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第7話

 午後の授業も終わり、放課後の時間となった。これから生徒会室に向かう訳だが、 「それじゃ、慎さん。行きましょうか」  当然のごとく、シトラスは俺についていくつもりのようだ。 「シトラス、あのなぁ……」  色々と言いたいことはあるが、どうして高校にやってきたのか聞こうとした。しかし、 「シトラスさん! テニス部に入らない?」 「野球部のマネージャーやってみてよ!」 「女子ならやっぱり茶道部でしょ! 見学していって!」 「チア部に興味ない? シトラスちゃんだったら絶対にユニ似合うよ!」  ここぞとばかりにたくさんの生徒がシトラスを取り囲み、部活への誘いを行い始めた。 「えっと、その……私は生徒会に」  少し気の毒だがこのまま放っておいて生徒会室に向かうこととしよう。 「あ! いたいた! 慎くん!」  廊下を歩いていると亜希子がやってきた。 「おお、亜希子」 「生徒会室に行くんでしょ? 一緒に行こう!」  亜希子と並んで生徒会室に向かうことにした。 「そういえばシトラスちゃんは?」 「部活の勧誘に捕まってるよ」  あの様子じゃしばらく動けそうにないだろう。 「そうなんだ。あの子、やっぱりすごい人気なんだね」  まぁ見た目『だけ』なら美少女と言っても差し支えないしな。 「そうだな」  すると、亜希子は顔をうつむかせた。 「慎くんもああいう子が好きなの?」 「はぁ?」  唐突な亜希子の質問に俺は戸惑いを感じた。  なんだって突然、こんな質問をしてくるのか。  シトラスがタイプかどうかか。確かに見た目こそ良いが……交尾しよう交尾しようと強引に誘ってくるところはどうしても受け付けることができない。  それに俺には泉さんという心に決めた人がもういるのだ。 「別にそういう訳じゃないよ」 「そっか」  俺が答えると亜希子は安心したように微笑んだ。  また、亜希子の心からも安堵の感情が伝わってくる。  亜希子はほとんど裏表がない。だから、話をしていてもあまりに不安になることがほとんどない。  そんな亜希子を俺は友人として、とても好きであった。  やがて生徒会室に到着したが、まだ泉さんは来ていないようであった。 「泉さんまだ来てないね」 「そうだな」  俺は鞄を起き、生徒会室にある木で出来た椅子に座った。恐らくはホームルームが長引いているのだろう。しかし、もう少しで泉さんもやってくるはずだ。  亜希子は俺の隣の椅子に座り、じっと俺の様子を伺ってきた。明らかに緊張という感情が伝わってくる。  いつも屈託無く話しかけてくる亜希子が俺に対して緊張するというのは珍しいことだ。一体、どうしたのだろうか。 「ま、慎くん!」 「ど、どうした?」  身体をモジモジとさせ、何かを言い出そうとしていた。 「聞いて欲しいことがあるの!」 「ああ」  俺が頷くと、亜希子は勢いよく立ち上がった。膝丈の短めのスカートの裾が大きく売れ動いた。 「二年生になってさ……色々と環境も変わって、私たちも友達同士だったけどこれからはなんというか、もう少し一歩先のステージにその……行きたいというか……」  亜希子の言葉を傾聴していた俺であったが何を言いたのかよく分からなかった。 「ごめん! 二人とも遅くなって」  泉さんがやってきた。 「い、泉さん……お疲れ様です!」  亜希子は泉さんがやってきたことに気づき、慌てた様子で挨拶をした。 「お疲れ様……二人ともどうしたの?」  泉さんは俺たちの異様な様子を察したのか訝しんだ様子で何をしていたかを訊いてきた。 「な、なんでもありません! 泉さんこそ、今日は何かあったんですか? いつも一番に生徒会室に来てるのに」 「ちょっとホームルームが長引いちゃって! それより、シトラスちゃんは来てないの?」 「あー、いま部活の勧誘に捕まっているのでしばらく来れないと思いますよ」 「そう……それは残念ね。それよりも、昨日ちょっと話した箱根温泉なんだけど、早速昨日予約してきたよ! 結構良い宿に泊まるから二人とも楽しみにしててね!」  温泉か。泉さんと温泉か……って、俺は何を考えているんだ。いかんいかん。 「慎くん。何か今良からぬことを考えなかったかしら?」  泉さんが唐突に訊いてきた。 「いえ! 滅相もございません!」  意味ありげな笑みを向ける泉さん。やばい、この人エスパーか? 相手の心を読むエスパー……ってか、それは俺か。 「慎くん、悪いのだけれどシトラスちゃんを呼びに行ってもらってもいい?」 「俺がですか?」  泉さんからの急な指令が下された。あの人混みの中、シトラスを呼びに行くというは地味に難易度が高そうだ。  ぶっちゃけ行きたくない。 「同じクラスだしお願いできないかしら?」 「分かりました」  泉さんの頼みとなればそうそう断れない。こうして、渋々ながら俺はシトラスを呼びに行くことにした。 「あいつ、どこにいったんだ?」  俺は一度自分のクラスに戻り、シトラスを呼びに行ったのだがシトラスの姿は見つからなかった。  体験入部にでも行ったのかと思い、体育館やグラウンドなど思いつく限りのところを探したのだが一向に見つからない。  本当、一体どこに行ったのだろうか。 「ん……あれは……」  少し離れたところにシトラスの姿を見つけた。俺はシトラスに声を掛けようとした。しかし、何やら険しい表情をしている。  シトラスは近くの階段を登り、屋上へと向かっていった。  屋上は出入り禁止となっており、基本的に誰も行くことがない。それゆえ、授業中の不良の溜まり場となったり、告白の場所として使われることがある。  まさか、シトラスのやつ告白に呼び出されたのか。まだ転校初日だというのに。  少し気になった俺はシトラスの後を追った。屋上に入ったシトラスを扉の隙間から観察する。  シトラスの向こう側には金髪の男子生徒が立っていた。見たことのない生徒だ。他学年だろうか。  顔はかなりのイケメンである。 「ごめんね。シトラスさん。こんなところに呼び出して」 「いえいえ。それでお話というのは何でしょうか?」  俺は固唾飲んで二人の成り行きを見つめた。これはやっぱり告白の流れだろうか。 「ちょっと気になってさ……シトラスさんって変わった雰囲気を持っていると思ってね」 「それはどういう意味でしょうか?」 「もしかしたら地球人じゃないんじゃないかなってね」  すると、シトラスは小馬鹿にしたかのように「ふふっ」と笑った。 「面白い冗談ですね。先輩。それじゃ先輩は宇宙人とでも言うんですか?」 「もしそうだとしたら?」  真顔で男子生徒が訊いた。何やらただならぬ雰囲気を感じさせる。まさかこいつ……  しばらく続く沈黙の中でシトラスが交尾成功率測定器を取り出した。 「質問に質問で返すなんて、先輩は勉強不足ですね。ポチッとな」  シトラスはどこかで聞いたことのあるような言葉を言測定器のボタンを押した画面を確認した。 「なんだそれは?」 「交尾成功率三パーセント……まあ、あまりタイプではないからどうでもいいですが。えっと、なるほど。ティアパー人ですか」  すると、男子生徒の腕が急に刃物のような形に変わった。まさかうちの高校の生徒で宇宙人に化けていたものがいるだなんて…… 「その機械……化けている宇宙人を判別できるのか。便利だな。おい、返答しだいでは何も危害を加えない。お前は保守派か? 侵略派か?」 「保守派ですね。あなたは?」 「残念ながら俺は侵略派だな。そして俺はあるお方の指令でお前のことを調べるように言われている。なぁ、仲間になる気はないか?」 「ないですね」  あっさりとシトラスが否定した。話の内容はよく分からないが、多分侵略派というのは地球の侵略を狙っている者たちということなのだろう。 「そうか……残念だ。せっかくいい仲間になることができたと思ったのに」  男子生徒はたちまち姿を変え、黒い皮膚をした大きな二足歩行のいかついトカゲのような生き物へと変貌した。  右手はナイフ、左手はハサミのような鋭い形状をしている。 「貴様を細かく切り刻んでやる! 覚悟しておけ!」  そして、元男子生徒ことティアパー人は大きく振りかぶり、シトラスの脳天にナイフを振り下ろそうとした。  しかし、シトラスはどういうわけか防御の姿勢や避けようとする素振りを見せない。 「何やってんだ! あのバカ!」  気がつくと俺は時を止める能力を発動させ、シトラスの元へと走り出した。急いでシトラスを抱き抱え、ティアパー人から距離を取った。  やがて、時の進行が再び開始した。 「な……消えた?」  知らないうちに自身の攻撃を躱されたティアパー人は驚いたように辺りを見渡した。 「慎さん! どうしてここに?」 「お前が屋上に向かうところを見たから気になってな。余計なお世話かもしれないが助けに来た」  すると、シトラスがガバッと抱きついてきた。むにゅっとした柔らかさと女性特有の甘い香りに思わず取り乱しそうになった。 「慎さん! なんて優しいのですか! さすがは私の夫になってくれる人です」  挙句の果てにはほっぺにキスまでしてきた。ほっぺに今まで感じたことのない感触が感じられた。  ダメだこりゃ、一度離れよう。  俺はお姫様抱っこしていたシトラスを地面に下ろした。 「なんだてめぇは!」 「なんだかんだと聞かれたら!」 「おいやめろ」  俺はシトラスの頭を軽く叩いた。 「慎さん……正体を聞かれたらちゃんと名乗りを入れるのが我らロ◯ット団の決まりでしょう」 「ロケット団になった覚えはねぇ! それじゃあれか? 立場的にお前はム◯シで俺はコ◯ローってか? ちなみにニャー◯さんはいねぇのか?」 「いえ、私がム◯シとニャー◯の二役をやります! なので、慎さんはコ◯ローとソーナンス二役お願いします」  おい伏せ字、ちゃんと仕事しろ。最後、隠しきてねぇぞ。 「お、お願いしますってお前な……」 「それじゃ、もう一度お願いします」  シトラスはティアパー人にリテイクをお願いします。 「はぁ? ったく、しょうがねぇな。な、なんだてめぇは!」  おいおいおい、こいつも律儀にやりやがったぞ。宇宙人ってアホなのか? 「通りすがりの宇宙人だ! 覚えておけ!」  シトラスがそんな名乗りを挙げると、プロボクサーも顔負けのアッパーカットを決めた。 「ぎゃふん!」  ティアパー人は派手に倒れ込んだ。こいつ、なかなかひでぇな。 「き、貴様……約束が違うじゃねぇか。卑怯だぞ!」 「殺し合いに卑怯なんて言葉はないんですよ。私たちハイドロネアウンドロ星人は小さい頃からそう教わってきました。あなたはまんまと私の作戦に引っかかった。もっとも、あんたなんて普通に楽勝に勝てますけどね」  今の作戦だったのか。ティアパー人は悔しそうにギリギリ歯ぎしりをした。 「てめぇ! 調子に乗るのも大概にしろよ!」  ティアパー人はシトラスの元に向かってきた。 「慎さん! 下がっていてください!」  俺はシトラスの言う通り、後ろに下がってティアパー人と距離を取ることにした。 「死ね!」  ティアパー人は身体を大きくひねり、そのままハサミの先端部分をシトラスの体を突き刺そうとした。  しかし、そんな攻撃をシトラスは片手で刃先を難なく掴み、防いでしまった。 「こ、こいつ……」  ひょいとティアパー人の身体を持ち上げ、ぽいと軽く投げた。投げられたティアパー人は受け身も取ることができず強く身体を打ち付けた。 「す、すげぇ……」  とんでもないパワーである。自分の二倍ほどデカイ身体をしている宇宙人の身体をあっさりと投げ飛ばした。  もう全部シトラス一人でいいんじゃないかなと思うほどの強さだ。助けに来た意味がほとんどなかった。 「お、お前! 調子に乗るなよ! これならどうだ! ディススラッシュ!」  何やらティアパー人の右手のナイフから黒いオーラのようなものが見えた。そのナイフで斜め方向にシトラスを切りつける。 「おっと!」  シトラスはかがんで斬撃を避けた。シトラスの数メートル先の後ろの落下防止用フェンスがスパッと切れた。  なんという切れ味だろうか。さすがのシトラスでもまともに喰らったら危険である。 「逃げすか! バイオレンスシザース!」  左手のハサミが大きく開き、シトラスの身体を挟もうとした。 「シトラス!」  危ないと思った俺は思わず叫んだ。しかし、シトラスは全く焦った様子を見せることはない。 「ふははは! そのまま真っ二つにしてやんよ!」  シトラスはしゃがむと某大手ゲームを代表するジャンプの達人のゲームの主人公もびっくりするほどのジャンプ力を披露した。  ティアパー人のハサミが『ジャキン』という金属音が鳴らしながら閉じるが、そのハサミは空を切るのみ。 「セイヤーーーーーーー!」  シトラスは叫びながら見事なキックをティアパー人にお見舞いした。 「ふぎゃぁ!」  ゴロゴロゴロとティアパー人は勢いよく吹っ飛んだ。仮◯ライダーもびっくりの見事な蹴りである。 「さてと……そろそろトドメと行きますか」  シトラスの右手から赤い炎が発生した。パイロキネシスでトドメを刺すつもりだ。ティアパー人は起き上がり、ちらっと俺の方を見た。  奴の感情からは絶望といった感情ではなく、希望に近い感情が感じられた。  これは何かしてくるか? 「シトラス。お前は確かに強い。俺には到底お前には敵わないだろう」 「ふふ。そりゃそうでしょう!」  シトラスは勝ち誇ったかのように笑顔を綻ばせた。 「だが、勝負に勝てるかどうかはまた別の話だ」 「は? それはどういう……慎さん!」  いつの間にかティアパー人が俺の背後移動し、ハサミの刃を大きく開け、俺の身体をいつでも真っ二つに切れるようにスタンバイしていた。  ちらっと後ろを見るとティアパー人は勝ちを確信したかのように微笑んだ。 「シトラス。動くなよ。一歩でも動くとこの地球人の身体を真っ二つに切り刻むぞ」  そんな脅しをかけるティアパー人。しかし、シトラスは全く慌てた様子を見せない。まぁ、俺の能力を知っているから当然と言えば当然か。 「全く。そんな手で私を倒せると思ってるんですか?」  シトラスは脅しに屈することなくゆっくりとティアパー人との距離を詰めた。 「う、動くなと言っているだろ! 本当にこの地球人の身体を斬るぞ!」 「慎さん」 「ああ」  俺は頷き、時を止めた。すぐにティアパー人のハサミから脱出し、シトラスの後ろに移動した。  やがて、時は動きシトラスは迷うことなくティアパー人に攻撃を仕掛ける。 「何! いつのまにそこに……」 「バイロキネシス!」  シトラスがティアパー人の頭に手をかざすと、奴の身体は赤い炎で包まれた。炎の熱さが離れているのにこっちまで伝わってくる。 「ぎゃあああああ! 熱い!」 「あなたの負けよ。ティアパー人」 「く、くそ……だが、最低限の目的は果たした」 「え? それはどういう……」  シトラスが質問するもティアパー人は答えることなくそのまま灰になった。 「シトラス!」 「慎さん! 怪我はありませんか?」 「ああ。それにしてもうちの高校に宇宙人が擬態していたとはな」  これからは周りの人間を宇宙人かもしれないと疑って見た方がいい気がしてきた。  昔みたいに人の心が読めたらいいのに……いや、何を考えてるんだ俺は。  また人間不信に陥りたいのか。 「そうですね。これからは周囲の人をこの交尾成功率測定器で調べた方がいいかもしれませんね」  シトラスは測定器を取り出した。しかし、俺は測定器の画面に一本の戦みたいなものが入っているに気がついた。 「シトラス、それ……」 「え?」  測定器は『ピキピキ』という音を立てながら真っ二つに割れてしまった。 「ええ! どうして?」 「おそらくさっきの宇宙人がやったんだろう」 「あいつ……! いつのまに」 「もう一つ、この測定器を新しく用意できないのか? いや、できれば俺の分も」  宇宙人か地球人か判別できる測定器は俺が持っていても損することはない。 「無理です。この測定器はハイドロネアウンドロ星人に一人につき一台だけ渡されるものです。一度無くしたりしたら新たに入手することはできません」 「そ、そうか……」  これで宇宙人探しは難航を極めることになってしまった。
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