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序・3 チーフスカウト、ハーフエルフのサッド

「濃いな。流石、闇の森の洞窟だ」  髭もじゃドワーフのタルボットが誰に言うとでもなく呟く。  闇が濃い、というのが単なる比喩的な意味だけではなく、実際にこの洞窟内の“闇魔法”の濃度が高いッてなことだ。  このタルボットは魔装具使いと言って、まあ戦団の中じゃあ珍しい手合い。  自ら集め、作り、改良した様々な魔法の道具を駆使する。  当然、ドワーフの癖に自分自身の戦闘の技量はたいしたとなく、ぶっちゃけ俺と一~二を争ってるワケだ。  あ、勿論下からの順位を、な?    んで、今、奴が手にしている小さな掌大くらいの手鏡。  曰わく“魔捜鏡”というもので、周囲の魔力や生命力を探知するてな道具だ。  ここまで周囲の魔力が強くなければ、魔法生物や魔力による罠、隠し扉などの発見もしやすいが、ここじゃあその半分も性能を発揮出来ない。  そこは当然戦団としても折り込み済みで、だからこその俺、なわけだ。    チーフスカウトのサッド、てのはまあ誇大広告ではある。  そもそもは、ウッドエルフ社会における凄腕の斥候の称号だ。  俺は帝国人の父とウッドエルフの母との間に生まれている。  種を超えた大恋愛か? と思われそうだが、そんなロマンチックなもんじゃない。  下級の職業軍人だったあいつが、以前捕虜としたウッドエルフの女を奴隷として買い取り、たまたま出来たのが俺、というだけだった。  あいつはハーフのウッドエルフにどのような能力があるのかに興味があったらしく、そのまま俺を母に育てさせた。  しかしエルフは人間種より寿命がはるかに長い。そして同時に成人になるのも遅い。  ウッドエルフとのハーフだった俺は、他の人間の子供より成長が遅く、だいたい1.5倍程は未熟だった。  で、俺が6歳の頃に母は死に、10歳の頃にはあいつが死んだ。  人間年齢で言えば7~8歳程の成長具合だったが、それでもそのくらいの人間のガキよりかは頭の出来も身のこなしも上だった。  しかし、俺にはちょっとした問題があった。  ストレートに言うと、暴力が苦手だった。    あいつが母に俺を「育てさせた」と言ったが、血筋上の父は、決して俺を「息子」とは見做していなかった。  大枚叩いて買った財産たるウッドエルフの奴隷と、その奴隷が産んだ奴隷。それが俺だ。  食事もまともには与えられず、地下倉庫に藁で作った寝床。  食肉にする前提である家畜の方が、まだマシな扱いだったろう。  元老院議員や諸侯の奴隷なら、衣食住も最低限、財産としての奴隷を維持するだけのモノが保証されてただろうが、何せ下級軍人がちょっと無理をして買った奴隷だ。  母も見た目が良ければましな買い手に買われただろうが、戦争のためか捕虜生活でか、体中に傷跡や火傷の跡のある母は、言わば格落ち。  さらには軍人であるあいつは、戦となれば長期間家を空ける。  そして留守を任される下男の男が、輪をかけて酷い野郎だった。  あいつはこちらにほぼ無関心だったが、この醜悪な下男はというと、雇い主たるあいつにばれさえしなければやりたい放題のゲス野郎で、見られていないところではネチネチネチネチといたぶられていた。  飢えで身体も弱くて細い。  その上で気紛れで陰湿な、しかし目立った傷跡の残らぬ暴力にさらされ続けた俺は、見事に「暴力恐怖症」に育った。  しかし、母のようにひたすら顔を下げ卑屈に堪え忍ぶ様な生き方も選ばなかった。    さっきも言ったが、貧相な体に反して、アタマの方はけっこう回るタチだったんだよ。    冬の寒いさ中に母が過労と衰弱で死んだとき、あいつは戦場に出ていて不在だった。  勿論母の死の原因が誰にあるかは、その当時の俺にもハッキリと分かっていた。  だから、糞下男の奴は、その半年後に「運悪く」死んでしまうはめになったワケさ。    貴族や議員、大商人ならともかく、赤貧ではないが金持ちでも無いあいつの家で、母の死体と共に3月程暮らしていた。  蓄えはすぐに尽きたから、後は盗みと狩りで糊口を凌いだ。  俺の今ある技能の基礎は、この頃に出来たと言える。    母の遺体は腐りもせずに残り、いつしか硬い蝋の塊のようになっていた。  屍蝋、という状態だと言うことは、後に知った。    戻って来て、母の屍蝋化した死体を地下倉庫で見たときのあいつの顔は、今でも記憶に残っている。  いるが、ではそれはどんな感情の込められた表情だったのかと問われると、なんとも言い難い。     母の死後も、生活はさして変わらなかった。  新しく雇われた下男は、賢しらで軽薄な男だったが、暴力的ではなく俺ともよく遊んだ。  子供好き、というより、本人が子供みたいな奴だったのと、要は仕事を適度に抜け出すのが上手かっただけだ。  しかしとは言え、俺が「世間」というモノを知れたのは、その軽薄で幼稚な下男のお陰なのは間違いない。  奴の話してくれたこと、教えてくれたことは、地下の物置と狭い庭しか知らなかった俺の「世界」を、十分以上に広げてくれた。    その新たな下男は、4年後にあいつが戦場で死んだ後に、どうせ役人に没収されるならと幾つか残った金目のモノを盗み出し、そのうち僅かな分け前を俺に寄越した後、そのまま逃げていった。  勿論、俺も逃げ出して、そこからが素敵な孤児ライフの幕開けだ。    繰り返しになるが、俺は腕力、暴力はからきし弱かった。  その代わり、身のこなしと観察力、そして何よりも頭の回転が、そこらの人間のガキとは比べものにならなかった。  郊外に近いあいつの貧相な家を出て、都市へと移り住む。  半年もせずに、孤児の中の一つの派閥でリーダーとなっていた。  俺はここでも色々と学んだが、何よりも重要だった学びは、のし上がるためには自分自身の力、特に暴力なんてのは、全く必要ないと言うことだ。    あいつはそれなりに強い兵士だったはずだ。  母を買い取った金も、何かしらの報奨金だったという話で、戦場ではそこそこ働いて居る。  しかし全く出世する気配はなかった。  それは一重に、愚鈍で、知恵がなく、人との付き合いが下手だったからだ。  上役に世辞の一つも言えず、下男が影で何をやってるかも見抜けず、あまつさえ完全に嘗められていた。    孤児、であってもそれは同じだ。  愚鈍な力自慢は、口先と手先で丸め込まれ、良いように使われるだけ。  俺はそういう奴らを下に置き、都市の地下下水道や路地裏で一端の顔になっていった。    運が、味方した。  都会で成り上がったことが、ではない。  些細なミスからドミノ倒しの様に追い詰められ、街に居られなくなった俺は数人の残った仲間と逃げ出したのだ。  郊外、田舎、山へと逃げていき、小さな山賊団のような、或いはただの野人のような生活をしていたときに、アレが起きた。   「滅びの七日間」だ。    初めは風が吹いた。  雨となり、雷鳴が轟き、地は日に何度も揺れ、山は火を噴き、津波が港町を襲い……そして、帝都とその周辺は、消滅し海に没した。    帝国の崩壊を齎したそれを、俺は「運良く」生き延びたのだ。    さて、話を今に持ってこよう。  山賊紛いの暮らしも立ち行かず、かと言って傭兵なんてのは俺には無理だ。  ウッドエルフの街へ? いや、受け入れられるわけもない。  そんなとき、疾風戦団の話を聞きつけた。  戦働きではなく、細々した依頼を受ける変わり者の戦士団。  しかも、必ずしも求められるのは剣と盾での大立ち回りでもない。  俺には、目と耳と口先と、アタマがあった。  そしてそれを駆使した俺は、戦団の中でも他に代え難い貴重な「戦力」になって行った。  ほとんど戦わないのに戦力、てのも皮肉なもんだ。      俺は一行からやや先行して、先の様子を探る。  問題が無ければ壁に○印をつけて、問題があればそれぞれ応じた印を残す。  緊急と思えれば戻って知らせる。  この隊列においては、タルボットの魔捜鏡は、むしろ俺がどこにいてどういう状況かを確認する為の道具と言える。  大ネズミだの大ムカデだのの、幾つかの危険性のある獣を退けつつ洞窟を進むと、一転、開けた人工的空間に出た。    地下墓所、だろう。  古代遺跡特有の文様と様式で造られている広間。  この様式は、今では滅んだとされる古代のトゥルーエルフのものだとされている。  曲線の多い優美なアーチ構造に、植物や花を模したレリーフ。  今ではその子孫とされるハイエルフ達が西の果ての島に閉じこもって暮らしているだけだが、かつては大陸全土にトゥルーエルフの大帝国が繁栄していたと言われている。  まあ、俺達にとって問題なのは、こういう古代地下墓所が、闇の森のような“呪われた場所”で見つかった場合、かなりの高確率で不死の化け物と化した死体が彷徨いている、ということだ。  さて、先ほど言った「問題発生」のパターンだ。  戻って報告をし、方針を決める必要がある。  ここを抜けるか、別の道を探すか、或いは?    闇の中に小さく、しかししっかりとした光が漂っている。  灯明の呪文は、光魔法の最も初歩的な呪文の一つで、松明と違い手を塞がないという利点がある。  この呪文の使い手はクリスティナ。戦乙女、の名で呼ばれ、光魔法と剣術を使う女戦士。  俺は一旦、タルボットから以前買った暗視兜の面を開ける。これを着けたままだと、魔法の灯明は明るすぎて逆に視界の邪魔になる。 「お嬢ちゃん、出番だぜ」  そう告げるも、クリスティナはそのむっつりとした顔を表情一つ変えずにこちらを見返してくる。 「何があった?」  短く聞き返す班長のダヴォン。  もちろんこれは確認の為で、わざわざクリスティナを名指しで呼ぶと言うことは、光魔法の必要な事態であることは分かり切ってる。 「トゥルーエルフの地下墓所だ。  ざっと見だが、結構な規模だぜ」  さて、退くか進むか。 「よっしゃ! アタリを引いたな!」  カイーラが少しはしゃいだ声を上げ、リタが窘める。  トゥルーエルフの地下墓所は、危険も多いが実入りも多い。  副葬品も宝飾品のみならず、魔法の武器や工芸品など多岐に渡り、上手くすればそれこそ一財産。  呪いで不死の化け物と化した死体は、たいてい生前の強さに応じており、トゥルーエルフ社会では高位の者ほど強い魔力を持つのが通例で、強さがそのまま副葬品の価値と直結しているものだったりもする。  そして、俺の見立てで言えばここは最低でも貴族、叉は王族の地下墓所。  カイーラは手柄を逸る気質だ。  姉のリタはカイーラが行くと言えば必ずついて来る。  タルボットは魔法の工芸品に目がないし、班長のダヴォンは、まとめ役の癖に本質的に「危険中毒」。危険な任務ほど燃える、とかいう輩だ。  そして我らが戦乙女は、動く死体が相手ならば誰よりも役に立つ。この場面で「お前の力が必要だ」と言われれば、結局は断れない。  俺は? 当然、奴らに危険を排除して貰ってからが本当の出番だ。    この面子にこの状況で、「退く」という選択肢は出てこない。   そろりそろりと墓所へと向かう。  俺が先導するのはそこまで。  ここからはお嬢ちゃんが中心になる。  聖域の円陣を唱えると、クリスティナから球状の柔らかな光が現れる。  範囲はだいたい10パーカほどで、一行全員が入っても余裕がある。  この光の範囲内では、闇魔法や呪いの力を抑えられ、逆に光魔法の効果が増す。  また、生者には少しずつ体力回復をさせる効果もあり、対動く死体では非常に有用だ。  ただし、これを唱える術者は祈りに集中せねばならず、完全なる無防備状態になる。  なので、術者を中心に周りを囲み、それをカバーしつつ戦う、というのが基本戦術。    この面子だと前後をダヴォンとカイーラが守り、片方のサイドをリタが守るとして、その反対は、タルボットと俺、になる。  そして単純戦力としては、俺とタルボットの二人でも、リタ一人分には及ばない。  いや、この場合タルボットはまだマシなのだ。  奴には対動く死体用の幾つかの魔法の道具がある。  問題は俺。  生きてる相手なら正面から戦わずにやりこめる手が幾らでもあるのだが、動く死体と魔法の擬似生物はダメだ。  不意打ち、騙し打ち、毒薬……と、俺の得意技はまるで通じない。  で、俺の担当はまずはタルボットの魔捜鏡を持って周りの動きを探り、皆に伝え、場合によっては指示を出す事が一つ。  もう一つは、お嬢ちゃんこと我らが戦乙女の補助、となる。  聖域の円陣は、術者が無防備になると同時に、消耗も大きい。  ぶっ倒れる前に、薬やら何やらを使ってケアをしてやらねばならない。  言い換えれば、この場で起きるであろう戦いで最も「無能」な俺こそが、班全体の命運を担っている、とも言える。  多数の動く死体共に囲まれたときに、お嬢ちゃんの気力体力が尽きていた、なんてことになれば、全滅の目もあり得るからだ。      陣形は決まった。  トゥルーエルフの地下墓所は、全体としては恐らく2~3アクトはありそうなドーム状の広間だった。  幾つかの太いアーチ状に伸びた支柱があり、またその支柱や壁に穿たれた穴に、トゥルーエルフ達の柩が仕舞われている。  恐らくは別の広間へと続いて居るであろう通路も見える。  呪いで動く死体と化した古代のトゥルーエルフ達が襲ってくるとしたら、その通路か柩の中からだ。  基本は陣形を保持し、それらに注意をしつつ各カ所を周りつつ調べる、という流れ。  勿論、罠や鍵などのチェック及び解除も俺の仕事だ。    幾つかの柩を調べ、副葬品を「有り難く頂戴」していくが、危惧していたような問題は全く起きなかった。  副葬品には高価な貴金属宝石の装飾品もあるが、何より古代トゥルーエルフの魔術工芸品に、タルボットが興奮気味な声を上げる。 「こりゃあたまげた! この墓所はかなり高位のトゥルーエルフのものだぞい。  魔晶石も大きいし、見てみい、この仮面など、滅多に見れん様式で、魔法防御と魔力増強の効果が見て取れる」  鑑定能力を賢しらに披露するのはタルボットの面倒な癖の一つだが、今度ばかりは本気で興奮しているようだ。  カイーラとダヴォンは逆に拍子抜けしているようだが、まあ無理もない。  今の所、魔法の守護者も動く死体も襲ってくる気配すらない。 「おかしいですね……」  リタが警戒を緩めずに呟く。 「全くだ。ここの死人ども、寝ちまってンじゃねーのか?」  カイーラが気抜けした声で応じるが、その軽口には誰も応えない。 「死者が襲ってこない、のではなく、そもそも死体が無い……」  リタ同様に警戒を緩めぬまま、詠唱をしばし中断していたお嬢ちゃんが言う。    そう、そこだ。  墓所だというのに、埋葬された死体そのものが無い。  トゥルーエルフは死者を埋葬するのに、生前の姿を可能な限り止めようとする。  そもそもほぼ不死に近いとされるトゥルーエルフにとって、生と死は限りなく近いものだ。  文字通りに、それは肉体が動きを止めただけの状態だと考えられていて、いずれ再び魂がその肉体に戻ることがある、ともされている。  従って、特殊な薬品や秘術で、その肉体を朽ちぬように保存すること。それが、トゥルーエルフの「埋葬」だ。  呪われていないトゥルーエルフの保存された死体も、何度か見たことはある。  それは俺の母の屍蝋化した死体に似ていた。  まるで、今にも動き出しそうな……。    しかし皮肉なことに、実際に動き出すトゥルーエルフの死体は、呪いにより醜く変質化している。  剥き出しの頭蓋にこびり付く干からびた肉。その上を薄膜のような半透明の皮膜が覆っており、節々を軋ませながら襲ってくる。  正直、俺にはこの方がむしろ親しみが持てる。   「ふうむ。既に先客が居たか?」 「だとしたら副葬品が残っているのはおかしいですよ。  これだけのものを取らずに、ただ死人退治をして帰るなんて有り得ない」 「戦っていくつか倒した後に、やられちまったのかもよ?」 「あるいは、保存の秘術に失敗して全て風化したか、埋葬する前の墓所なのかものう」  宛推量なら誰にでも出来る。  だから俺は痕跡を探す。 「最近何者かが来た……。それは間違い無いな」  墓所の石畳の上の土埃には、俺たち以外の何者かの痕跡がある。 「複数……じゃないな。いや、動く死体は複数居たが、その別の何者かに全てやられた」  動く死体のものと思える足跡と、もう一つは人の物とは思えぬ鉤爪のついた足に、尻尾、叉は胴体を引きずったような跡。  そして柱の一部、床の何ヶ所かに、破壊の痕。 「闇の力だ」  お嬢ちゃんが引き継ぐ。 「強い闇の力……その微かな残り香が、あちらに続いている……」   広間から続く暗い支道の一つを指し示した。   「戦闘の痕跡~? そんな大規模なら、もっと派手になってるだろ? それに、死体……あー……死体の死体…… 「残骸?」 「そう、それ。それも見当たらないぜ?」 「……つまり、これだけの規模の墓所で、大立ち回りもせずに動く死体をほぼ跡形もなく片付けられるモノ……」  カイーラの楽観的かつ短絡的な発言に、リタが返す。  そのリタの指し示した先。影になった暗がりには、まるで猛獣に食い散らかされたかのような『死体の一部』が転がっていた。 「こりゃまた、大した悪食野郎が居たもんだな」  ニヤリとするダヴォン。これはちと拙い。    さっきも言った通り、ダヴォンの悪癖は「危険になればなる程燃える」ところだ。 「一旦戻りましょう。この敵は不確定過ぎます」  副班長のリタが言う。  リタはカイーラの抑えであると同時に、チーム全体の抑えだ。父のエリスにもそれは重々言われてるだろう。 「闇の魔力が他の場所より強くなっている。この墓所の奥が“魔力だまり”になってるのか……或いは闇の主の造り出した“守護者”かもな……」  魔力、特に光魔法と闇魔法に関してはお嬢ちゃんの見立てが全てだ。タルボットも魔力の察知は出来るが、二歩三歩と引けを取る。 「マジかよ!? こんだけの手柄を前にして、逃げ出すってのか!?」 「体制を整えるだけよ。まずは報告をして、隊長の判断を仰ぐべきです」  姉妹のやり取りを尻目に、タルボットが口惜しげに辺りを見回す。 「宝の山を目の前に、なあ……」  俺は当然、既に逃げ道を確認している。タルボットは不満を遺しても最終的に退くほうに賛成するだろう。  ダヴォンとカイーラが渋っても、こう言うときは多数決が団の決まりだ。 「しかし、戻るにしてもまだ情報が少ない。せめてこの広間内の調査ぐらいは済ませてから……」  ダヴォンの言を途中で引き裂いたのは、一つの悲鳴だ。    か弱き乙女のそれ、を期待する向きも有るだろうが、暗く広い空間に響いたのは、野太いおっさんのそれ、だ。  物凄い勢いでタルボットの身体が引き摺られ、暗闇へと消える。方向はまさに、先程「闇魔法の残り香」が指摘された暗い支道。  最も早く反応したのはお嬢ちゃんで、タルボットに向けて灯明を放ち目印として、右手の剣を掲げ追い掛ける。  やや遅れてカイーラ、ダヴォンと続き、俺は魔捜鏡を確認しつつ周囲を探り、リタは弓に矢をつがえる。    ふ、とタルボットの背に灯された魔法の光が高くあがると、“それ”がその姿の一端を現す。 “それ”、とここでは称しておこう。 “それ”には無数の腕と脚、幾種類かの触手があり、腕は人の形に似たものだけではなく、蜥蜴、虫、叉は四つ脚の獣の脚もあった。 “それ”には蝙蝠の翼があり、甲虫の殻があり、獣の裂けた口と牙があり、蜥蜴や蛇の鱗があり、魚のエラがあった。 “それ”は、多くの様々な生き物の特徴をない交ぜにし出鱈目に組み合わせた出来損ないの玩具のようであった。 “それ”は、意志も知性も、或いは魂すら無いかのような虚無の果てから、様々な生き物の目の形をしたモノで、こちらを観ていた。   “俺”はただ、走っていた。  ただ独り、確認していた出口へと向かい走っていた。  そのとき、轟音と地響きが俺達を襲い、天井を打ち破り巨大な塊が広間へと墜ちて来た。  後にそれが、闇の主の術式により天から落とされた流星雨であり、聖光教会の陣を壊滅状態にまで追い込んだと聞かされるが、そのときにはそんなことなど構っていられなかった。    
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