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第15話
次の日、俺はいつも通り登校した。教室に入るとすでにシトラスが席に座っていた。
シトラスは俺が教室に入ってきたことに気がつくと、すぐに俺の元に向かってきた。
「おはようございます、慎さん!」
「おはようシトラス」
「あの、今日生徒会に行く前に話があります。放課後に屋上に来てもらえますか??」
「ああ」
要件は大体分かっている。昨日、おじいさんから聞いた話と関係があることだ。
授業を半ば上の空の状態で受けているとあっという間に放課後がやってきた。
シトラスはホームルームが終わると、すぐに教室から出て行ってしまった。
いよいよか。俺は重い腰を上げて屋上に向かう。
果たして『あの人』は一体、どんな反応を示すだろうか。場合によっては戦う場合もあるだろう。
しかし――結局うまく答えがまとまらないまま屋上に辿り着いた。
「お待ちしておりました。慎さん」
シトラスが屋上で落下防止用のフェンスにもたれかけながら佇んでいた。
日本人離れした銀色の髪をなびかせ、無表情で立っているその姿は俯瞰で見ると実に絵になるなと思わず思った。
「ああ。泉さんはまだ来てないのか?」
俺たちが待っていたのは我らが生徒会長の一関泉さんであった。昨日、見せてもらったシトラスの母親の姉にあたる人物、その姿は実に泉さんによく似ていた。
ただの偶然――そう言い切ることができないくらいにはあまりに良く似ていた。
さらに俺は能力で泉さんの感情を読み取ることができない。
おばあさんは同じハイドロネアウンドロ星人に対して、相手の心を読み取れなかったあたり、泉さんがハイドロネアウンドロ星人である可能性がかなり高い。
もっとも、今は交尾成功率測定器があるため、すぐにハイドロネアウンドロ星人であるかどうか確認することができるが。
「ごめん、二人とも待たせちゃって。ちょっとホームルームが長引いちゃった」
泉さんが屋上にやってきた。屋上に吹き込む風でスカートが揺れた。
いつみてもすごく綺麗だな泉さん。
淡い恋心を持っていなだけに宇宙人かも知れないと気付いた時、正直ものすごくショックであった。
それにしても、今まで気づかなかったがこうして泉さんとシトラスを見比べてみると、顔立ちとか確かに似ているかも知れない。
「それで、シトラスちゃん。話って何かしら?」
「泉さん。これ、見たことがありますか?」
シトラスは交尾成功率測定器を取り出し、泉さんに見せた。一瞬、表情を強張らせたように見えたが、すぐにいつもの表情へと戻った。
「ううん、見たことないけどどうして?」
「いえ、ちょっと失礼します」
シトラスはゆっくりと泉さんに近づき、測定器を使って泉さんの正体を確かめようとした。
しかし泉さんは測定器を持っているシトラスの手を掴んだ。
「やめてくれる?」
こ、怖い……ニッコリと微笑んでいるのに目が全く笑っていなかった。
「どうして止めるんですか? 泉さん」
「こんな得体に知れない機械を近づけられたら誰だって警戒するでしょ?」
泉さんの迫力にも怯まず、
「泉さんは宇宙人なんですか?」
と質問を投げかけた。
「シトラスちゃん? 何を言っているのかしら。宇宙人なんているわけないじゃない」
「いますよ。ここにね」
まだ泉さんがハイドロネアウンドロ星人だと決まったわけじゃないのにシトラスは自分が宇宙人であると告げた。
このままじゃ埒が明かない。使うか――
時を止める能力。この力はその気になれば悪用することもできてしまう。
もちろん、そんなことをするつもりなどないが、しかし今はある意味自分の目的を果たすために使用する。
悪く思わないでくれ、泉さん。これは……地球のため。
「シトラスのためだ」
時を止め、止まった時間の中でシトラスが持っている測定器を受け取り、泉さんの体に近づけ、ボタンを押した。
ちょうど時間が再び動き出す、
「慎くん……いつのまにそこに?」
俺は測定器の画面を眺めた。画面には、
『ハイドロネアインドロセイジン』
と表示されていた。
「やっぱり、泉さんはハイドロネアインドロ星人だったんですね」
俺が問い詰めると泉さんは顔に手を当てた。
「バレたら仕方なわね……その通り。私こそ宇宙最強の戦闘民族の一人、一関泉。またの名を『アフォーラ』よ」
無駄に厨二くさいポーズを決め、正体を明かした。それにしてもこのノリ……いつも清楚で大人しい泉さんとは思えない。
「泉さん。ラウンにエラプションなんとかというのを見つけ出すように指示したのはあなたですか?」
「ええ、そうよ」
あっさりと泉さんはラウンに指示していたことを認めた。
「泉さん、あなたハイドロネアインドロ星人なのに侵略派だったんですね」
「だったら?」
泉さんは挑発するような獰猛な笑みを受けべた。
「あなたをここで倒します!」
シトラスは右手を泉さんに向けた。すると、泉さんはなぜか穏やかな表情をしだした。
「待って。説明するわ。私は二人の敵ではないわよ」
泉さんは俺たちの敵ではないと言い出したが、この状況では到底信じることができない。
「そんなの信じられませんよ。現にラウンに指示していたじゃないですか」
「慎くんの言う通り、私はラウンに指示をしていた。けど、それはあくまでボスを欺くためよ。それよりも聞きたいんだけど、どうして二人とも私がハイドロネアインドロ星人だって分かったのかしら?」
「それは……」
俺はおじいさんの家で分かった一連の経緯を泉さんに説明した。おじいさんから預かっていた写真を見せると泉さんはプルプルと身体を震わせた。
「ほ、本当に私の母親だわ……それじゃ、本当に二人は私のいとこなのかしら?」
「そうみたいです。俺も未だに信じられませんが」
「そう……それにしてもすごい偶然ね。同じ生徒会に所属する三人がいとこだなんて」
「そうですね。それよりも泉さん。説明してください。泉さんが私たちの敵ではないということを」
シトラスはなおも泉さんに対し、警戒心を解こうとはしなかった。
「分かったわ。私は侵略派にスパイとして侵入していた。ボスの正体を探るためにね。組織から下された命令はこうだった。『エラプションレバル』を見つけ出してこいってね。私はラウンに『エラプションレバル』を見つけるように指示を出したの。ラウンが私にエラプションレバルを見つけ次第、すぐにラウンを抹殺するつもりだったわ」
「それであのメールを……けど、そのせいで旅館が燃えてしまったんですよ? そのことは分かってるんですか? そもそも泉さんが一人で見つければこんなことにはならなかったんじゃ……」
幸いにも死傷者はいなかったようだが、だからといって到底許されるべき行為ではない。
「ええ、それは理解しているわ。けど、私一人の力じゃ到底エラプションレバルを見つけることができなかったの。私、結構非力だからラウンの力を借りるしかなかったのよ。言い訳するわけじゃないけど、ラウンが火事を起こした時、死傷者を出さないように尽力したわ」
「そうだったんですか。俺たちが火事があった旅館に来たのに気づいたのはいつなんですか?」
「すぐに気づいたわね。気づいてなかったのかもしれないけど、あそこには私が置いた監視装置が置いてあったのよ」
「な、なんですって!」「マジですか!」
俺とシトラスはほぼ同時に驚きの声を上げた。俺たちがやって来る前には既に監視装置が置かれていたのか。
「それじゃ、俺たちがラウンを倒したのも監視装置から?」
「ええ、見ていたわよ。見事な戦いぶりだと思った。あなたたちが立ち去ったのを確認した後、私はあなたたちが置いた監視装置を破壊し、先に二人が戻ってくる前にエラプションレバルを回収したってわけね」
「そうですか。しかし、色々と聞きたいことがあります。エラプションレバルとは一体、何なんですか?」
俺がエラプションレバルについて訊くと泉さんは制服のポケットから小さな赤く光り輝く球を取り出した。
「これがエラプションレバルですか?」
「そう。別名、『終焉の大噴火への誘い球』と呼ばれているわ。みんなで箱根に行った時、火山があったでしょ? このエラプションレバルを火口に放り込むことで、人類を滅ぼすほどの大噴火を引き起こすことができるわ」
泉さんのさらりと述べる恐ろしい説明を聞き、思わず戦慄しそうになった。
「めっちゃやばい奴じゃないですかそれ! 泉さん、そんな恐ろしいの破壊しちゃいましょうよ!」
俺はそう提案するも、泉さんは首を横に振った。
「いえ、ダメよ。言ったでしょ? ボスの正体を突き止めるって。ボスからはエラプションレバルを見つけ次第、連絡して渡すように指示されているわ。ボスと対面するチャンスなのよ」
「そうですか。では私たちもついていきましょう。仲間は多い方が泉さんも安心でしょう?」
「ええ、助かるわ。シトラスちゃん!」
泉さんはグッと親指を立てた。泉さん、ハイドロネアウンドロ星人であると正体を明かしてからなんかノリが軽くなったな。いや、これが本来の泉さんなのか。
すると、入り口の方から『コツコツコツ』と足音が聞こえてきた。入り口の方を向くと、亜希子がこちらに近づいてきた。
「ちょっとみんな! 誰も生徒会室に来ないからどうしたのかと思えば……私を仲間はずれにして何をしてるの!」
亜希子の声には若干怒気が含まれていた。
「ごめんごめん、亜希子ちゃん。ちょっと色々あってね。すぐに生徒会室に向かうから」
プンプンと怒る亜希子を泉さんが宥めると、亜希子は照れ臭そうに微笑んだ。
「やだな、冗談ですよ! 泉さんったら! えい!」
「きゃ! ちょっと、亜希子ちゃん!」
亜希子がガバッと泉さんに抱きついてきた。なんと羨まし……ではない。実にけしからんやつだ。
それにしても、美少女二人が抱き合う姿……結構いいな。
「慎さん。見惚れてます?」
「そ、そんなことない!」
「本当ですかぁ?」
シトラスは眉を潜めて、俺の顔を覗き込んできたため、プイッと視線を逸らした。
しかし、ここで俺は何か違和感を感じた。
亜希子から『陰謀、達成感』のような黒い感情が伝わってきた。まさこれって……
「へへ! 泉さん、これなんですか?」
いつの間にか亜希子は泉さんが持っていたエラプションレバルを手に持っていた。
「亜希子。それを返すんだ!」
「やだな〜慎くん。無理ですよ。だってこれは私が持っておくべきものなんですもん……下等な地球人を滅ぼすためにな!」
亜希子の眼光が大きく見開いた。
「ふふふ……ハハハハハ! やった! ついにやったぞ! ご苦労だったなアフォーラよ。貴様が裏切ることは想定していた。その為にこの地球人の身体に寄生し、お前からこのエラプションレバルを奪ってやったのだ」
「それ、返してもらうぞ!」
俺は時を止めた。亜希子に近づき、持っているエラプションレバルを奪い返そうとした。
「無駄だ!」
「ガ!」
まだ時を止めてから五秒が経過していないのにも関わらず、時が動き出した。
俺は頬を派手に殴りつけられ、地面に倒れこんだ。
「無様だな……愚かな地球人よ」
「ど、どうして……」
「私には相手の超能力をストップさせることができることができるのだ。私の半径五メートル以内は全てお前たちの能力は全て発動しなくなる」
まさか、本当にそんなことが? だが、現に時を止める能力が強制解除された。
「なら、力づくでも奪い返してやるわ!」
シトラスは亜希子に掴みかかろうとした。しかし、ヒョイヒョイと軽い身のこなしによって、シトラスの手を軽く避けていく。
「この……これでも喰らえ! バイロ……」
痺れを切らしたシトラスが操られている亜希子相手にバイロキネシスをぶっぱなそうとした。
「おおっといいのか? この娘の身体がどうなっても」
「ぐ……」
シトラスは悔しそうにバイロキネシスを放とうとするのを止めた。
「ちょっといいかしら? ボス、あなたの正体について聞いても」
「まぁ、いいだろう。シトラス、アフォーラ。私はな……俺たちと同じ、ハイドロネアインドロ星人だ」
「な……!」
絶句しそうになった。よりによって侵略派のバスもハイドロネアインドロ星人なのかよ。
「そして、初めて会うな。孫たちよ」
「な、なんですって……」
泉さんは顔を引きつらせた。かくいう俺も内心とても驚いている。そしてその言葉で正体を察してしまった。
「それじゃあんたがおばあさんの……」
おばあさんの元夫か。
「そうだ。私の名は『ハヤカ』。セミノールは私の妻だった。それを……地球人の男が!」
亜希子の表情がなんかこう……すごい怖くなった。
そして、俺を指差し、
「地球を侵略する前にこの忌々しい男の孫を殺すことにしよう」
ゆっくりと俺に近づいてきた。
「ぐ……!」
情けない話だが恐怖で上手く足を動かすことができない。
そんな時、シトラスがハヤカを通せんぼするように立ちはだかった。
「慎さん、ここは逃げてください」
「そこを退きなさい。シトラス。お前は私の正式な孫だ。私の言うことを聞いてくれるなら何も危害を加えない。アフォーラも、地球を侵略したら三人、家族で仲良く暮らしていこう」
「どうして……どうして地球を侵略しようとするんですか! ハイドロネアウンドロ星は地球と友好同盟を結んでいるはずです!」
ハヤカはシトラスの呼びかけに対し、鼻で笑った。
「ふん! あんな遥か昔に交わした約束、律儀に守る方がおかしいのだ。我ら戦闘民族は戦いと侵略こそが全て! こんな住み心地の良い星を見つけて侵略せずにはいられないだろう」
ハヤカの主張を聞いた、シトラスからとんでもないほどの怒りの感情が伝わってきた。一応言っておくが能力で分かったわけではない。
側から見てても安易に起こっているのが伝わってくる。
「なんだその目は? 何かおかしいか?」
「ええ、おかしいです。確かに地球は素晴らしい星です。けどそれは地球人が住んでいるからですよ」
「……なんだと?」
「おじいさまは見ましたか? 地球人が作り出した『アニメ』というエンターティメントの数々を。あの素晴らしい芸術作品は他の宇宙人には到底作り出すことができません」
「そのアニメというものが何か分からないがそれなら何人かの地球人を生かしておいて作らせればいい。奴隷のように扱えばたくさん作り出せるのだろう」
気のせいか泉さんの方から『ブチッ』という血管が切れたような音が聞こえた気がした。
「はぁ? テメェ、アニメをバカにしてんのか!?」
泉さんの急な乱暴な口調に俺は思わずビクッとなった。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい
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