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第5話

「そ、それじゃ……早速手を握ってください……」  シトラスは顔を赤らめ、恥ずかしそうに手を差し出してきた。本当に照れているのかシトラスの手はプルプルと震えていた。 「お、おう……」  な、なんかこっちまで緊張してきたぞ……というか、さっき家で散々、子作りしようだの結婚しようだの言ってきた奴がどうして手を繋ぐくらいでそんなに照れてるんだ。  本当はこいつ、口だけのチキンなのか。  俺は意を決してシトラスの白い手を握った。シトラスの手は想像よりも小さくてスベスベして柔らかい。  やばいやばい。意識するな。だが今はあいつをどうにかするのが先決だ。 「よし。いくぞシトラス」 「はい、慎さん!」  俺とシトラスはカメラを持った男に視線を移した。相変わらず、男はビビっているのか恐怖の感情が感じられる。  時よ止まれ――心の中でそう唱えると、ピタッと俺とシトラスを除く全ての物体が運動を止めた。  メラメラと形を変える炎、消化活動していた消防士、忙しく動いていた警察、そしてキョロキョロと辺りを見渡していたカメラの男も動きを止める。 「さてと、作戦開始と行きますか!」  止まった時の中でシトラスはカメラの男に腕を向けた。  どうしてシトラスが動けるのかというと、俺がシトラスに触れているからである。  俺は自分と自分に触れているもの以外の時間を止めることができる。  今のシトラスは俺に触れられている状態であるため、止まった時の中で動くことができる。 「はぁ!」  シトラスは力を込めた。カメラの男はゆっくりと浮かび上がり、サイコキネシスによって人目のつかないところへと移動させた。  俺が時を止めていられる時間内になんとかカメラの男を移動させることができた。そして、時は再び動き出す。 「は!? ここは……」  カメラの男はキョロキョロと辺りを見渡した。 「気がついたようだな」  電柱の陰から俺たちはカメラの男の前に姿を現して話しかけた。カメラの男はぎょっとした表情で俺たちの様子を伺う。 「なんだお前たちは!」 「なんだかんだと聞かれたら!」  シトラスがどこぞのアニメで聞いたことのあるような名乗りを上げようとした。 「答えてあげるが世の情け……ってやると思ったか?」  俺はご丁寧にもノリツッコミをシトラスにした。 「世界の平和を守るため」 「おい、そのまま続けようとするのはやめろ。お前、もう正体は知ってるぞ。宇宙人だな?」  俺が訊くと、冷や汗をかきながらゆっくりと後ろに後退した。 「なるほど。さっきの妙な叫び声はそこの女が発したものだったか」 「その通りです! 私の名はシトラス。ハイドロネアウンドロ星人です」  シトラスの正体を知ったカメラの男の顔色はみるみるうちに青くなっていった。 「は、ハイドロネアウンドロ星人だと! あの宇宙最強の戦闘民族と言われるあの?」 「そうです! あのです。あの!」 「そうか、あの……」  あのあのうれせぇな。すると、カメラの男はしばらく考え込こむように顎に手を乗せた。  混乱のような感情がつたわってくる。何かをしてくるか……? 「ここはおさらばさせてもらうぞ!」  カメラの男はパチンと指を鳴らした。 「危ない、慎さん!」  シトラスが俺の方に飛びかかってきた。 「いて!」  そして次の瞬間、大きな爆発が起きた。爆発が起きた場所はさっき俺が立っていた場所である。  あのまま立っていたら俺は間違いなく木っ端微塵であった。 「あ、ありがとうシトラス」 「えへへ……慎さんのお役に立てて光栄です」  嬉しそうに微笑むシトラスを見て、少しばかり何かこう胸に来るものを感じたが今はそれよりもカメラの男をなんとかしなければならない。  カメラの男はそのままどこかに逃げ出そうとした。 「逃すしません!」 「く……身体が」  逃げようとしたカメラの男をシトラスがサイコキネシスで捕らえた。 「はぁ!」  そのままサイコキネシスで建物の壁に打ち付けた。 「いてて……」 「逃しはしません。あなたはここで始末します」  再びカメラの男は周囲を爆発させる能力を使おうとした。  俺はぎゅっとシトラスの手を握る。 「ま、慎さん!?」  そして、再び時を止めた。カメラの男の動きが止まる。 「時間を止めた。あいつの能力を抑えることはできるか?」 「はい! 任せてください。バイロキネシス!」  シトラスは両手をカメラの男に向けると大きな炎を発生させた。ちょうどその時、時が動きシトラスが生み出した炎がカメラの男に襲いかかる。 「あ、熱い!」  奴は炎を浴び、地面に突っ伏し、ジタバタとのたうち回った。 「これで終わりです」 「う、動けない……!」  カメラの男が動きを止めた。おそらく、シトラスがサイコキネシスを使って動きを封じたのだろう。 「ナイスだ、シトラス。それでこいつをどうするんだ?」 「始末します」 「始末ってのはつまり……」 「意味の通りです。殺します」  勤めて冷静に喋るシトラスにゾクッとした。  これが戦闘民族の本性。恐ろしく冷たい目をしている。どうやら俺はシトラスを勘違いしていたみたいだ。  シトラスは地球を守る心優しい宇宙人であると思っていた。  いや、それはおそらく間違ってはいないのだろう。しかし、地球人の道徳観とは幾分かけ離れているように思えた。 「なんとか殺さない方法はないのか?」 「ありません」 「せめて情報を吐かせてからのほうが……」 「そんな簡単に口を割るような連中ではありません。それに任務を失敗したこいつは放っておいてもおそらくもっと酷く殺されることでしょう。ここで殺して差し上げるのも優しさです」  サイコキネシスでゆっくりとカメラの男を空高く浮遊させた。  そして、カメラの男の態勢を反対にさせ―― 「目を瞑ってください」 「お前ら! 覚えていろ! 必ず他の仲間がお前らを」  グシャ。  生肉をハンマーで殴りつけたような生々しい音が耳に轟いた。反射的に俺は目を瞑った。  ずっと目を瞑っていたいと思ったがゆっくりと目を開けた。  シトラスはカメラの男と思われる死体を無表情で眺めていた。しかし、その死体は先ほどの人間の死体には見えず、見たことのない動物の死体のようであった。 「これ……さっきの男の死体か?」 「はい。死んだことで擬態が解けたんです。これが本当の奴の姿です」  赤色の硬い皮膚に肩からは鋭いツノのようなものが生えているのが確認できた。頭を失っていてなかなかグロテスクであるが、人間の形をしてないだけまだ見ることができた。 「こいつを警察に見られると厄介ですので焼いておきましょう」  シトラスはバイロキネシスを使って死体を跡形もなく消した。 「とりあえずはこれで一安心か……それにしてもこんな宇宙人が他にもたくさんいるのか。さっき、俺たちが戦った宇宙人はどれくらい強いんだ?」 「普通くらいですね。クスプロ人よりも強い宇宙人はざらにいますよ」 「ま、まじか……」  あ、あれで普通だと。指を鳴らすだけで爆発を起こす超能力を持った宇宙人がか。 「慎さん。私は一度、自分の宇宙船のところに戻ります。わざわざ駆けつけて来てくれてありがとうございました」 「ああ。それじゃまた」  こうして宇宙人との激しい戦いを終えた俺は帰路へと歩いた。  しかし、今日の戦いはこれから始まる激しい戦いの序章に過ぎないのだと俺は後に気づかされることとなる。
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