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第一章五節

 試験場に立ったことでややアマツは緊張状態となっていた。鼓動が大きくなり息も上がり、冷や汗も流れる。  だが、それ以上に自分が心から待ち望んだ舞台に確実に近づいていること……その大事な一歩の場面だと思えた事で緊張感は闘志に変わり、深呼吸をしてから両頬を叩いて気を引き締める。 「っし!!」  見ている者全員がアマツの快活を感じ取る。真っ直ぐに前を見つめ、炎のような思いを宿す眼差しと大胆不敵とも取れる笑みに陰りはなく輝きにも似ていた。  とはいえ、彼の対戦相手となる試験官はまだ現れてはいない。実績を調べているのだろうが、それにしては……と観戦者達も感じ始める。 「彼の実力を精査してるんだと思うけど、フィンさん的には彼は強いと思う?」 「あいつは……中の下くらいと思いますよ。いつも一緒に行動してる訳ではないんですけど、激しくムラがあるというか……一応、故郷のあるサラマンディス国ではそれなりには有名、と思います」  エレメンタリスの四大国のひとつ西部のサラマンディス国は、火山帯を有する火の国と呼ばれる地域である。  過酷な環境故に凶暴な魔物も多く、同時に召喚札師(リスナー)の実力者も多いという場所。フィンの話ではアマツは同国では有名らしく、それなりには腕前があると言えるだろう。  ふと、フィンはいつの間にかワンドの肩に乗っていたグレムリンのハントの姿がなく、何処かから帰ってきたのか素早く走ってワンドの肩に乗るとワンドが小さなクッキーを手渡し、それを美味しそうにかじり始めた。 「そのグレムリン……どうしてカードにしていないんですか? 召喚したままだと疲れません?」  仲間(アセス)は召喚する際に召喚札師(リスナー)の魔力を必要とする。そしてその維持や力の行使に関しても魔力を消費し、やがて魔力が尽きれば仲間(アセス)もカードへと戻ってしまう。  その為、ハントがカードの状態ではない事が不思議に思え、ワンドもそれを言われて微笑みつつフィンにハントとの関係について話し始めた。 「ハントは僕の仲間(アセス)じゃなくて友達、だから契約はしてないんだ。元々彼は僕にとって大切な人の仲間(アセス)だったんだけど……いつかまた会える時まで、僕といてくれてるんだ」  クッキーを食べ終えたハントを撫でながら関係性を話すワンド。魔物や精霊を契約無しに連れてるのは召喚札師(リスナー)であろうとまずないが、深い関係性が築けてるならば共にいてもおかしくはない。  元仲間(アセス)という経歴を持つのもあってかハントも比較的大人しくしており、同時に、一時的に離れていた理由についてフィンはやや気になりつつもアマツの戦いの方が始まる気配もあり、そちらに意識を向けた。  ゆっくりと歩きつつ現れる縁のない眼鏡をかけた黒髪の男性がアマツと対峙する。純白に金の縁を持つ衣服を着るのは大会運営組織でもある世界召喚札師(リスナー)機関ディバイダースの証であり、眼鏡の位置を整えてから右腕の腕章と一体化してるケースに手をかけアマツと目を合わせた。 「はじめまして挑戦者君。私の名前はケビン・キャスター、普段はディバイダースの実働部隊として勤務しているのだけど……故あって君を試す事となった、よろしく頼むよ」  丁寧かつ落ち着いた口調のケビン。その所属に観戦する者達がざわつき、そしてフィンも同様である。  ざわつく理由はケビンの所属であるディバイダース実働部隊にある。世界中の召喚札師(リスナー)の中でも選りすぐりの者で組まれた部隊であり、並の召喚札師(リスナー)を凌ぐ実力を備えるという。  事実、ディバイダースが組織されてから彼らの活躍で召喚札師(リスナー)に関する犯罪は激減しほぼ皆無となるほどだ。  本来なら彼らは試験の立会人として監督役をしている形であり、試験を行う事はないはずなのだが、アマツ相手に出てきた事はフィンにとっては衝撃そのものだった。
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