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本編

 その日は、いつもどおりの放課後のはずだった。  学校が終わり、特に予定もなかったのでまっすぐ帰ろうとしたところで母から 『今日の晩御飯はすき焼きにしたいと思います。ですが材料を買いに行くのが面倒なので帰りに調達してきてください』  というメッセージがスマホに届いていた。  別にそれぐらいお安い御用だ、とその時は思っていた。  だが……買い物をしに駅前まで足を運んだ俺が目にしたのは……荒廃しきった、商店街だった。 「こ、これは一体……何が起こったんだ!?」  アーケードは錆でボロボロになり、店舗という店舗はシャッターが締められ『貸店舗』という張り紙が貼られている。人の気配はない。  明らかにおかしい。確かに最近は来ていなかったが俺が幼い頃はこんなふうにはなっていなかったはずだ。それが一体、たった10年ぐらいで何故こんなことに。 「誰か!誰か居ませんか!」 「うぅ……」  物陰から、小さなうめき声が聞こえた。  そちらに目をやると老人が一人、焼酎片手に地面にうずくまっていた。 「大丈夫ですか!?」  俺が抱き起こすと、老人は呻くように言葉を漏らした。 「おしまいだ……もう、何もかもが……」 「一体、何があったんですか!?」  俺の問いに、老人はカッと目を見開いた。 「巨大な……巨大な資本が、訪れたんじゃ……」 「きょ、巨大な資本だって!?」 「奴らは郊外にショッピングモールを作り、言ったのじゃ……『こちらは郊外型店舗。皆様は駅前商店街。無理なく共存することが可能ですよ。共に発展していきましょう』とな……」 「そんな……!!都市部ならともかくこんな田舎町でそんなこと不可能だ!車社会なんだぞ!!」 「冷静に考えればそうなんじゃろうな……だが、当時の儂らは気づかなかったのだ……そして……客足は減り……全ての店舗はイオン化(注:電荷的に中性な分子を、正または負の電荷を持ったイオンとする現象。特定企業のブランド名などを表すものではない)させられてしまった……ゴホッ!ゴホッ!」 「ちくしょう……!!それじゃあ、もうここで夕飯の材料を買うことはできないっていうのかよ!!」 「お主……夕飯の材料が欲しいのかい……ここはもうだめじゃ……もしも望むのなら……奴らの作ったショッピングモールに行くと良い……ゴホッ!!」  老人は大きく咳をし、プライベートブランドの焼酎を大きくあおった。   「……ありがとう、爺さん。俺はショッピングモールに行くぜ……手に入れなくちゃいけないものが、あるんだ……」 「気をつけろ……奴らは儂らには想像もつかない方法でディスカウントしてくる……商店街で買い物をするような金銭感覚でいると……恐ろしいことになるぞ……おお、焼酎4リットルで1580円(税込)とは……商店街の酒屋では考えられん……」    老人を後に俺はショッピングモールへと旅立った。  確かに駅前商店街は巨大資本に比べ価格競争力が弱かったかもしれない。だが、果たしてそれだけでああも無残に滅ぼされることがあるのだろうか? 「もっと……恐ろしい理由があるのかもしれないぜ……」  そのショッピングモールは郊外にそびえたっていた。  ゆうに100を超える自動車が駐車できるであろう広大な駐車場は、この地方にあっては比較的地価の高い駅前商店街にはなかったものだ。  買い物客の自動車ひしめく駐車場を通り過ぎ、店内へと足を踏み入れた。 「いらっしゃいませー!」 「ぐわああああああ!!」  俺を出迎えたのは店員の明るい挨拶だ! 「駅前商店街では常に店主の爺さんが常連客と話し込んでいて挨拶なんてなかった……!!これが、ショッピングモールの力……!!」 「何かお探しですか?」 「くっ……!答えろ夕飯の材料はどこだ!」 「生鮮食品売り場は地下一階となっております!」 「地下……だって……!?」  まさか地上以外に店舗があるとは。ただでさえ駅前よりも地価の安い郊外の土地をどれだけ貪欲に利用しようというのだろう。  低い唸り上げるエレベーターにのり地下へ降りていく。  地下とは思えぬ照明が煌々と灯る中進んでいくと、すぐに野菜売り場へとついた。 「新鮮な野菜に……小分けされたカット野菜まであるだと!?ちくしょう!どれを買えばいいんだ……」 「ぐふふふ……愚かな人間よ。何かお困りですか……」 「き、貴様は!?」 「ぐふふ……儂はこの野菜売り場を司る店員……人間よ、もう一度問うぞ!貴様の望みはなんだ!」 「ちっ…… 聞くしか、ないのか……!!答えろ!小分けにされたカット野菜と丸のままの野菜!俺はどっちを買えばいいんだ!」 「ぐっはっはっはっは!逆に問うぞ、人間!貴様、家族は居るか……?」 「両親と……中学生の弟が……き、貴様!それを聞いてどうするつもりだ!」 「ぐふふふふ、知れたこと!……カット野菜は単身者向けの商品……貴様が買うべきはまるのままの野菜よ……!!」  俺は野菜を手に入れた。 「ちくしょう……!牛肉と豚肉どちらを買えばいいんだ……!!」 「愚かな人間よ……すき焼きの肉がどちらかは地方によるが食べ盛りの高校生と中学生が居るなら単価が安い豚肉で量でも稼いで居るが良い!」 「絹ごしと、木綿だって……!?」 「ひーっひっひっひ!木綿のほうが型くずれしにくいからすき焼きにはおすすめだよォ!」 「セルフ、レジ……!こんなもの、商店街では見たことがない……!!」 「くくく……これが商店街と我らの資本力の差よ……!!レジに裂く人員を減らすことで各売り場に人を配置しサービスを充実させる!奴らにこんなことはできまい……!!」 「だが……レジ袋が有料では……!!」 「愚かな人間め……!エコバッグを持ってくれば良いものを……はっ……貴様、まさか……!!」 「ああ!俺には通学用の大きめのカバンがある!この中になら入らないことはないぜ!!」  ――そうして、激しい買い物の末、俺は夕飯の材料を手に入れた。 「……確かに、彼らは駅前商店街を滅ぼしたのかもしれない……でも、それって彼らだけの責任だったのかな……もしかしたら、本当に……彼らと商店街のみんなが共存する道は、あったのかもしれない……」  そんなことを考えながら、俺はその場を後にした。 「ただいまー」 「おかえりー、夕飯の材料買ってきてくれた?」 「ああ、肉に、野菜に、豆腐に……」 「しらたきは?」 「あっ」  
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