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第2話
「今日から皆さんも学年が一つ上がり、期待と不安に満ち溢れていると思います。たった一度きりの高校生活。どうか悔いのないよう過ごしてください!」
始業式。それは新学年としての始まりを開始するための式だ。
校長が登壇に上がり、退屈な挨拶を長々と話していた。大半の生徒はそれを暇そうに聞き流している。
俺が通う私立幸栄学園は東京都内にあり、今年で創立五十周年を迎える由緒のある高校である。
一学年につき、二百人余りの生徒が在籍するこの学校ではたくさんの部活動があるが、俺自身は特に部活には入っていない。
ようやく校長の挨拶が終わり、始業式が終了した。始業式の後は授業に関するレクエーション等が行われた。
二年生ということで文理選択が進級前に行われ、俺は文系を選択していた。当然、授業の内容も文系に特化したものとなる。
「さてと……行くかな」
ホームルームも終了し、独り言のように呟いた。先ほど言った通り、俺は部活には入っていない。
しかし、俺は『ある活動』に参加している。
「慎くん! 生徒会に行こう!」
ガラガラガラと勢いよく扉を開けて入ってきたのは浄土ヶ浜亜希子(じょうどがはまあきこ)であった。
サラサラとしたツインテールの金髪をなびかせながら教室に入ってきた彼女に対し、クラスの男子生徒はおろか、女子生徒までも亜希子に見惚れているようであった。
亜希子は成績優秀、楚々とした女性で男子生徒のみならず、他の女子生徒にも人気があった。
「ああ。そうだな」
俺は亜希子に促され、腰を上げた。そんな俺とやりとりを羨ましそうに周りの生徒が見つめていた。いや、実際そうなのだろう。炎のような怒りの感情が感情を読み取る力で伝わった。
「慎くん、いよいよ私たちも二年生だね! なんだかワクワクしない?」
「ワクワクかぁ……俺はそろそろ受験を意識しちゃって少し心配になるな」
「えー! もう、受験のこと考えてるんだ! 慎くんは真面目だなぁ」
おっと説明が遅れたが、俺は生徒会に所属している。
一年前、生徒会長に誘われ俺は生徒会に入った。
ちなみに役職は書記である。そして亜希子は会計を担当している。
やがて、生徒会室に辿り着いた。木製の扉を開けると、すでに部屋の中には人がいた。
その人物は茶色いソファーに腰を掛け、手にはモダンチックなティーカップを持っていた。
「あら、亜希子ちゃん。慎くん。お疲れ様」
俺たちの入室に気づいた生徒会長が挨拶した。
「お疲れ様です! 泉さん!」
亜希子が生徒会長に元気よく挨拶した。
「お疲れ様です。生徒会長」
俺も挨拶すると、生徒会長の一関泉(いちのせきいずみ)さんがふふっと可憐な笑みを綻ばせた。その仕草に思わずドキッとする。
泉さんは俺を生徒会に誘った張本人である。
泉さんは俺たちより一つ年上で、昨年度の生徒会長選挙において、ぶっちぎりの一位を獲得して生徒会長となった。
長く艶のある黒い髪、亜希子と勝るとも劣らない大和撫子を彷彿とさせるような容姿の泉さんはたくさんの生徒から人気があり、勉強もかなりできるため、教師からの信頼も厚かった。
「今日からまた学校だけど二人とも頑張ろうね!」
「はい!」
こういってはなんだが、俺はおそらく泉さんに恋をしているのだと思う。理由を聞かれれば美人だからとか色々とあるが、一番の理由は彼女の感情をなぜか能力で読み取ることができないからである。
「そうだ、二人とも! 今日はババ抜きでもして遊びましょう!」
「泉さん。仕事はいいんですか?」
ババ抜きをするという提案を亜希子はやや懐疑的な視線を向けた。
「今日は特にやることもないし、大丈夫よ!」
こうして、三人でババ抜きをすることになったのだが。
「くそーまた負けたー! どうして!」
亜希子は悔しそうに負けたことを嘆いた。これで十回連続亜希子の負けである。順位は毎回、泉さん、俺、亜希子で繰り返していた。
「泉さんはともかくとして、慎くんにも負けるなんて……」
「ああ。なんというか、亜希子は分かりやすいからな」
人の感情を読み取ることができる俺にとっては、亜希子に勝つことはとても容易いことであった。
ババを引きそうになると、亜希子から毎回嬉しそうな感情が伝わってくる。他の人とババ抜きをしても多少、似たようなことが起こるが亜希子の場合はものすごく分かりやすかった。
「あー、どうして私、こんなにババ抜き弱いんだろ」
すると、泉さんが立ち上がるとティーカップに紅茶を注ぎ込んだ。椅子に腰掛けるとそれを飲み始めた。
「まぁ、ババ抜きはこれくらいにしてちょっと二人に相談があるんだけどいいかしら?」
相談があると告げる泉さんは顔色を変えずに俺のことをじっと見つめた。一体、なんだというのだろう。
「相談ですか?」
「ええ、今度のゴールデンウィーク、生徒会で旅行に行きたいのだけれどどうかしら?」
「旅行ですか! いいですね。どこに行くんですか?」
旅行に行くという泉の提案に亜希子は深く食いついた。
「箱根に行こうと思ってるわ」
「へー、箱根ですか!」
「慎くんはどう?」
箱根か。行ったことはないからあまり詳しくはないがマラソンのところだよな。後、温泉が有名な。
「俺も行きたいと思います」
「そう。それじゃ決まりね!」
泉さんと旅行か。これはとても楽しそうである。その後、特にやることもなく、雑談をした後、帰宅することになった。
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