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1-31.野営地跡での戦い(1)「───今日は、死ぬには良い日だ」

 痛みというより熱。  それを感じてから暫くして、じんわりと鈍く痛みが広がる。  背中から脇にかけて。  革鎧を金属で部分的に補強した俺の鎧の、丁度弱い部分を刃が切り裂いていた。しかし、浅い。俺のこの傷は、決して致命傷じゃない。問題は……。   「レイ……フ」  ユリウスさんの腕が百足のような外骨格の形状に変化し、その先端の牙が輿の上のレイフへ向かうのと、その間に俺が割り込むのとはほぼ同時だったか。  痛みに思わず瞑った目を開いくと、正に俺の肥満体の下から声がする。   「……重い……よ、ガン……ボン」  おわ、と慌てて身体を起こそうと地面に着いた手に力を入れると……ぬらり滑る。  手を見る。地面を見る。そして……血溜まりとその中の痩せた身体を見る。  俺の身体の下にあるレイフの身体は、下半身が鮮血に染まり、右脚は膝から下がほぼ両断され、左足首は既についていなかった。  思考が白熱する。  どちらからもどくどくと血が流れ出し、むせかえるほどの鉄臭さが鼻につく。  俺の身体を盾にはしたものの、僅かばかり攻撃の軌道を逸らしただけだったようだ。   「丸コロ!  ウチのを頼むぞ!」  鋭いその声に俺は意識を引き戻される。  声の主はと見上げると、先程までローブ姿でフードを目深に被り、レイフの乗った輿を担いでいた一人に紛れて居たであろう人物───ケルアディード郷の氏族長であり、レイフの母でもあるナナイの姿。  輿は既に半壊し投げ捨てられ、辺りのダークエルフ達はレイフを中心に囲むように円陣。  俺とセロンを縛りつないでいた縄、拘束していた縄も既に切られており、周りを囲むダークエルフの一人エヴリンドがセロンへと短刀を投げ渡していた。   「血……血を、止め……」  止めなければ……。  しかし俺が使える回復魔法は【自己回復(セルフヒール)】のみ。これは自分自身を僅かに回復させられるだけで、他者の治療には使えない。 「声を」  俺のすぐ横で、囁くように誰かが言う。  見るとやはりローブの一人、頭髪を刈り上げたダークエルフ、外交官補佐として共に使節団に居たデュアンだった。 「声をかけ続けて下さい。治療は私が」  デュアンはそう言うと、その両手を傷口へと翳して魔力を注ぎ込む。 【大地の癒やし(アースヒール)】と呼ばれるその呪文は、大地の魔力を吸い上げて対象の回復力を強化する。  対象者が地面に接地していないと効果がないが、中級程度の回復魔法としては効果の程が高い。  その反対側にもう一人別の術士が付き、まずはレイフの太腿を手にした帯できつく縛ると、次に腰のポーチから取り出した小瓶の薬を切断面へと振り掛けた。    周囲は既に乱戦の様相を示し初めている。  ユリウスさんに付き従っていた銀ピカさんと二人のホブゴブリンも武器を手に戦闘態勢。  おそらくは事前に配置していたであろうゴブリン達の伏兵が、左右から気勢を上げ野営地跡へなだれ込み、また前方奥に居たであろうダークエルフ達も前進してくる。  俺達の周囲は即座に魔法で作られた石の壁があるが、あくまで一時凌ぎ。いずれは取り囲まれる。 「左右伏兵、一斉射撃!」  魔術具を使わずとも響く大音声は、目の前でユリウスさんと対峙しているナナイから。  その声に応じ、前方の森の奥から矢が放たれ、左右から攻めあがる伏兵のゴブリン達に降り注ぐ。 「小賢しいぜ、猿知恵王!」  叫ぶナナイは、既にローブを完全に脱ぎ去って、いつもの軽鎧姿で両手に短刀。そして全身を炎が渦巻き覆っていた。  その火炎の渦はナナイ自身を傷つけることなく、周囲にだけその熱量をもって被害を与えているようだ。 「てめェにゃ! ウチのが! 随分と! 世話に! なッ……たなッ!!」  手にした短刀を巧みに操り、変化したユリウスの外骨格の右腕を弾いている。 「借りは……倍返しで返す!」   「ユリウス様!」  白銀の鎧を煌めかせながら、銀ピカさんが駆け寄ろうとするが、ナナイの周りの炎に遮られ手出しが出来ない。 「お前には……過ぎた鎧だ!」  その横合いから山刀の連撃を繰り出すのはエヴリンド。 「ナナイ様自ら仕上げたミスリル鎧に貴様の下卑た匂いがつく!」  相変わらず言い様が手酷い。    ローブのダークエルフ達八人は、二人はナナイとエヴリンドで、残り六人の内デュアンを含めた四人が術士の様だ。  残り二人も戦士らしく武装して居るが、彼らの役割はレイフの護衛のようで二人の戦いには加わらない。  術士達は、二人がレイフの治療、一人が防御の呪文、そして残り一人がホブゴブリンへの攻撃と牽制を担当している。  そして俺はというと……。   「レイフ! しっかりしろ! 傷は……その、浅い……とは言えないかもだけど……今、デュアン達が治療してる……!」  話し掛け、励ましている。 「ガンボン……君は、ほ…んとう……に、嘘が下手だな……」  傷は……とてつもなく深い。というか、脚そのものがほぼ無くなっているのだから深い浅いどころの話じゃない。  呼吸が荒く、浅く乱れている。ダークエルフ特有の青黒い肌の色から、顔色の良し悪しは読み取れない。読み取れないが、脂汗を垂らし苦しげに歪むその表情だけでも、決して状態が良くないのは明らかだ。   「わ、る……悪い……」  悪い? 何を謝ることがあるのか?  レイフは……レイフは危険も省みず、俺を助けるためにここに来て、そして今文字通りにその命を失うかもしれないというのに!  引き換え俺は……俺こそが、本当に何も、何一つ出来ていないじゃないか! 「お前は……悪くない……! 何も悪いことなんかない……!」    手を握りながらそういう俺に、レイフはやや口の端を上げて笑みを浮かべると、 「……ふ、ふふ……。違う……よ。  悪い……癖が出た……んだ。  本当は……もっと巧く……あいつを誘導して……戦いを回避したかっ……た、け、ど……」  咽せる。 「なんか、ほら、あい……つ、ちょっと……ムカつ……く、じゃん……?  つい……言い負かしたく……なっちゃって、さ。  ネット……で、炎上……する、パター……ン」  言って、また再び乾いた笑みを浮かべる。    デュアン達術士は、恐らく全力で治癒魔法を使って居る。だがこの世界の回復魔法は、ゲームの様に万能でも簡単でもない。  切れた手足がみるみる生え治す……なんて魔法が、そうそう手軽に使えるような世界ではないのだ。 「僕……が」 「何? 何だ?」 「ここ……で、死ん……だ、とき……」 「言うな、よ! 死なない、絶対、絶対に、死なないから……!」  俺の無闇にでかい手が、レイフの華奢で小さな細い手を、握りつぶしかねないほどに握りながらそう言う。 「……や、ここで、また……誰か別の奴……転生して……来、たら……何気に、ウケるよ、な……」 「何……言ってンだ、バカヤロウ」    握るその手から、どんどん熱が奪われていくのが分かる。  その体温一度ごとに、まるでレイフの命そのものが失われていくかのように思え、俺はぶるりと首を振った。    不意に、地面が揺れた。  周辺のいくつかが陥没し、そこから以前見たのと良く似た動く骸骨達が、手に盾と剣を持ち現れてきた。 「また死霊術士かッ……!!」  焦りを含み叫ぶデュアン。俺と共に使節団に居たときに、同じように死霊術による骸骨戦士に襲われた事を思い出すのだろう。  そして今回はというと、その数の多さもそうだが、骸骨戦士の纏う雰囲気というか、禍々しさというか、そういうものが以前より各段に強い。   「これが狙いで、この場所かッ……!」  デュアンのその言葉は、闇の主討伐軍が多くの被害を受けたこの野営地跡をユリウスさんが人質解放の交渉場所に指定してきた理由を恐らく言い当てている。  死霊術は属性としては闇属性になる。闇の森の中ではその威力を増すが、ここ最近に多くの死があり、さらには闇の主による闇属性魔法での大規模な破壊があったこの場所では、召喚される不死者の力は数倍にも増すハズだ。    エヴリンドは銀ピカさんの相手で手一杯だ。  セロンは術士達との連携で一人のホブゴブリンを打ち倒すも、もう一人に手こずって居る。  残る護衛二人は、治療中の術士とレイフの側から離れられない。  ただ一人渦巻く竜巻のような炎を身に纏ったナナイだけは、縦横無尽の動きでもって、ユリウスさんの攻撃をいなしかわし斬撃を打ち込みつつ、その炎の渦で骸骨戦士までも攻撃しているが、しかし如何せん数が多い。  俺しか、居ない。  今ここで、骸骨戦士の相手を出来るのは、俺しか居ない。  鎧は着ているし兜も被って居るが、今手元には武器がない。  徒手空拳、素手ででも戦うしかないかと覚悟しつつ周りを見ると、セロンに倒されたホブゴブリンが持っていた手斧が目に入る。    これだ。これを使えば……と、レイフの手を離し手斧を取ろうと体の向きを変えようとすると、放しかけた俺の手を、レイフが逆に強く握り返して来て、俺はドキリとする。  僅かに、ほんの僅かにだが、この時のレイフの目に、不安と寂しさのような色が浮かんだように思えた。  まるで、この手を離したら最期、二度と握ることが出来なくなってしまうのではないかと言うような……。  その嫌な感覚を、俺はぶるりと首を振って振り払う。  そんなことはない。いや、そんなことにはさせない。  絶対に、二度と……そんなことにはさせやしない。    俺は再び、レイフの手を強く握り返してから、心残りを振り切るようにして手を離す。  離すとほぼ同時に、再び地面が揺れ、今度は周囲いくつかの地面が隆起した。   ◆ ◆ ◆    盛り上がった地面は、そのまま出来損ないの雪だるまのような泥人形のような姿をとり、その長く大きな腕を振るって骸骨戦士達へと襲い掛かった。  動きはやや緩慢で遅い。しかし体格はまちまちながら、殆どは見上げるほどに大きく、また骸骨戦士の剣による斬撃がまるで効いていないかのようだった。  と、同じくしてレイフを中心とした半径三メートルくらいの空間を、再び石の壁が囲い込み、守りを固める。  その石壁の出来具合は、パッと見で分かるほどに先ほどの間に合わせのそれより精巧で、強度もしっかりとしているように思えた。  ふと気配を感じて上空を見ると、そこに浮かぶのは白骨のような顔をした闇の馬と、そこに跨がるケルアディード郷の呪術師、ガヤン。  そしてその小さな彼女の後ろには、同じくらいに小さな姿。乗っていたのは最初の日に俺を看てくれた、ケルアディード郷の老治療士だった。  老治療士はひょいっと闇の馬から飛び降りると、デュアンの横に座り、「術式の組み上げがまだ甘い。お主は補助に回れ」等と宣うと、レイフへの治癒魔法を開始する。  交代しただけの効果はあったのか、レイフの呼吸は先程よりもやや穏やかになり、また出血量も減って来たようだった。    闇の馬に跨がるガヤンは、そのまま手にした不釣り合いに大きな曲がりくねった杖をオーケストラの指揮者の様に振るい、周囲の地面から石壁や泥人形を造り出す。  石壁は敵方の移動、動きを巧く阻害する様に配置され、数では劣る泥人形が各個に骸骨戦士を粉砕して行った。    矢の雨をくぐり抜けた左右からのゴブリンの伏兵は、それぞれに中央の此方側と、前方のダークエルフの援軍へと別れ展開する。  ダークエルフ援軍はやはり数においてゴブリン達の伏兵に負けていた。  そして何よりもその前方へ向かったゴブリン伏兵達の中、左右それぞれにヤンゴブさんと雄牛兜の姿があった。  共にユリウスさんの腹心の二人。ヤンゴブさんとは戦ったことはないが、素手での試合とは言え雄牛兜の強靱さ、馬力は、完全にゴブリンとしては規格外のものだ。  平地において肉弾戦となった場合、ダークエルフ達では明らかに不利だ。    伏兵ゴブリン達は、ダークエルフ援軍に向けて投石器での一斉射撃を行う。  先程の弓での射撃への返礼か。しかしこの距離での投石器の威力は、決して馬鹿に出来ない。  子どもの拳ほどの硬い石が、下手をすると大リーガーの豪速球並みの速度で大量に撃ち込まれるのだ。特に雄牛兜の放つそれなど、大砲の砲弾を撃ち込まれたかの威力だろう。  盾持ちの重装備ならばまだしも、基本は革鎧の軽装ばかりのダークエルフ援軍には、これはかなりの痛手となる。  射撃を受けたダークエルフ達は、幾つかは瞬時に【石壁(ストーンウォール)】の魔法でそれを防ぎ、また【魔法の盾(マジックシールド)】を展開してその威力を減じさせたりもした。  それでも防ぎ切れなかった攻撃を受け、彼等の進軍の勢いはかなり遅くなる。    ダークエルフ援軍は何よりも早くにこの中央部へとたどり着こうとしている。  しかしそれを左右からのゴブリン伏兵が挟撃する形で妨害し、またその一部は骸骨戦士の外側から、この中央部のレイフ達を取り囲みに掛かっている。    初めて見るナナイの本格的な戦闘能力は、確かに群を抜いて桁外れに強い。  弓使いと言うことなのだが、二刀流での剣捌きも見事なもので、魔法と併用して骸骨戦士を次々打ち倒す。  しかしそのナナイを釘付けにしてしまえるのが、様々な生き物の能力を持ち、傷も瞬時に回復させる治癒能力もある、文字通りに変幻自在のユリウスさんだ。    現時点でパッと見でも五十体は居ると思われる骸骨戦士は、泥人形に何度も粉砕されているものの、後から後から現れている。  集団戦、三桁を越える兵力のぶつかり合いは、一人の豪勇の図抜けた武技では容易く覆らない。  突出した英雄豪傑の居る一軍よりも、統率された平均的な能力の兵士達の一軍の方が、集団戦では強いのだ。  その点で言えば、実はユリウスさんのゴブリン伏兵に分がある。  ダークエルフ達の訓練は、基本として森の中のゲリラ戦を想定していた。  あくまで闇の森に攻めよる敵を迎撃する為のものだ。  こうやって開けた場所での集団戦は得意ではなく、じき援軍同士での乱戦になれば、森からの弓矢の援護は使えない。  逆にゴブリン軍は対帝国兵を想定した集団戦の練兵を繰り返して行っていた。この様な戦いへの練度が違っている。    ダークエルフ援軍が辿り着けば、少なくとも俺達には助かる見込みがある。  辿り着くのが遅れれば遅れるだけ、俺も、レイフも、セロンやデュアン、エヴリンド等全員の、生き延びる確率は減る。  レイフの呼吸は確かに幾分落ち着きだしては居る。老治療士の治癒術は確実に効果を発揮しているようだったが、しかしそれとて……このままここに残り続けていれば、無駄になる。    不意にそのとき、【石飛礫(ストーンバレット)】の魔法が上空に向けて放たれた。  骸骨戦士の湧き出した穴の中から、それを召喚し操っているであろう死霊術士の黒髪ロングさんが現れ、ガヤンに向けて攻撃を仕掛け始める。  ガヤンの泥人形が悉く骸骨戦士の攻撃を退けるのに業を煮やし、隠れているのを止めて直接術士を叩くつもりのようだ。  【魔法の盾(マジックシールド)】を展開してその攻撃に対処するガヤンだが、しかし矢継ぎ早の攻撃への対処に集中する分、泥人形の制御と石壁の展開が不安定になりだした。     その隙を突き、泥人形の防衛戦をくぐり抜けた骸骨戦士達が、石壁の囲いを壊して俺とレイフの元へと辿り着く。  術士が【火炎弾(フレイムボルト)】を飛ばし、また側に居た護衛達も【魔法の盾(マジックシールド)】を展開しつつ山刀で迎撃。  しかし数に勝る骸骨戦士に次第に押され、護衛の一人は肩に剣を受け深手を負う。  その向こう、遂にゴブリン伏兵の一部が、矢の雨をくぐり抜けて中央へと雪崩れ込む。  目算でも左右合わせて四~五十人は居るだろうか。かなり減らされてはいるものの、到底ここの人数で防ぎきれる数じゃない。  そして右の伏兵を率いるホブゴブリンには見覚えがある。  以前、「試合」で捕虜だったセロンを打ち破った奴だ。    深手を負った護衛の間、その隙を突いて、骸骨戦士の一体が剣を振り下ろす。  その剣を下から払いのけて、そのまま一閃。山刀の重い一撃で無力化したセロンが、一歩下がって俺の側に並ぶ。   「ガンボン!」  鋭く、しかしいつもの明るい声で、セロンが俺に呼びかける。 「俺はお前に救われた!」  試合に負けたセロンが処刑されるのを免じてもらう為に、俺が雄牛兜と泥仕合を演じたのは7日程前になるだろうか。 「戦うべきときに、返すべき恩義に報いるため、倒すべき敵を倒せるのならば───」  日に透かされる、オレンジに近い明るい赤毛の長髪は、手入れもされずにボサボサだが、晴天の空に美しくコントラストを描き出す。 「───今日は、死ぬには良い日だ」  悲壮な決意……等微塵も感じさせぬ、まるでこれから一緒に遊びに行こうと誘うかのような笑顔で、そう言った。  走り出す。向かう先は伏兵の一団。かつてセロンを試合で破ったホブゴブリンの方へ。 「目を見張れ! ケルアディードの山刀は、貴様らゴブリンのなまくらより鋭く強靭だぞ!」  左手に【魔法の盾(マジックシールド)】を展開させつつ、縦横に刀を振るい骸骨戦士を退ける。   「クソデブ!」  逆方向からの罵声、いや、呼び掛けは、銀ピカさんと骸骨戦士を相手に善戦を続けているエヴリンドだ。 「以前死にかけ、脚がマトモに動かなくなってから、レイフは変わった」  それは、一つには別世界で死んだ人間の魂が転生し、もう一つの前世の記憶を持つようになったから、でもあるだろう。 「塞ぎ込み、周りを退け閉じこもっていたレイフが───あれほど楽しそうに笑い、話し込んで居たのを見るのは、久し振りのことだ!」  オタク話や馬鹿話やらと、確かにケルアディード郷に居る間は、毎日のように話し込んで居た。 「お前は、レイフの良き友だ。  ───その場所を、お前に任せる!」  エヴリンドの対峙する銀ピカさんの向こうから、別の伏兵が迫って来る。    上空、ガヤンは黒髪ロングさんとの戦いで手一杯。  奥、ユリウスさんとナナイは、渦巻く炎と闇の渦の中、誰にも見定められぬ激戦を繰り広げている。  森からの援軍は、雄牛兜とヤンゴブさんの率いる一団に足止めを食らい、左右両極からの援軍に向かうのはエヴリンドとセロンのみ───。    老治療士とデュアン他の術士たちも防御とレイフの治療で身動きはとれない。  この場で動ける戦力は、護衛一人と───俺一人。    今日は、死ぬには良い日だ───。    ───いや。    もう、誰も死なせない。    そう決意したそのときに、左手の指に填められていた、曰わく『呪いの指輪』が、熱く発熱し始めた。  意識が。意識が白熱し、自分の腹の───いや、魂に絡みついた黒く禍々しい何かが、大きく膨らんで来て───この戦場全てに轟き響きわたる咆哮を上げた。  
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