「けど……残りの二つのエンドに関しては正直あんまり良くないって思ったかな。もちろん私の好みも入っているんだけどね」  魔王軍を裏切り、王国軍に忠誠を誓うエンドと王国軍にも魔王軍にも忠誠を尽くさず、自由気ままに生きるエンドに関して、芳しくない評価を受けてしまった。 「い、一体……どこがダメなんでしょうか?」 「まず、王国軍に忠誠を誓うことになるエンドなんだけど……なんていうか迷いが感じられるのよね……魔王に対する申し訳ないという心情とか思い出とか詳細に書かれていて、主人公が裏切ったことを明らかに後悔しているように見える。だから最後、主人公が世界の平和のために魔王を倒すという選択肢を取ったことに説得力がないって思った」 「な、なるほど……」  明梨さんがくれたアドバイスをメモすることにした。 「後、自由気ままに生きていくエンドなんだけど、これも自由に生きていくって決めたはずの主人公の魔王に対する葛藤や申し訳ないっていう思いが必要以上に書かれているなって思った。魔王との思い出とか、書かない方が主人公の自由に生きていくんだっていう決心がプレイヤーに伝わってくると思うよ」 「さ、参考になります……」  今、明梨さんに言われたアドバイスを基に改良していかなければならないな。改善が終わったら一度、真斗に見せることにしよう。 「根音くんは多分、シナリオを書く時、主人公に感情移入しちゃうタイプなんじゃないかな?」 「そう……かもしれないですね」  確かに、王国軍を滅ぼすエンドに関してはシナリオを書いている時、かつて自分が魔王様に忠誠を誓っている時のことをイメージして書いた。  だから、他の二つのエンドよりもかなり書きやすいと感じた。 「そうだよね。最初見させてもらったエンドからはすごく主人公に感情移入しているなって伝わってきたんだよね。けど、後の二つのエンドに関しては、もしかして根音君自身が主人公の取った選択肢に納得してないんじゃないかな?」  確かにそうかもしれない。  俺は主人公が魔王様を裏切るという感情がイマイチ理解できなかった。そのため、自分なりにイメージして描かなければならなかった。 「納得してないってわけじゃないて思います。けど、主人公の思いがどうにも上手く表現できないっていうか……」 「そっか。まぁ、偉そうに言ったけど、さっきアドバイスさせてもらった二つのエンドもそんなに悪くはないと思うよ。けど、最後に一つだけいい?」 「な、なんですか?」 「いいものを作るコツはね。ちゃんと自己満足できるものを作ることだよ!」  自己満足か……同人活動とはいえ、プレイヤーの目線を無視するようで少し気が引ける。  だが、明梨さんが言うことなら、間違いというわけでもないのだろう。 「分かりました。参考にさせてもらいます」 「うん! ゲーム作り、頑張ってね!」  その後、喫茶店でたわいもない雑談し、別のレストランで一緒にお昼ご飯を食べ、解散した。  今の俺はやる気に満ち溢れている。早速、シナリオ改良するぞ!
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