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第8話
宇宙人との激しい戦闘を俺たちは生徒会室へと向かうことにした。
「いや〜。まっすぐ生徒会室に行きたかったんですけど部活の勧誘に捕まって大変だったんですよ〜」
「ああ、確かにすごかったな。シトラスは部活には入らないのか?」
「はい。そのつもりです……できるだけ慎さんと一緒にですし」
シトラスはそんな恥ずかしいセリフを顔色一つ変えずに吐いてきた。
「な……お前な」
流石にそんな言葉を面と向かって言われたら気恥ずかしい。
「えへへ……」
生徒会室に戻った俺は木造の扉をくぐった。亜希子と泉さんは温泉旅行の打ち合わせでもしているのか机の上に『じゃーらん』を置いて談笑している。
「泉さん、戻りました」
話しかけると泉さんがこちらを向いだ。
「あ、慎くん。ありがとう。シトラスちゃん。改めて生徒会にようこそ!」
「はい! よろしくお願いします」
シトラスは深々と泉さんに頭を下げた。
「シトラスちゃんは生徒会に入りたいってことで良いのかしら?」
「はい!」
「歓迎するわ。それで、ゴールデンウィークに生徒会で箱根へ旅行するって話をしていたんだけどシトラスちゃんも来れるかしら?」
シトラスも箱根に来るかもしれないのか。シトラスと一緒に温泉旅行……これは色々と大変かもしれない。
泉さんと一緒に旅行ができると浮かれていたがこれは引き締めなければならない。
「はい! 是非ともお供させていただきます!」
こうしてシトラスは正式に生徒会へと所属した。
シトラスが生徒会に所属した日以降、四人体制で生徒会の活動することになるが生徒会の活動において、シトラスは多大な活躍をした。
直に始まる体育祭での事務、企画等を担当し、例年に比べて迅速に処理を進めることができた。
無事、ゴールデンウィーク前に開催される体育祭は何事もなく終了し、あっという間に箱根温泉の日がやってきた。
ちなみに宇宙人探しの方は特に何が起こるわけでもなくシトラスも宇宙人探しを続けているようであるが何も成果は得られていないようであった。
また、シトラスは宇宙船で寝泊まりしているらしくたまに夕ご飯を食べに家に凸したりしてきた。
箱根温泉当日の朝、俺は最寄り駅で生徒会のメンバーを待っていた。どうやら俺が一番早く到着したようだ。
今日の天気は晴れ。小鳥がさえずり、木々の葉は風を受けて揺れていた。絶好の旅行日和と言っても差し支えないだろう。
「おはよう。慎くん」
泉さんが俺に挨拶をした。二番目に到着したのは泉さんであった。泉さんの服装はいつも学校で見る制服ではなく、白いワンピースと麦わら帽子という服装で新鮮味が感じられた。
「おはようございます」
「他の二人は?」
「まだ来てないみたいです」
今の時間は七時五十五分。集合時間の五分前である。もう少ししたら来るだろう。そう考えていた時、「おーい」という聞き覚えのある声が耳に届いた。
後ろを振り向くと、亜希子とシトラスが並んで歩いているのが目に止まった。
「おはようございます。慎さん、泉さん」
シトラスが挨拶をした。今日のシトラスは黒いトップスと長めの紺色のスカートを履いていた。
「二人ともおはようございます!」
亜希子もシトラスに続けて挨拶した。亜希子はシマシマ模様のTシャツとGパンとややラフな服装をしていた。
「それじゃ出発しましょうか!」
こうして俺たち四人は箱根へ向かうことになった。JR東海道本線を使い、ひとまず小田原駅へと向かう。さらにそこから箱根登山線で箱根登山を目指した。
休日だけあって、電車の中はそれなりに混んでいた。最初の駅から箱根登山まで二時間近く掛かった。
「いやー、ようやく箱根についたわねー」
泉さんが駅を降りると腕を伸ばして身体をほぐし始めた。
「そうですね。ここから宿まではどうやっていくんですか?」
俺が宿までの到着方法を尋ねると、泉さんが右側を指差した。泉さんが指差しているのはバス乗り場ですでに並んでいる人たちがいる。
「バスで行くわ」
駅からはバスで今日泊まることとなる宿に向かった。バスに揺すられること約十分、『湯さか荘』に到着した。
旅行前に湯さか荘についてはネットで少しばかり調べてきている。
露天風呂からは箱根の素晴らしい景観を眺めることができるという。
ちなみに混浴もあるらしい。もちろん入浴する気は無いが。
「いらっしゃいませー」
宿に到着すると愛想の良さそうな女性スタッフが出迎えてくれた。案内されたのは趣を感じさせる和室であった。
男は俺一人だけなので、一人部屋と三人部屋に別れて宿泊することになる。
一人部屋というのも気楽で良いがこんな時、男の生徒会員が入ればいいなと少し思ったりする。
「おお、なかなか良い眺めだな」
窓を開けて外の景色を堪能した。深い緑の木々が太陽光を浴びて葉をゆらゆらと揺らしている。
部屋に置いてある椅子に腰を掛け、テレビのスイッチを入れた。この後みんなでお昼ご飯を食べに行くことになるのだが少し時間があるためテレビでも見て時間を潰すことにするか。
テレビに映ったのはニュース番組であった。すると興味を惹かれるような内容のニュースが放送されていた。
「昨晩、箱根温泉の旅館、山の茶屋が原因不明の火事のより半壊しました。幸いにも怪我人はでませんでしたが、しばらくの間営業困難とのことです」
箱根温泉の旅館が半壊……宇宙人の仕業だろうか。いや、そもそも箱根温泉を攻撃していったい何になるというのか。
俺の考えすぎだろう。
「なお、火事が起きた原因については現在、調査中ということです。また、旅館にいた宿泊客の話によれば、強い地震が起きたと言っておりますが、他の周辺の宿では地震が起きた事例はないため、別の原因による半壊であると現在、調査を進めています」
地震か。しかし、他の周辺の宿では起きていないと。もしかしたら特定の範囲だけ地震を発生させることができる宇宙人がいるのかもしれない。
その後もニュース番組を視聴していると、
「慎さん!」
部屋に慌てた様子でシトラスが入ってきた。
「おお、シトラス」
「み、見ましたか! さっきのニュース」
俺の部屋に来たのはやはりさっきのニュースが原因か。やはりシトラスもあの事件を宇宙人の仕業であると考えているらしい。
「ああ、やっぱりシトラスは宇宙人の仕業だと思うか?」
「え? 宇宙人? それよりも声優の梶祐樹さんと竹達比奈さんが結婚するんですって!」
そんなニュースを見てわざわざ俺に知らせに来たのか。声優には正直あまり詳しく無いため誰のことかさっぱり分からない。
「見てねぇよ! そんなニュース! 俺が見たのは箱根の旅館が半壊したってニュースだ!」
「旅館が半壊……ですか……」
俺はシトラスに先ほど見たニュースを説明することにした。
「なるほど、それは確かに宇宙人の仕業である可能性が高いですね」
「やっぱりそうか? だけどなんで箱根の旅館なんか……」
どうもそこが腑に落ちない。わざわざ箱根の旅館をぶっ壊すメリットなどあるのだろうか。
普通、地球を侵略するとしたら、なんかこう、国会とか官公庁とかそんな重要なところを狙いそうな気がする。
「理由は分かりませんがとりあえずは警戒しておくことにしましょう」
「そうだな」
その後、俺たちは昼食を取ることにした。昼食は宿で取ることにした。提供された料理は箱根で取れたとされる山菜料理やマグロの刺身といった魚介料理であった。
「すごく美味しそうですね。泉さん」
「そうね。それじゃ食べましょうか」
料理は文句の付け所が全く無いほど美味であった。お昼ご飯を食べた後はみんなで旅館の外に出て散歩することにした。
箱根ロープウェイに乗ることになった。ロープウェイは一度に四人全員乗ることができ、ロープウェイの中から富士山や大きな谷を眺望することができた。
「いやー、すごい眺めだねー」
亜希子が感心したようにロープウェイからの眺めについて感想を述べた。
「みんな、これから結構歩くことになるけど大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です」
「まぁ、いざとなったら私がおぶってあげますよ。慎さん」
シトラスがどんと自分の胸を叩いた。宇宙人とはいえ、女性におぶってもらうなどそんな情けないことされてたまるか。
「あらあら。二人とも仲がいいのね」
おぶるというシトラスの発言に対して、泉さんは茶化すように笑い焦げた。
「慎くん。私も疲れたらおぶって欲しいんだけど……」
なぜか亜希子が俺におぶって欲しいなどと言い始めた。亜希子のその発言が気に食わなかったのか、シトラスは眉をひそめた。
「では、私が二人をおぶってあげます!」
「あほか。ちゃんと歩けるわ」
やがてロープウェイも駅に到着する。ロープウェイから降りた俺たちは駅の近くにある玉子茶屋というお店に向かった。
泉さん曰く、黒たまごという食べ物がとても美味であるということであった。早速、お店で黒たまごを購入する。
「これを一つ食べれば七年寿命が伸びるって言われているのよ」
泉さんが黒たまごを食べながらそんな知識を披露した。
「へー、そうなんですか」
一つ食べれば七年か。なんだか小学校の時、読んだ『三年峠』という話を思い出した。三年峠は朝鮮の昔話で、転んだら三年しか生きられないという峠で転んだおじいさんが当社は絶望するが何度も転べばいいという助言を受け、何度も転んで寿命を延ばすという話だ。どう考えてもバグである。
黒たまごを食べてみると濃厚な黄身の味が舌鼓をうつ。まろやかな味わいでとても美味しい。
「泉さん、これ美味しいですね!」
「そうでしょう!」
黒たまごを食べ終えた俺たちは湖尻自然探勝歩道というコースを歩き始めた。このコースは大涌谷からブナやリョウブの森を抜け、箱根ビジターセンターのある湖尻へ目指すコースである。
歩いているとチュンチュンという野鳥のさえずりなどが聞こえてくる。
「な、なかなか過酷なコースですね」
亜希子が疲れている様子を見せた。確かに登りの道が多くて普段あまり運動しない人にとってはきついかもしれない。俺も自慢できるほど運動をしているわけではないが。
「少し休みましょうか」
泉さんの提案で近くにあったベンチで少し一休みすることにした。
「それにしてもすごい煙ですね」
俺は遠く先から湧き上がっている白い煙を見つめた。ここら一帯には火山ガスが噴き出しているようで、高い地温にのみ育つアセビなどの植物が育っている。
「そうね……これなら」
「これなら?」
「いえ、何でもないわ。亜希子ちゃん、大丈夫?」
「すみません……もう少し休めば大丈夫です」
「いざとなったら私がおぶってあげますよ!」
さっきロープウェイの中で行ったことをシトラスは本気でやろうとしているようだ。それにしてもこいつ、すごいな。
俺も少なからず疲れたのに、シトラスは全く息を切らした様子はない。
少し休んだ俺たちは再び歩くことにした。泉さんはカメラで周辺の様子をたくさん撮影した。
「泉さん、随分と熱心に撮影しますね。そんなに火山が好きなんですか?」
「ええ、まぁね。私、大学で火山のことについて勉強したいと思っているから」
「そうなんですか」
初めて聞いたな。そうか、もうしっかり進路のことを……といっても、もう三年生だし不思議ではないか。
「しっかりと進路のことを考えてるんですね」
「まぁ、もう三年生だしね。慎くんは進路のことは考えているの?」
「いえ、しっかりとは考えてないですね。経済学部のある大学に進もうとは考えてますが……」
特にやりたいことがあるわけではない。就職に有利ということで経済学部に行こうと考えているだけだ。
できれば関東内の国公立大学。それが厳しければ私立の大学に進むことになると思う。
「えー! 慎くん、経済学部なんだ! 私、全然どこの学部にするか決めてないや!」
泉さんと俺の進路の話を聞いていた亜希子が会話に割り込んできた。
「そうなのか。けど、やっぱり理系の学部にするんだろ?」
亜希子は理系を選択している。まぁ、理系から文系に変える人も少なからずいるのだが。
「まぁね。理学部とか薬学部とかがいいかなとは思ってるんだけどね。志望大学とかは決めてないの?」
「いや……ちゃんとは決めてないな。亜希子は決めてるのか?」
「ううん、私もまだだよ。シトラスちゃんは進路のこと決めてる?」
亜希子は進路の話題をシトラスにも振り始めた。大丈夫かと俺は少しばかり心配になった。
宇宙人であることをバレるということはないにしてもあまりトンチンカンなことを言ってしまわないか不安である。
「ふっふっふっ……もちのろんですよ! ちゃんと考えてもいますとも!」
シトラスは自信満々にそう言った。どうやら俺の心配すぎのようであった。ちゃんと地球人として溶け込む為に抜かりなく設定を考えていたようだ。
「そうなんだ! どこの大学に行くの?」
「大学はですね……慎さんと同じところに行きます!」
「ええ!?」
びっくりした俺は思わず声を上げた。そんなこと初めて聞いたぞ。普段、あまり驚いたような表情を見せない泉さんまで目を大きくしている。能力では泉さんの感情を知ることはできないが驚いていることは明確だ。
「初めて聞いたぞ! そんなこと」
すると、シトラスは顔を赤くし、身体をモジモジとくねらせた。とてもイライラする仕草である。
「いやですね〜。愛すべき慎さんと同じ大学に行くなんて当然じゃないですか」
亜希子は「あわわわ……」と口をパクパクとさせるとシトラスを指さした。
「前々から思ってたんだけど、やっぱり二人とも付き合ってるの?」
「そうです!」「違うます!」
俺とシトラスが同時に叫んだ。俺が否定するとシトラスは不機嫌そうに頬を膨らませる。
「そんなに強く否定しなくても……」
「付き合ってないものは付き合ってないんだからしょうがないだろ」
「あらあら、二人とも付き合ってたんだ。私、応援するわよ」
普通に泉さんが勘違いしてしまってショックである。個人的に一番勘違いされたくない人に勘違いされてしまった。
「ち、違います。泉さん。俺は……」
真っ直ぐ泉さんのことを見つめた。しかし、泉さんは首をかしげるだけだ。
「どうしたの慎くん?」
何をしているんだ俺は。みんながいるところで。いつかは告白するつもりであったがそれは今ではない。
「い、いえ……とにかく俺とシトラスが付き合っているという事実はありませんから! 先に進みましょう!」
適当にはぐらかして再び歩き始めることにした。相変わらず歩きにくい道が続いたが適度に休憩を挟みながら目的地を目指した。
歩くことおよそ一時間半後、目的地である芦ノ湖のほとり湖尻に着いた。俺たちの目の前には青色の美しい湖が広がっている。
湖には何隻かの船が浮かんでいた。
「到着したわね。それじゃ、遊覧船に乗るわよ!」
船乗り場へと移動し、俺たちは遊覧船に乗った。船の上から箱根の景色を眺める。緑豊かな山、綺麗な水面といった景観を楽しむことができた。
船を降りた後、港から歩いてロープウェイ乗り場へと向かい、再び宿に戻った。
部屋に戻った俺は一目散に床に寝っ転がった。足がパンパンである。今日はかなり歩いた。
スマホから『パポン』という通知音がなった。スマホの画面を確認すると、送信者は亜希子からであった。
――私たち温泉に行ってくる。
わざわざLINEでそんなことを言わなくてもいいのにと思った。すると、続けてメッセージが送られてきた。
――覗いちゃダメだよ?
「覗くか!」
思わずスマホを座布団の上に投げつけた。亜希子のやつ、俺が覗くとでも思ってるのか。うん、そんなことはしない。
時を止める力を使えるとはいえ、五秒だけじゃどうしようもないのである。せめて十秒あればなんとか――いや、何を考えているんだ俺は。
たとえ時を一時間止めることが出来たとしても――覗き、ダメ、絶対!
「よし、俺も温泉に行くかな」
着替えとタオルを持って、温泉の男湯へと向かうこととした。しかし、まだ男湯はまだ準備中ということであった。
「マジか……」
せっかく準備してきたのに。しかし、ここで俺にある閃きが。
この宿には混浴用の温泉もある。そこに行ってみるか……?
別に悪いことではない。混浴など、普通はご年配の女性しか入ってこないと聞いている。
亜希子たちもわざわざ混浴を利用するということはないだろう。よし、行くか。
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