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第12話
「はぁ〜いい湯ですね〜」
「な、なんでこんなことに……」
思わず頭を抱えそうであった。今の状況を説明すると、俺とシトラスは混浴にて同じお湯に浸かっていた。
遡ること一時間前。
「慎さん。一緒に混浴に行きましょう!」
シトラスはさらりととんでもない提案をしてきた。
「はぁ? やだよ。そんなの」
俺が拒否すると、シトラスは「チッチッチッ」と舌を鳴らしながら指を振った。非常にイラっとする仕草である。
「いいんですか? この画像を泉さんに見られても」
「な……それは……!」
シトラスが俺に見せつけたスマホの画面にはシトラスの胸に顔を埋めている俺の姿が映っていた。
「ふふふ、驚いたでしょう」
「くそ! マッサージの時か……」
さっき、シトラスのマッサージされた時に、眠ってしまった為その時に取られた写真だろう。
ていうか、俺。そんなすごい体験したんならちゃんと覚えておけよ。
いや、そうじゃない。
「消してくれ」
「駄目です」
「くそ、ならば……」
俺は時を止めてシトラスのスマホを取り上げようとした。しかし、シトラスはものすごい力でスマホを握っていた為、なかなか取り上げることができなかった。
やがて、時が動き、シトラスが俺を見上げた。
「無駄ですよ、慎さん。もうこの写真は私の宇宙船にも送っています。スマホのデータを消しても宇宙船にデータがあるんですよ」
こいつ、抜け目ねぇな。
「ど、どうにか消してくれないだろうか」
「いいですよ。私と混浴に入ってくれたらですが」
「く……」
こうして俺はシトラスと混浴に入るハメになったのである。
「慎さん、この温泉気持ち良いですね」
シトラスの顔を見ると、顔が赤くなっているのが分かった。それにしても……つい、視線が二つの膨らみに行きそうになる。
シトラスはバスタオルを巻いているが、強調の激しめのボディはバスタオル程度では隠しきれていないようであった。
「そうだな」
「あれ〜、あまり楽しんでませんね。それならこれはどうでしょう。えい!」
「うわ!」
なんとシトラスが俺に抱きついてきた。幸いにも俺とシトラス以外、誰もいないからいいが、他の人に見られたら破廉恥なことをしていると勘違いされても不思議ではない。
それにしてもスベスベで柔らかい。俺も理性を崩壊させ、ぐっと身体を引き寄せたいと思った。
「や、やめろバカ!」
シトラスの頭をチョップした。
「ぎゃふん!」
目をバッテンにして、抱きつくのをやめた。あ、危ないところだった……
「俺、もう出る」
俺が上がろうと立ち上がると、シトラスが俺の右手首を力強く掴んできた。
「待ってください! 背中を洗わせてください」
力強い眼(まなこ)で俺を見つめるシトラス。絶対に何が何でも背中を洗うんだという気迫が伝わってきた。
「わ、分かったよ。それじゃ頼む」
俺たちは風呂用の椅子が置かれているところに移動した。
「慎さん、座ってください」
シトラスに促され、俺は椅子に腰掛けた。シトラスは膝立ちし、ボディスープを手に取り、泡立てた。
「それじゃ、失礼しますね……」
シトラスは手で背中を洗い始めた。スベスベとしたシトラスの手の感触がなんだかこそばゆい。
「ひゃ……」
つい、変な声を出してしまった。背中がとてもくすぐったい。
「気持ち良いですか? 慎さん……」
シトラスが手を止めると、何やらモゾモゾと動き出した。
「おい、シトラ……」
振り向こうとしたその時、俺はとんでもないものを垣間見た。ポロッとシトラスの身体に巻き付けられていたタオルが床に落ちた。
「うわ!」
すぐに俺は前を向いた。こ、こいつ……なんということをしてきやがるんだ。
「慎さん、こういうのは好きですか?」
シトラスが甘ったるい声で耳元に囁いた。背中に明らかに手ではないムニュっとした感触が背中に伝わってきた。
やばい……気持ち良い。ってかこの感触ってまさか。
「し、シトラス……」
顔だけ少し後ろに振り向くと、シトラスが自身の豊満な胸を俺の背中に押し付けていた。
背徳的な柔らかさに思わずくらっと来そうになってしまった。
「どうしましたか? 慎さん」
「何してるんだ?」
すると、シトラスは耳元でこう囁いた。
「押し付けてるんですよ。さっき部屋であんな大胆なことをしてくれたんだから私に身を預けてもいいということなんでしょう?」
こいつ……かなり積極的になっている。だが、こいつには明確な弱点があると部屋での出来事で確信した。
「まぁ、そうだな。それじゃ、そのまま気持ち良くしてもらおうか」
俺は堂々とシトラスにそう告げた。すると、背中に胸を押し付けていたシトラスが動きを止めた。
「へ?」
「どうした? さっき言った通りだ。お前に身を預けるぞ。さぁ、来るならいつでもいいぞ」
「ええと、その……」
シトラスは自分で行く分にはグイグイ来るが、逆に来られた時には困惑するのである。
「シトラス……後ろ向いてもいいんだよな?」
すっぽんぽんのシトラスを見るべく俺はゆっくりと振り向こうとした。
「あわわわ……や、やっぱりダメです!」
「あた!」
シトラスに頭を強く叩かれた俺は段々と気が遠くなっていった――
「う……ん……」
目を覚ますと俺は布団の上で横になっていた。
「気がつきましたか? 慎さん」
シトラスの声が耳に届く。シトラスが俺を見下ろしていた。
「シトラス、俺は一体……」
「覚えていませんか? 一緒に温泉を出た後、慎さん湯あたりしてロビーのところで倒れたんですよ。ここまで私が運んできました」
「そうか、すまない。なんか全然覚えてないや」
「それは良かった」
「は?」
なんで良かったんだ。
「いえ! なんでもありません。これどうぞ!」
「ありがとう」
シトラスがペットボトルに入った水を渡してくれた。俺はそれを受け取り、水を飲んだ。カラカラだった喉が一気に潤う。
「あー、生き返った」
「それで慎さん、目を覚ましてもらってすぐに頼むのもあれなんですけど、ちょっとまた火事が起きた旅館についてきてもらえますか?」
「はぁ? なんでまた……」
正直言ってめんどくさい。ラウンとかいう筋肉バカの宇宙人も倒したし、あそこに再び行く意味があるとは思えない。
「さっきのメールのこと忘れちゃったんですか? あそこに『エラプションレバル』とかいう赤い球型の物があるって書いてあったじゃないですか? あれを私たちで見つけ出しましょう」
「ああ、そういえばそうだったな。それにしてもそのエラプションなんとかとかいうやつ、何に使うんだろうな」
「分かりません……しかし、侵略派の連中には絶対に渡してはいけないのは確かです! 慎さん、私たちで先に見つけましょう!」
こうして、再び俺たちはラウンと光線した場所へと向かった。しかし、そこで見たのは、
「な、なんですか! これは!」
先ほどよりも穴が増えている地面であった。明らかに誰かが掘った後が確認できた。
「おい、これ!」
俺はバラバラに砕け散った機械の破片のようなものを指差した。
「私が設置した監視装置が壊されています! 一体、誰がこんなことを……」
そこで俺は監視装置の破片の数メートル先に白い手紙のようなものが置かれていることに気がついた。
「なんだ、これ……」
手紙を拾い上げ、裏面を確認すると、手書きでこのように記載されていた。
「慎さん。なんて書かれているんですか?」
――初めましてシトラスさん、マコトさん。私はハイドロネアウンドロ星人のAと申します。
あなたたちの見事な戦いはハッキングしておいた監視装置から見ていました。見事な戦いであったと賞賛いたします。そこでお二人の実力を見込んでお願いがあります。『エラプションレバル』は私の方で既に回収済みです。あなたたちを相当の手練れと見なし、直接の戦闘はできれば避けたいと思っています。ですので、どうか私たちが地球を侵略するのを傍観していただきたいと思っています。その代わり、地球侵略後はお二人を手厚く保護いたします。
どうぞご検討ください。
「な、なんですか……なんなんですか、このふざけた文面は!」
シトラスは手紙の内容を確認すると、怒りのせいか顔をみるみる赤くさせた。
「まったくだな」
確かにふざけた内容である。地球が侵略されていく様を黙って見ていろだと? 馬鹿にしているとしか思えない。
「こんなもの!」
「お、おい……シトラス!」
シトラスは俺が持っていた手紙を取り上げると、
「バイロキネシス!」
バイロキネシスで貴重な手がかりである手紙を燃やしてしまった。
「馬鹿! なんで燃やすんだ! 貴重な手がかりだったのに!」
「あた!」
俺がシトラスの頭を叩くと、シトラスは痛そうに頭をさすった。
「痛いですよ、慎さん。ひどいなぁ……」
シトラスが涙目で訴えてきた。そ、そんなに強く叩いただろうか。
「わ、悪い……ちょっとやりすぎた。けどお前、なんで燃やしたんだよ?」
「カッとなってつい……ですが大丈夫です!」
シトラスは『えっへん』とばかりに胸を張った。くっきりと胸の形があらわとなった。
「大丈夫ですよ! これからも戦い続ければ、いずれ偉大なるハイドロネアウンドロ星人を名のるAとかいうやつに辿り着きますから! 俺たちの戦いはこれからだ!」
シトラスは腕を振り上げた。
そうだ、俺たちの戦いはこれからも続く。これからどんな強い宇宙人が現れても、俺とシトラスならきっと地球を守ることができる。
完。
「おい、何を終わった雰囲気を出してるんだ!」
まだ公募規定まで十ページもあるぞ。終わってたまるか。
「冗談ですよ、てへ」
シトラスは舌を出して、誤魔化そうとした。
「とりあえず戻るか。エラプションなんとかって奴も取られてしまったしな」
旅館に戻ろうとした時、スマホから通知音が鳴った。
「二人ともどこにいるの! みんなで一緒にゲームしましょう!」
生徒会のグループLINEで泉さんから呼び出し命令が下された。
「慎さん、行きましょうか」
「ああ」
二人で泉さんたちがいる部屋に戻り、生徒会のメンバーでゲーム(人生ゲーム)をして楽しんだ。
色んなことがあった箱根温泉旅行であったが、なかなか楽しい旅行であった。
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