2 / 17

第2話

「ありがとうございましたー!」  異世界に来てから、この世界における時間の経過を表す単位でおよそ半年余りが経過した。  この世界で働いていくと決めた俺は必死に仕事を探した。  しかし、この世界では『高校』や『大学』と呼ばれる教育機関を卒業していないと真っ当な仕事に就くことができないらしく、俺はまず初めにコンビニと呼ばれるお店でアルバイトとして働き始めた。  しかし、コンビニのバイトだけでは生きていくことは難しく、他にも居酒屋のバイト、ティッシュ配りのバイトなど、いくつかのバイトを掛け持ちして生活している。 「お疲れ様、根音くん。休憩に入ってもいいよ」  ここのコンビニ『フレンドリーマート』の店長、小坂明梨(こさかあかり)さんに休憩の交代を告げられた。  明梨さんは今年で三十歳になる若手の店長で、面倒見も良く他のバイトからも慕われている。  とても三十歳には見えないほどとても若々しい容姿をしており、大学生のバイト仲間からも恋心を持たれているほどである。 「ありがとうございます。それじゃ、店長。休憩行ってきます」  俺は休憩室へと向かった。この世界で生きていくため、名前を藤里根音(ふじさとねおん)と名乗っている。  また、銀色の髪を黑に染めた。その方がアルバイトの面接での印象が良いからだ。  俺は休憩室に置いてある椅子に座り、交代の時間までスマホを弄って待つことにした。  この世界には本当に面白いコンテンツが多い。最近、俺がハマっているゲームは『キングスレード』というゲーム。  ジャンルとしてはRPGに該当し、戦闘では横スクロールで展開され、直感的に操作することができる。  その上、自動戦闘機能まで搭載されており、他のことをしながらゲームをすることもできる。  しばらくキングスレードで遊んでいたが、LINEの通知が来たのに気づいた。  一度ゲームを中断し、LINEを確認することにした。  LINEの送り主はサークルリーダーからであった。  ――根音くん。今日は予定通り、午後五時に事務所に来て欲しい。行けない場合は連絡してくれ。  LINEにはそのように書かれていた。実は三ヶ月月程前から同人サークルに所属していた。  この世界に来てから、様々なコンテンツに触れた俺は自分でゲームを作ってみたいと思ったのである。  しかし、フリーターである俺を雇ってくれるゲーム会社などどこにもなかった。  そこでネットを使い、同人サークルを探した。同人サークルに所属すると、商業作品ほどのクオリティのゲームは作れないものの、俺のようなズブの素人でもゲーム作りに携わることができる。  俺はサークルリーダーに『予定通り五時に行く』と返信した。  バイト休憩が終わり、再び仕事に取り掛かった。陳列に接客、発注作業と仕事は多岐に渡るが何とかこなしていった。 「お先に失礼します。店長」 「うん。お疲れ様」  店長に挨拶し、お店を後にした。最寄駅から電車に乗り継ぎ、サークルの事務所へと向かう。  事務所がある場所は大手町駅から徒歩五分ほどのところにあるアパートの一室だ。  インターホンを押し、扉を開け中に入る。靴を脱いでリビングに向かった。  ゲーム作りは2LDKのリビングにて行われる。時計の針は五時五分を示していた。  すでに他のサークルメンバーも来ていた。  他のメンバーは各々パソコンや印刷した紙に注目していて、俺が来たことに気づいていないようであった。 「お疲れ様。すまない、遅くなって」  俺が挨拶すると、みんなは俺の方に注目した。 「やあ、根音くん。お疲れ様」  爽やかな笑みを浮かべ、話しかけてきた茶髪で背の高いこの人こそサークルリーダーの湯沢真斗(ゆざわまさと)である。  真斗は現在二十六歳で、ゲーム会社に勤務している。サラリーマンとして働く傍ら、一年前から同人活動を始め、これまで何作品かのゲームを作っている。  このサークルにおいて、プロデューサー兼プログラマーを担当している。おまけに身長は高く男前という高スペックの持ち主である。 「根音くん、来るのちょっと遅いよ! みんな待ってたんだから!」  サークルメンバーのうちの一人に軽く肩を叩かれた。  彼女の名は六郷麻友(ろくごうまゆ)。ピンク色のショートボブの髪が特徴で、彼女は大学に通いながらサークル活動を行なっている。  また、このサークルにおいては原画・グラフィッカーを担当している。 「それよりさ、企画書は出来たのか?」  サウンド担当の合川響木(ろくごうひびき)が俺に企画書が完成したかどうか訊いてきた。サークル最年少のメンバーで、彼女は現在十六歳の女子高生である。  彼女は髪を金髪に染めており、服は黒を基調とした独特のデザインが施されたものを着用している。 「ああ、何とかな」  俺が答えると、真斗は満足そうに微笑んだ。 「そうか。それは良かった。それじゃ、早速読ませてもらおうかな」  真斗に早速、昨日夜遅くに完成させた企画書を見せることにした。鞄の中に入っているパソコンを取り出し、すぐに起動させる。  デスクトップに保存されているワード形式のファイルを開き、真斗に見せた。  今回、冬コミに向けて制作予定のゲームのジャンルはRPGであり、俺は試行錯誤しながら、企画書を書き上げた。あらすじはこのような感じだ。    アルカディアという国において、二つの勢力が争いを繰り広げていた。  一つは王国軍。敵対する魔族を滅ぼし、国の繁栄を目指している。  もう一つは魔王軍。王国軍を滅ぼし、魔族の繁栄を目指している。  魔王軍は王国軍からの優秀な兵士の出現により、衰退の一途を辿っていた。  そこで、魔王はある決断をする。それは異世界から人間を呼び寄せるというもの。  異世界に紹介された主人公は魔王に忠誠を示し、スパイとして王国軍に所属することになる。  しかし、その後どうするかはユーザーに選択権が与えられる。  そのまま魔王軍に忠誠を誓い、王国軍を滅ぼすエンド。  魔王軍を裏切り、王国軍に忠誠を誓うエンド。  王国軍にも魔王軍にも忠誠を尽くさず、自由気ままに生きるエンド。  プレイヤーの選択肢によってこれら三つのエンドへと分岐する。 「真斗、どうかな?」 「うん。悪くないと思う。このままの方向性で、あとはキャラのセリフとか効果音の指定とか進めてもらえるかな?」 「ああ。分かった」  プロデューサーからOKを貰うことができたので、早速シナリオを書くことにした。  セリフ、地の分、背景など考えるのはとても大変な作業であるが、今この瞬間はとても楽しい。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!