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第3話

「ふ〜疲れた……」  長時間の作業に疲れた俺は腕を伸ばした。壁に掛けられている時計を確認すると、時刻は既に夜九時を過ぎていた。  すでに真斗以外のメンバーはすでに帰っていた。 「お疲れ様」  真斗は俺が作業しているテーブルにコーヒーの入ったマグカップを置いてきた。 「ああ、ありがとう」 「進捗具合はどう?」 「そうだな……正直あまり進んではいないな。キャラクターのセリフとかでちょっと悩んでてな……」  シナリオを書く場合はゲームの展開は勿論のこと、キャラクターのセリフ、服装、効果音など細かく指定して書き進める必要がある。 「まぁ、悩んでもいいものはできないよ。今日はもう帰ってゆっくり休むといい」 「ああ、そうするよ」  コーヒーを全て飲み終えたら帰るか。俺は腕を伸ばし、凝った肩を回した。 「そういえば根音くん。君はどうしてゲームを作りたいと思ったのかな?」 「な、なんだよ急に……」  突然、ゲーム作りに興味を持った経緯を聞かれて戸惑った。普段、真斗と雑談することもあるが、こういった個人的な質問は始めて受ける。 「まぁ、根音くんと知り合ってもうかれこれ三ヶ月以上経つからね。そろそろ君との仲も深めていきたいっていうかさ」 「別にそんな大層な理由じゃないよ。ゲームをプレイしているうちに作りたくみたくなったていうか……」  ゲームを作りたい人間というのは、本来ならもっと若いうちから行動しているのだろう。  麻友も中学生の頃からゲーム制作に興味を持ち、大学に入ってからこのサークルに所属し、本格的に作り始めたという。  響木もあの歳ですでに何曲もの曲を作り上げ、このサークルに貢献してきたという。 「なるほどね。好きなゲームはあるのか?」 「ああ。『ひぐらしのなく頃』にとか、『ペルソナ』が好きだ」  どちらも夢中になってプレイした。この二つをプレイして、俺はゲームを作りたいと思い始めたのである。 「そっか。それじゃ、この二つを超えられるようなシナリオを期待しているよ」 「さ、さすがにそれは……」  幾ら何でもハードルを上げすぎだろう。なにせ、本格的にシナリオを書くのは今回のゲームが初めてである。  ちなみにこのサークル入ったばかりの頃はというと、冬コミとは別のイベントに出展するゲームのちょうどマスターアップ(納期)前であったので、俺ができることは雑用くらいであった。 「いや……根音くん。君ならきっとできるよ。君からは他の人とは違う雰囲気を感じるんだ」  真剣に語りかける真斗に俺は少しドキッとした。顔が強張ってしまっているのが自分にも分かった。  こいつ……まさか、俺が別の世界から来たことに気づいているのか?   いや、考えすぎか。さすがにそれはないか。 「な、なんだよ。他の人とは違う雰囲気って……それより、ゲーム会社の仕事ってどんな感じ何だ? やっぱりサークル活動とは違うのか?」  サークル活動を通じて、ある程度ゲーム作りを経験したら、またゲーム会社を受けてみようと考えていた。 「うん、全然違うね。企画書を出しても上から『売れそうにない』とか『つまらない』ってすぐに返されるし、やっと企画書が通っても、作っては修正、作っては修正、それの繰り返しさ。サークル活動の方が百倍楽しいよ」 「……そうか」  淡々と語る真斗であったが、その口調は決して辛いという感情だけではないように思えた。なんだかんだ言ってもおそらくは、 「けどね、やっぱりゲームがお店に並ぶとすごく嬉しいものだよ。こればっかりは実際に体験しないと分からないかな」  ゲーム作りが楽しくて仕方ないようだ。それも、仕事のみならず趣味でもゲームを作るくらいには。 「コミケでゲームを販売すれば少しは俺にも分かるようになるのか?」 「うん、きっと分かるさ。だからさ、いいシナリオを書いてきてよ。天才シナリオライターくん」 「任せろ。神ゲーになるようなシナリオを書いてみせる」  魔王様にすら言ったことのない強がりを俺はサークルリーダーに告げた。  家に帰宅した後、俺はシャワーを浴びてすぐに眠ることにした。次の日の午後からは居酒屋のバイトが控えている。  バイトの仕事は冒険者や王国軍と戦うよりも精神的に疲れる気がする。少しでも身体を休ませておかなければならない。  眠る直前、俺は魔王様のことをふと思い出していた。 「魔王様、元気かな……」  魔王様の命令に従わず、この世界に留まる選択をしたこと、後悔しているわけじゃないが、やはり罪悪感を感じている。  この世界に来てから二ヶ月が経過した頃、俺は分身魔法を使い、分身を元の世界に行かせた。  分身の俺は任務を達成したと魔王様に告げていることだろう。魔王様を騙すようで申し訳ないが、こうでもしないと俺がこの世界に留まることができない。  分身にはオリジナルである俺の魔力の大半を与えたため、滅多なことでは消滅することはない。  その代償として、オリジナルの俺はもうほとんど魔法を使うことができなくなったが。  だが構わない。俺はこの世界でゲームを作って生きていくと決めたのだから。俺にはもう魔法は必要ない。  俺は決意を改め、深い眠りへと落ちた。
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