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1-36.夢の中で(2)『祝福を送ろう───』

   ・  ・・  ・・・    暖かい日溜まりに寝そべっていた。  地面には芝生のような柔らかく短い草が生え、そこここにきれいな花が咲いている。  草の香り、花の香り、土と水と森の木々の香りが、俺の鼻孔をくすぐる。  森の中。そこには苔むした木々と数多の動物、虫、花や果物等々の、豊穣な生命力に満ち溢れていた。    顔を上げて周りを見回すと、一本の大木から綺麗な湧き水が湧き出しており、その根元が丸い円形になっている。ちょうど洗面台か……小さな泉のようだ。  その小さな泉に近づいて覗き込むと、揺らめく水面に写るのはお馴染み豚面肥満体の俺の顔。  ふうむ。やはり……俺だ。  水に手を入れるとひんやりとした心地良い感覚。両手ですくい上げて顔を洗うと、寝ぼけ眼もさっぱりとした。    で。  改めてまた見回す。  見た感じダークエルフ郷に似ている。  小さな泉のついたその巨木は、突き出た枝が階段状に上になって繋がっており、少し高い位置ではテラスとなっている。  またそのテラスの下には地下へと繋がるであろう扉もある。  そう、まさにケルアディード郷で見た住居の作りにそっくりなのだ。  ただ一つ不思議なのは、周りに他の家が全く見当たらない……ということ。  すぐ隣、前後左右をぐるり見回しても、木々が鬱蒼として繁るのみ。  さらに遠くへと目を向けると、ただ濃密な白い霧が広がっているだけだった。    となるとここは、少なくともケルアディード郷ではない……ということか?  他のダークエルフ郷なのか、はたまた郷から離れた独居の家か。  ぼんやりとそう思いながら、小さな泉の前でちょんもり尻をついて座り込んでいると、上階テラスの方から声がする。   「ねェ、せっかく来たンだから、こっちに座れば?」    柔らかな、けれどもしっとりとした女性の声。  見上げると、テラスに設置された木のテーブル席に一人の女性が座っていた。  見たことは……無い。無いと思う。無いんじゃないかな。いやちょっと覚悟はしておけ。  その女性は白く滑らかな肌に見事に映える、緩やかなカーブを描いた長くて艶めいた黒髪をしていた。その両サイドをふんわりと流しており、残りは後ろでくるくると巻きつつ束ねている。  特徴的なのはその黒髪のみならず、引き締まった体を紫を基調とした優雅なドレスに包み、そのふくよかな胸元も、またしなやかな脚も、大胆に入った切れ込みによりちらりと垣間見れる。  それを目にして、俺は急にドギマギとして顔を赤らめ目をそらす。  蠱惑的でふっくらとした唇には、これまた紫色のルージュが塗られており、それらすべてがこの自然に囲まれた環境には全くそぐわず違和感を感じる。  何だろう、凄く……ぞわぞわする。  少なくとも、この女性がダークエルフ郷の家に良く似た建物の住人だ……というのは、ちょっと考えられない。   「どうしたのよ。久しぶりなんだし、ぼうっとしてないでこっちに来なさいよ」  あたかも旧知の仲のような親しげな声音で、彼女がそう呼び掛けてくる。  やはり知り合いなのか? まだ思い出せていない「追放者(グラー・ノロッド)のガンボン」の?  不審な気もしているのだが、かと言ってここで意地になり動かないで居るというのも変な話なので、のっそりのそのそと階段を上がりテラスへと向かう。   「ま、にしても良かったじゃない。結果オーライね。  巧く制御出来るよーになったみたいだし」  席に着くよりも先に、白い陶磁器のティーカップに注がれた花の香りのするハーブティーを一口。唇を湿らせてからそう言ってきた。  何の話だ? 「……ちょっと、何ぼーっとしてんのよ?  ま、ぼーっとしてるのはいつものことかもだけど……」  テーブルの脇で立ち尽くしている俺の顔をのぞき込み、やや訝しげにそう聞いてから、「ああ」と何事かに得心がいったかに小さく目を見開く。 「そっか。あなた“まだ”なのね。  ル・シンの呪いを制御出来るようになったみたいだから、もう完全にそうなったのかと思ったけど……そうね、だからわたしの事も“思い出せてない”のね」  彼女の言葉の意味は半分も分からない。分からないが……はてさて。ここはもう、詳しく聞くしかなさそうだ。   ◆ ◆ ◆   「前に会ったときは……あなたに指輪をあげたんだけど……それも覚えてないのよね?」  指輪。心当たりは唯一これ。外そうとしても外れない、魂に絡み付いている“呪いの指輪”だ。  テラスのテーブル席に相対して座りながら、俺はむっちりした左手の指にはまったそれを見る。 「その前後の経緯……も、“思い出せない”のよね?  う~ん……どこから? 話したら? 良いのかしら? ね?」  間近に観ると驚くほどに整った容貌の、きめ細やかな肌の眉間に小さくしわを寄せ思案顔。しかしすぐにパッとした表情へと変わり、 「ま、いずれちゃんと思い出すだろうし、ここで話してもまた忘れるかもしれないから、テキトーで良っか!」  ……どうも、思いの外軽い。   「えーっとね。  あなたは“狂犬”ル・シンの呪いにかかって人狼になったの。  そして呪いのせいで多くのオークを傷つけて城塞から追放された。  呪いを解くための方法を探して各地を放浪してて、わたしがあなたに指輪をあげた」  思いの外軽い口調で、思いの外重い話をする。    え、嘘、俺こと“追放者(グラー・ノロッド)のガンボン”の追放理由って、そんなヘビィな話なの?  てっきり、「ちびでヘタレのオーク失格野郎」として追放されたとかだと思ってたのに!?  というか、オークで人狼って何? “人”でもねえし!? 言うなれば“オーク狼”?  オークで、オークらしくなくて、追放されてて、呪われていて、人狼で……一度死んでからは元日本人の引きこもり柔道デブの前世の記憶、人格を持って甦って……て。 「設定盛り過ぎじゃね!? 俺!?」  しかもそれでイケメンならまだしも、豚面トラック大発進とか、誰得!?    思わず立ち上がりつつ、心の叫びが声に出てしまう。  そんな様子にちょっと驚いた表情を見せた彼女は、またも直ぐににんまりと唇の端を上げて笑うと、 「ふふん、何か可愛い~」  そんな事を言う。  ぼわっ、と顔から火が吹き出るかに赤面。  もごもごあわわ、椅子に座り込んで小さく縮みあがって居ると、彼女は再び言葉を続ける。 「ま、盛り過ぎとか言ってるけど、一貫はしてるのよ、あなたの“テーマ”って」  不可解な物言いで、さらに不可解な発言。 「あなたは本質的に臆病で優しい。戦うのも争うのも嫌いだけど……戦わざるを得ない“運命の糸”に絡め取られもがき続ける……。  それが───あなた」    ドキリとする。いや、それよりもゾワゾワとした感覚が背中から立ち上ってきて体中を這い回る。   ル・シン……とやらの呪いで、俺は人狼になった。そこはまあ、そういうことなのか、と思うしかない。  けど、その後……“運命の糸”……?  単に芝居がかった言い回し……というだけなのか、それともその言葉には何かしらの意味があるのか?  いや、というか、そもそも───。   「あ、あの───貴女、ど、どちら……様、ですか?」  顔色を伺うような上目遣いでおっかなびっくりそう聞く俺。  その問いに対してこの色っぽい女性は、 「ん、神様」  と、事も無げにそう言った。    ───来たーーー!!??  これ、本来プロローグで起きるイベントだーーー!!??  いや、まて、確か俺、「前に会ってるけど忘れてる」とか言われたよね?  じゃあ本当はそんときに転生の理由だの説明だのとか、スキル選びとかチート確認だとかをしてたのに、それをスッカリ忘れてるとか!?  つまり、この、アレだ。それだ。いや、何だ? ……もう、分からん!!   「───みたいなもの」  ん? 「の、この世界の代理人?」  へ?    ───どっちよ!?      「アッハッハ!  ガンボンちゃんの百面相、たっのしーーー♪」  それはもう、本当に楽しそうに笑っておられます、お姉様は。  かく言う俺は、所謂ビターなワームをイーティングなフェイス、即ち「苦虫を噛み潰したような顔」。  しばらくじっとりとねめつける俺と、ケラケラ笑う彼女。  どうしてくれよう。……っても、別に何もしねえけどッ!!!   「……あぁ~あ、ふぅ……。  ───で、何だったっけ?」 「……貴女様はどちら様なのでしょうか……? と」 「うふん? 秘密ゥ~~~」  ……………。 「あーん、嘘嘘! 怒らないでー」 「別に怒ってはいません」  呆れてるのです。  何だろうこの、徒労感。  もしかしたら彼女……的な? 誰かとならば、こういうやり取りも楽しめるものなのかもしれないが、生憎とどちらの人生の記憶の中にもそういう甘酸っぱい体験の記憶がない。クソ! 非モテが転生したらモテモテにならんとおかしーだろ!? 非モテが非モテに転生してどーすんだ! 「エンスヘーデ」  不意に、声の調子を変えて彼女がそう言う。 「今の私の名前……として、覚えてもらって良いわ」  何やら回りくどい言い方をする。 「それは……」 「あなたの“今”の名前は、ガンボンちゃん……でしょ?」  ドキリ、と、再び驚いて目を見開く。 「あなたの、“前の”名前は、……えーと、たな……タナカ・ノリオ?  ジュードー推薦で体育大学に進学後、友人に重傷を負わせたことをキッカケに……えー、スクールエスケイパー? 引きこもりになって……とか、そんなん?」  俺の……前世!?  彼女は……エンスヘーデは、俺の前世、「向こうの世界」での俺のことを、知っている!?  そして、ということは彼女自身も……? 「ブッブー! ハズレでーす!」 「え?」  俺の考えが読めている!? 「何考えてるか分からないけど、多分ハズレでーす!」 「テキトーかよ!?」  何故だろう、今日はすごくツッコミが早い!   「情報としては知ってるけど、“わたし”は“別の世界のあなた”のことなんか全然知らない。  “わたし”が知っているのはあくまで、“追放者(グラー・ノロッド)のオークのあなた”の、ガンボンちゃんのことだけよ」     以前に俺とは会っていると言う。  そしてそのときに指輪を俺にくれた───そう、この───『呪いの指輪』を───。   ◆ ◆ ◆      ぞわぞわした背筋を這う悪寒が、あたりにじっとりと広がって行くようだった。  その薄ら寒い感覚が、あたかもそのまま具現化したかのように辺りの風景が変わって行く。  木々は朽ち、草花は枯れ、豊穣な黒土は灰色のごつごつした岩に変わる。  乾いた寒々しい風が吹き、その冷たさに身も凍えるようだ。     『若き戦士達よ!』  野太くがらがらとしたしわがれ声が辺りに響く。 『これより、おまえ達の成人の儀へと向かう!』  居並ぶのはおよそ十数人程のオーク達。  まだ全体的にさほど背も高く無く、胴回りも腕も足も、前に立ち演説をしている者より一回り二回り程小さい。 『おまえ達が誇り高きオーク戦士として認められるか否か───』  整列する若いオークが身に着けているのは、皆一様に粗末な毛皮と武器。  武器の種類は様々で、剣もあれば棍棒もあり、斧も鎚もとあるのだが、どれもイマイチ出来が良いとは言えない。  そう、それぞれに自分の造った武器を使う、というのが、成人の儀での決まりの一つだ。 『それは今日、この一戦にかかっているのだ!』    俺の生まれ育ったオーク城塞での成人の儀。それは魔獣退治だ。  監督官として三人の年長者が付き添い、一年に一度、条件の整ったときに執り行われる。  ここで「勇敢なオーク戦士らしい戦いぶり」を見せなければ、その後の将来は決まってしまう。  最も望ましいのは、戦士だ。強く勇敢でたくましい事が求められ、戦士でなければ族長になることは絶対にない。  次は鍛冶師。優れた武器防具を生み出せる者は、例え戦士としてはイマイチでも尊敬される。というより鍛冶師の機嫌を損ねれば、良い武具を回してもらえなくなる。  その次は呪術師。呪術師は司祭も兼ねる上魔法が使えねばならないため、数も少なく特殊な職業であるが、男のオークはあまりなりたがらない。  ここまでが、上位の仕事。  これらの三つの何れかになれなかったオークが、荷運び、雑役夫、料理番、鉱夫……という下位の仕事に着く。  オーク社会には奴隷制度はない。ないが、これらの仕事に“しか”なれなかった者は蔑まれ、奴隷同然に扱われる。  特に鉱夫など、鉱山の中に寝床をあてがわれて城塞に入ることも許されず、一生をそこで暮らすことになる。    なので、成人の儀に向かう若いオークたちは、一様に緊張をしているか、或いはそれらを隠そうとして虚勢を張り勇猛さを誇示しているか、である。    整列し行進する若いオークの中、並んで話している痩せた一人とちびの一人は、前者だった。  ちびの一人、というのはもちろん俺。もう一人の痩せた一人というのは、友人のゴウラ。  二人ともそれぞれに「立派なオーク戦士としての体格」に恵まれて居ないが故、訓練でも落ちこぼれており、その内に共に二人で「体格の不利を覆す戦い方」を思案し練習する仲になっていた。   『ガンボンは良いよな』 『何?』 『戦士になれなくても、鍛冶師にはなれるかもしれない。俺は……ダメだ。ろくな武器も作れない』    そうこぼすゴウラは、確かに不細工な木の棍棒を肩に担いで居る。  それは棍棒としては大きく長い。巧く鍛冶仕事の出来ないゴウラは、金属で全てを造ることを諦め、堅い木を削り、その一部に金属を巻き付けることでなんとか破壊力を増すようにした。  対して、俺は、まだ成人してない若手が造ったにしてはそれなりの大きな金属製の鎚を担いで居る。  人間が使うには重すぎるが、オークならばさほど問題ない。      場面が変わる。  城塞から半日以上離れた巨大な洞窟の前。  ここには支配して使うには小さ過ぎるが、時折結晶化した魔晶石が採れる程度の古い魔力溜まりが残っており、そのため魔獣が住処とし易い場所だ。  事前に魔獣が適度に増えていると報告された場所が成人の儀の会場として選ばれるが、今回はここだった。  今、ここには魔狼の群れが住み着いている。  普通の狼が魔力溜まりなどで土か風か闇の属性の魔力を吸収してしまったか、或いはそういう魔狼が産んだ次世代次次世代か。  全体的としては普通の狼よりは強く、しかしオーク戦士にとっての小手調べにはちょうど良い獲物。そのはずだった。    洞窟の奥へと進む一行。  今回は数多くしとめることを求められた。  我先にと声を上げ魔狼へと向かう若手オークたち。その中でいかにも要領悪くもたもた追い掛ける俺とゴウラ。  同じ方向に行っても既に獲物は残って居ないだろうと、二人は先行した者達とは別の分岐を進む。  そして───居た。  そこにはこの洞窟の群れの主が居たのだ。  一際大きな魔狼───ではなく、宵闇の狩人ル・シンの信奉者、或いはその呪いを受けた者───人狼、が。    混沌のまつろわぬ神々の中でも、宵闇の狩人ル・シンは、たいていの他の神々との関係が険悪で、中でもオークの守護神とされる暴虐なるオルクスとは天敵同士とも言える。  ル・シンは天性のハンターで、獲物を見つけると執拗に追い掛け仕留めようとする。  狩人の中には一部縁起担ぎとしてル・シンの御守りを持つ者もいるが、真の信奉者になるとル・シンの“祝福”を得て、人狼へと変身出来るようになるとされる。  この世界の人狼は種族では無い。祝福、呪い、叉は病。巨大な人型の狼へと変身し、思うままに獲物を狩り、殺し、その血肉をむさぼり食らう者だ。  変身すると、力、体力、素早さが倍増し、鋭い爪と牙が伸び、その咆哮は意志の弱い者を怯えさせ、遠吠えは狼達を呼び寄せ支配する。    その“狩り”は、まだ成人してない若手のオークたちを蹂躙した。  半数以上は恐慌状態に陥って逃げ惑い、残りは容易く引き裂かれた。  監督官の年長者達は善戦したが、薄暗い洞窟内で縦横に動き回る人狼を完全に捉えるのは至難の業だった。   『うわァァッ!!! 止めろ、来るな!!!』  真っ黒で大きな影がゴウラを組み伏せる。  不細工で大きな棍棒を両手に持ち人狼の口にあてがうことで、なんとか喉笛を咬み千切られるのを防いで居た。  横合いから必死で鉄槌を振り回して攻撃をする俺。  それはあまりに簡単に外れ、人狼は半回転して跳んで避けると、今度は俺に向かって跳躍する。  既にかなりの傷を負っているはずの人狼から新たな獲物と定められた俺は、しかし逃げることはしなかった。勇気、ではない。単に逃げられなくなっていただけだ。  眼前に迫る巨大な裂けた口。それがスローモーションのようになって迫ってきたそのとき、俺は間抜けにも足を滑らせて、尻餅を着いた。  ゴポリ、と血の吹き出す音。  それは尻餅を着いた俺からではなく、丁度頭の上の方から聞こえてきた。  なんたる偶然。或いはそれこそが“運命”なのか。  尻餅を着いたことで、俺の手にしていた戦鎚の背のほうにあった嘴、刺突用の尖った切っ先が、勢い良く突っ込んできた人狼の喉に突き刺さっていた。  血反吐が顔にかかる。  その鮮烈な血の匂いを嗅ぎながら、しかし事切れる前の人狼が最期にこう言った。   『幸いあれ。今からお前が、我が主に仕える狩人となるのだ。祝福を送ろう───』    人狼退治で最も気をつけるべき事は、とどめを刺したその瞬間にある。  人狼は事切れるその瞬間に、『祝福』を自らを殺した『優秀な狩人』へと贈る。  そしてそれこそが正に、『人狼化の呪い』なのだ。    呪いを掛けられたその瞬間、俺は意識が真っ白になる。  血を、殺戮を、狩りの獲物を求める声が頭の中を支配し、そして───。      ル・シンはオークの守護神、暴虐なるオルクスの敵である。  そしてその祝福を受けた者を殺せば、殺した者がそれを受け継いでしまう可能性がある。  だから、“俺”は追放された。  弱かったのでも、罪を犯したのでもない。  ただ存在そのものが許されなくなったのだ。     「お前は追放された後に各地をさまよい、『呪い』を解く───叉は抑える術を探した」   「そして、ル・シンが他の神々と険悪だということから、その中でもオルクスの次にル・シンと敵対すると言われる、我等を頼った」   「ある者は我を闇に秘するヒドゥアと呼び、暗闇の守護者として信奉する」   「またある者は復讐の為、我が獄炎を求めエンファーラの名に誓いを立てる」   「あらゆる全ての運命の糸を手繰り寄せて導くために、我を蜘蛛の女王ウィドナとして崇拝する」    暗転。何も見えないこの漆黒の闇の中、囁きが周囲をぐるぐると回る。   「あなたは、彼女たちのこの世界での代理人であるわたしからもう一つの“呪い”をかけてもらう為の指輪を受け取ったの。  呪いには呪いを。  ル・シンの人狼化の呪いが発動し始めると、指輪に込められた彼女たちの呪いがそれを邪魔する。  それによって、よほどのことが無い限り、あなたは人狼化することは無くなった」    彼女───エンスヘーデがそう言う。   「でも───」  一旦言葉を止めて、それからまた続けるには、 「今回あなたが、人狼化して尚、理性的な意識を保って居られたのは、多分指輪だけの力じゃないわね」  そう、それは一体何故なのか? 「魂の力が二倍───つまり、別世界のもう一人のあなたの魂と融合したから───なんじゃないかな、うん」  何だか断言してはくれない。 「あ……! じゃあ、やっぱ、その、別世界の俺……の、魂を呼び寄せたのは、その……あなた……の、神さ───」     すうぅっ、と意識が剥がされて、俺はその闇の中から浮かび上がって行き───目が、覚める。  見知らぬ───いや、見知った、巨木の根を利用して作られた天井が目に入った。  
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ハラハラ
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