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第10話

 そして、俺は夕食会場へと向かった。すでに亜希子と泉さんが夕食会場におり、席に座って待っていた。 「すみません、遅くなって」 「まだ時間前だから大丈夫よ。それより、シトラスちゃんの姿が見当たらないんだけど慎くん、知らない?」 「すみません、俺もどこにいるか分からないです」  泉さんに申し訳ないと思いつつも嘘をつくことにした。シトラスと一緒に火事があった旅館に行っていたなどとはとても言えない。 「皆さん、お待たせしました!」  ちょうどシトラスがやってきた。シトラスは新しい浴衣を着用していた。 「シトラスちゃん。探したんだよ。どこにいたの?」 「亜希子さん、心配かけてしまってすみません。ちょっと温泉でのぼせてしまって夜風に当たってました」 「そうなんだ。体調は大丈夫?」 「はい、もうバッチリです!」 「よし、それじゃみんな揃ったことだし、夕食を食べましょうか」  お盆に乗せられた黒い弁当箱のような容器が一人づつ提供された。容器の蓋を開けると、花型に切り取られた人参や刺身、海老の天ぷらなどが綺麗に盛り付けられていた。  さらにすき焼きも追加で提供される。一人分というにはなかなかボリューミーな量だと思った。 「すごい! とっても美味しそうですね!」  シトラスは目をキラキラさせながら料理を眺めた。 「ちなみにご飯はおかわり自由だからね」 「ま、マジですか!」  泉さんの情報にシトラスはさらに目を輝かせた。 「確かに美味しそうですね。それじゃいただきます」  俺は箸を取り、目についた海老の天ぷらを食べることにした。海老の天ぷらは衣がサクッとしており、海老はとてもプリとしていて美味しかった。 「やばいです! 料理美味しすぎます!」  隣を見ると、シトラスが男顔負けのレベルで料理を食べていた。そう言えば、こいつご飯食べるの早いよな。お昼ご飯の時も一番にご飯を食べ終えていた。 「すみません、ご飯お代わりお願いします」  シトラスは従業員にご飯が空になった容器を差し出した。 「もう、ご飯食べたのか。早いな」 「はい、今日はたくさん歩きましたからね」  確かにそうだが。この食欲もハイドロネアウンドロ星特有のものだったりするのだろうか。 「そうだ! 慎さん、ここはひとつ勝負しませんか?」 「勝負?」  シトラスに勝負を持ちかけられた。亜希子といい、シトラスといい、どうしてこううちの生徒会のメンバーは勝負をしたがるのだろうか。 「はい。どちらが多くご飯を食べられか勝負するんです。負けた方は勝った方にチューをする! どうでしょうか?」 「な……チューって」  亜希子は恥ずかしそうに顔を手で隠した。  それにしても、なんだその勝負は。しかも罰ゲームが勝っても負けても同じようなものではないか。 「やだよそんなの。せめて罰ゲームを変えてくれ」 「それじゃ慎さんが罰ゲームを決めてください」 「うーん、そうだな……」  俺は罰ゲームを考えることにした。一体、何が良いだろうか。 「それじゃ、負けた方が勝った方にマッサージするっていうのはどうだ?」 「いいでしょう!」 「ええ!? いいの?」  俺の提案になぜか驚いたのは亜希子であった。何が驚きなのか俺には不明である。とても良い案だと思ったのだが。 「はい! いいですか、慎さん。『やっぱなし!』とかはなしですよ!」 「ああ!」  こうして俺とシトラスは大食い対決をすることになった。しかし―― 「お代わりお願いします!」 「すごい、シトラスちゃん。全然、ペース落ちてないわね!」  シトラスは勝負が始まってから全くペースを落とすことなく、黙々とご飯を食べていった。すでに九回目のお代わりとなっている。  一方、俺は五回目のお代わりですでにいっぱいいっぱいだ。  くそ、こいつ。どんな腹をしてやがる。 「すみません、お代わりお願いします!」  そうしている間にシトラスは再びお代わりをした。  くそ、モタモタしてらんねぇ。俺は急いでご飯をかきこみ、米を飲み込んだ。 「お、お代わり……」 「大丈夫? 慎くん、もう止した方が……」  亜希子が俺の顔を覗き込み、心配そうに声を掛けてくれた。確かにそうだ。俺はもう限界寸前である。しかし…… 「すみません、お代わりお願いします!」  再びシトラスがお代わりを要求する。  ここで引き下がったら……男じゃねぇ! 「うおおおおおお!」  俺も必死にご飯を食べ進めた。たとえこの胃がボロボロになろうとも、俺は勝負に勝つ。 「うわ……すげぇ気持ち悪い……」  勝負を終えた俺は休むべく、部屋に戻った。胃の中が鉄アレイでも入っているかのように重かった。  勝負がどうなったのかは察してくれ。  俺は横になりながら、テレビのリモコンを取り、電源を点けた。今日のニュースをチェックする。  何か、宇宙人に関するニュースはないかと注意してみていったがなかなかそれらしきニュースは報道されていなかった。 「手掛かりなしか……」  ニュースを見ていると、誰かに突然肩を叩かれた。 「慎さん……」 「うわ!」  俺は驚きのあまり声を上げた。いつの間にか部屋の中にシトラスがいた。全く気がつかなかった。  なんというステルス性能の高さだ。 「お、お前……ノックくらいしろよ」 「すみません」  シトラスは俺の目の前で正座した。 「……」 「……」  嫌な沈黙の時間が続く。  一体なんだこれは? 拷問か? とても気まずいのだが。  耐えられなくなった俺は口を開く。 「何しに来たんだ?」  シトラスは浴衣の袖を捲った。とても華奢で綺麗な白い腕である。しかし、この腕には一瞬で宇宙人を葬ることができるパワーを有している。 「マッサージをしに来ました」 「よせよ。さっきの勝負、俺が負けただろ」  もう分かっているかもしれないが、先ほどの大食い勝負、俺の完敗であった。言い訳する気はないが、あんなん勝てるわけがない。  サイヤ人でもなければ到底太刀打ちできない。 「そうですが……さっき、具合悪そうにしていましたので大丈夫かなと思いまして来ました」  こいつ……わざわざ心配して来てくれたのか。 「そうか。ありがとう。だけど、俺は大丈夫だ」  しかし、シトラスは全く帰るそぶりを見せず、俺の腰を両手で触ってきた。 「ひゃん!」  思いのほかくすぐったくて、変な声を出してしまった。 「では、マッサージしますね」 「お、お前な……大丈夫だって言ったろ」 「お願いです。マッサージさせてください。マッサージをしたいんです!」 「分かったよ」  有無を言わせぬ迫力に渋々俺は承諾した。まるで千と千尋の湯婆婆に『ここで働きたいんです!』とお願いしする千尋のようであった。  シトラスは腰回りを揉んでいった。絶妙な力加減でかなり心地よかった。 「慎さん、気持ちいいですか?」 「ああ……」  シトラスの蕩けるような優しい声。マッサージの心地良さと相まって眠気を誘(いざな)ってくる。  次にシトラスは肩を揉んできた。 「慎さん、まだ若いのに随分と肩凝っていますね」 「そうか?」  肩に風船をつけられたかのように軽くなっていくようであった。しばらく肩を揉んでいたシトラスであったが、今度は脚をマッサージしてきた。 「今日はたくさん歩きましたからね、脚も張ってますよ。慎さん」  気持ちよすぎて夢心地だ。ああ、ダメだ。もう限界だ。ちょっと寝るか……
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