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第1話

 日が沈みかけている夕暮れ時、俺は魔王様に呼ばれ、王室にいた。魔王様は迸る魔力を抑えながら俺の前に立っている。魔王様に対し、敬礼のポーズをし、言葉を待っていた。 「ネオンよ。我ら魔王軍は窮地に陥っている。なぜだが分かるか?」  魔王様は酷く深刻そうな声色で、我ら魔王軍が窮地に陥っている理由を訊いてきた。  これは慎重に答えなければ魔王様の機嫌を損ねてしまうことになるだろう。 「そうですね……恐らくは『冒険者』と呼ばれる輩の中に急速に力を上げた者がいるのが原因かと」  俺も部下たちから少し聞いただけなので詳しくは知らないが、冒険者と呼ばれる者の中に、生意気にも我らに楯突く輩が出現した。  本来、奴らは森やダンジョンに潜むモンスターを狩って生活しているのだが、最近になって我ら魔王軍にも牙を向けるようになった。 「そのとおりだ。しかし、なぜ急速に奴らが力を付けたのか知っているか?」 「いえ」  単純に王国が冒険者の育成に力を入れているからだと思っていたが、他に何か理由があるのだろうか。 「実は冒険者の中から『転移者』と呼ばれるものがおってな。転移魔法によって異世界からやって来ているのだ。異性会から転移してきた人間は必ず凄まじい力が与えられる」 「い、異世界からやって来た人間ですか?」  にわかには信じがたい話であると思った。異世界から人間だと? 本当に異世界なんてものが実在するのか。 「そうだ。調べたところによると、王国にいる魔法使いが転移魔法を使い、異世界で暮らしている人間を呼び寄せている。そこでネオン。お前に頼みがある」 「は! 何なりと命じください」  深々と頭を下げた。俺は魔王様に忠誠を誓った身。たとえこの身が滅びようとも戦い続けるつもりである。 「お前には異世界に行ってきて、異世界にいる人間を滅ぼしてほしい」 「異世界にいる人間をですか?」  てっきり俺は転移魔法を使って異世界から人間を呼び寄せている魔法使いというのを倒してほしいと命じられると思っていた。 「ああ。本当なら転移魔法を操り、異世界から人間を呼び寄せている魔法使いを抹殺して欲しいのだが、厳重な警備体制が敷かれている王国へ攻め込むには危険が高い。だから、私は異世界に通じるゲートを開ける魔法を考案したのだ。異世界にいる人間は魔法を使うことはできない。お前が異世界の人間を滅ぼせば、もう冒険者の中から強大な力を持つ者は現れなくなるだろう」  なるほど。さすがは魔王様だ。まさか異世界に行く魔法を編み出すとは。 「承知いたしました。すぐさま異世界にいる人間を全て滅びしてみせます」 「良い心がけだ。奴らは一人一人大した力はないが、数が多い上、少々厄介な兵器を持っている。そこだけは注意するようにな」 「は!」  再び敬礼のポーズをした。魔王様に匹敵する魔力を持つと言われている俺にとっては造作もない仕事だ。  魔王様は魔力を解放し、何かの魔法を放とうとした。 『オープン・ザ・ゲート!』  すると、俺の前に円形の異世界に繋がる時空の裂け目が出現した。 「ネオンよ。この裂け目に飛び込むのだ。この裂け目は異世界に通じている」 「かしこまりました。あの……ちなみに戻る時は?」 「しばらくしたら私がお前の前に再びゲートを出現させる。ただし、異世界の人間を滅ぼしていない場合はまだ帰ってくるでないぞ。定期的にゲートは出現させるからな」 「は。では行ってまいります!」 「うむ。達者でな!」  俺はゲートの中を潜った。頭が痛くなるような感覚に襲われつつも、しばらくすると初めてみる光景が目に映った。 「ここが異世界か……」  大勢の異世界人達が歩いていた。元の世界では見たことのない、変わった衣装を纏っている。見た感じ戦闘には向かなさそうな服装だな。  髪の色は基本的に黒色が多いようだ。俺の髪色は銀色なのだが、俺と同じ髪色のものは見当たらなかった。  そして今気づいたが自分の服装が大きく変わっていた。生地が硬く青いズボンと変わった模様が入った上着を着ていた。 「せっかくだし、少し歩いてみるか」  一気にここら一帯を吹っ飛ばしてしまうのも良いと考えたが、せっかくなので散歩がてら歩いてみることにした。  大きな建物が目に映った。建物の上の方に『秋葉原駅』とプレートが付いていた。 「秋葉原駅……」   見たことのない文字であるが、なぜか俺はこの世界の文字を読むことが出来た。魔王様がこの世界に順応できるよう、力を授けてくれたのだろうか。  俺は大きな通りを歩いてみることにした。そこではたくさんの人が密集状態で歩いているため、かなり歩きづらかった。  それにしても何という人の多さだろうか。俺の知る限りでは、元の世界で一番人の数が多いところは王都『アルカディア』であるが、アルカディアでもここまで混雑したりしない。  しかし、異世界人たちは何食わぬ顔で歩いている。苦しくないのだろうか?  密集状態を避けるため、建物の中に入ることにした。『とらのあな』という建物だ。しかし、建物の中も狭くて窮屈である。  そこにはたくさんの本が並べられていた。ここは本屋だろうか? 一冊の本を手に取ると、元の世界では見たことのないような絵柄が表紙に描かれている。  一体、これには何が書かれているのだろうか。  俺はとても気になった。せっかくだ。一冊、頂戴するかな。するとズボンにある違和感を感じた。  ふとポケットを確認すると、身に覚えのない黒い革で出来た入れ物が入っていた。  中身を確認すると、人が描かれている紙切れ十枚とメモ用紙が入っていた。  ――ネオンよ。お前がこの世界に順応できるよう、服装を異世界準拠にし、異世界語が分かるようにしておいた。この入れ物の中に異世界で使える通貨をいくらか入れているが、足りなくなったら人間から奪うなりして何とかするがよい。それでは検討を祈る。  なるほど。これは異世界の通貨なのか。俺は本を持って売主のところへと向かった。 「これを一つくれ」 「かしこまりました」  売主は俺から本を受け取り、見知らぬ道具で本を押し付けた。道具から『ピ』という甲高い音が発生する。 「千二百円になります」  額を店員が伝えてくるが今ある通貨を何枚必要なのか分からない。 「これで頼む」  俺は十枚全部渡してみることにした。 「えぇ!?」  店員は驚いたような声を上げた。まさか……足りないのか? 「い、一枚だけで大丈夫ですよ?」 「そうか」  どうやら一枚だけで買うことができるらしい。俺は九枚を入れ物の中にしまい込んだ。 「八千八百円のお返しです」  さっき持っていた紙切れとは別の紙切れ四枚とコインが四枚渡された。  建物から出た後、椅子に座り先ほど購入した本を読んでみることにした。本に包まれている謎の透明な素材を取り外し、一ページを捲った。  可愛らしい女性が登場し、そこから学校での生活が始まっている。こういう話がこの世界では人気なのだろうか。 「な、なんだこれは……」  読み進めていくうちに不思議な感覚が心を満たしてきた。  学校の女子生徒達が一緒に『ゲーム』という娯楽品を作るだけの話。ただそれだけなのに、なぜか心が締め付けられるようであった。  ゲームを作る上での苦難の発生、それを乗り越えるた先の結束、俺のいた世界では考えられない同性間での恋愛など、命のやり取りをしているわけでもないのに読んでいてドキドキハラハラさせられる。 「なんて……面白いんだ」  全て読み終えるといつの間にか涙が溢れていた。今まで俺は元の世界で物語を何度か読んだことがあるが、こんな気持ちになったのは初めてだ。  もっとこの世界にある物語を読んでみたいと思った。 「異世界人達を滅ぼした後にでも読むか。いや……」  それでは本を作った製作者に対して、あまりにも申し訳ない。 「この世界で……働くか!」  俺はそう決心した。
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