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1-17.「前言撤回、この森超ヤベエ」

 ほっへー、なんて多分馬鹿面下げて感心している。  何かと問われればこれ、ダークエルフの隠れ路とかいう街道だ。  今歩いている所は、右手側は壁面がややえぐり込まれた、上に向かってオーバーハング状になっている低めの崖で、左手側は郷にあった家々と同じように、おそらくは魔法で変形させられた樹木の壁。それが上に向かい緩く湾曲しまた枝葉を伸ばしているので、まさにここは樹木のトンネルのような状態。  高さと幅は目算で3~4メートルくらいの円状で、隠れ路というだけあってあまり広くはないが、だいたい横二列に並びつつ、リヤカーくらいの荷車を運ぶにはまあまあちょうど良い。  なんちゅうか、幻想的でありつつも、ちょっと郷愁を誘うような光景。  すごく小さな子供の頃、雑木林の中で大きな毛むくじゃらのお友達に出会った路のようだ。  ……いや、会ってないけどな! 多分!    そんなところをテクテクテクテク、地道に歩いて居るのは俺を含めたケルアディード郷から秋の大収穫祭のためにモンティラーダ郷へと向かうご一行様。  秋の大収穫祭などと言うが、何だろね。聞いた感じ、大物産展、みたいなもののよーな気がする。  いかにもガハハで粗雑でざっくばらんでいい加減な脳筋マッチョウーマン……に思えるナナイさんですが、アレで実は付術と呼ばれる、「物品に魔法効果を与え、魔法の道具を製作する」ことに関して、メチャメチャ凄いらしい。  ハイレベルのエンジニア、みたいなものかしらん?  具体的にどんなものかは想像しかできないし、レイフにも幾らか説明を受けたけども、正直さっぱり分からんかった。  何にせよそーゆー高品質な魔法の道具がケルアディード郷の特産品で、主にそれらを今、運んでいるのだ。  それと、俺のタカギのブーちゃんもね!    そんなわけで俺は、駕籠に入れられ荷車に載せられたら仔地豚のタカギ(命名、俺)のそばを離れず歩いている。  気分は娘を嫁に出す親のよう。  て、そんな経験ねぇけど! 多分ね! しかもタカギは雄だしな!  モンティラーダ郷へ行き、無事に立派な種馬ならぬ種豚にならんことを祈る門出の旅である。  レイフは道中に危険があるかもしれないと危惧していたが、朝方に出発して数時間だろうか、木々枝々の隙間から射し込む日差しが天の中程へと差し掛かる今のところ、まーったく問題なく順調である。  同行している護衛官達、そのリーダーのアランディ隊長達も、隠れ路を行く以上そんなに気にかける必要も無い、と言っていた。    なので、俺としてはちょっとしたピクニック気分。文字通りにピクニックフェイスのピクニックデブ。ウォーキング・デブ。新シーズンも配信開始である。  闇の森、と言われても、今まで郷の外には夜しか行ってない。いや、死ぬ前のオーク戦士ガンボンとしては昼も来ていたのだろうけど、転生後の俺は、最初に目覚めた夜と、ガヤンさんに連れられて行った夜の二回だけ。  なのでその時は、それぞれに不気味さや怖さの方が強く感じられていたが、今は違う。  その名称に反して、というか、昼の木漏れ日の中行く闇の森は、不気味というよりは静寂と清らかさと神秘性を感じさせる。  そんなことを思いつつ、歩きながら木々の隙間から森を眺めていると、ねじ曲がった枯れ木のような巨木が、その枝を振るって近くに居た鹿を突き殺す場面を目撃。前言撤回、この森超ヤベエ。   「呪われた森の老人(カースドトレント)は、枝の届く範囲にさえ立ち入らなければ問題無いよ」  そう俺に教えてくれたのは、外交官として随行している一人、デュアン。綺麗に剃られた坊主頭がなんとも眩しい。  ダークエルフ達の中でも一際肌の色が青黒い彼は、闇の魔力を強く持っているらしい。  なので、ガヤン等と同様に呪術師として、またナナイも行う付術師としても腕を発揮する一方で、行動派で外交的な性格気質もあって、集会の際にはほぼ必ず使節団に加わるのだとか。 「【火炎】系の魔法で牽制しながら、一本ずつ丁寧に枝を切り落としていけば無力化出来るしな」  付け加えるのは護衛官でありレンジャー見習いのセロン。肌の色はデュアンに比べて濃くはないが、顔立ちも体型も精悍でスマート。革鎧と手斧に弓で武装している。オレンジに近い長い赤毛を襟足で縛っていて、物腰と合わせるとちょっとチャラい印象。  そのセロンに対してデュアンは少しからかうような口調で、 「ほほーう? で、その戦術でいつどれだけの森の老人を切り倒したのかな?」  返すセロンは、 「俺自身はまだだけど、アランディ隊長の教えだ。いずれはレンジャーになるんだから、活躍の機会なんていくらでもあるさ」  と、軽く返す。    セロンの方は、アランディ'sブートキャンプでも一緒だったからそこそこ面識がある。  チャラそうな雰囲気に反して訓練には真剣で、格闘訓練では俺の柔道技にもかなり興味を示していた。  デュアンは今回が初見ながら、マノンの助手として動き回っていたらしく、俺のことも幾らか耳にしていたとかで、かなり友好的な対応だ。  というかほぼ横について、色々と聞いてきたり話しかけたりしてくる。    二人ともダークエルフ社会ではまだ若輩、それぞれ70歳代に90歳代なのだとか。  何だろう。200歳とか300歳とか言われると、ああ、異世界の異人種なんだなー、と素直に思えるけれど、レイフの40代、ガヤンさんの50代、みたいに、リアルに人間でも居るような年齢で、社会的にも外見的にも10代から20代そこそこなのだとなると、不思議な気分になる。  ま、かく言う俺ことオーク戦士ガンボンさんも、恐らくは40から50歳代は越えているだろうというので、そうそう人のことも言えないのだが。が!   ◆◆◆    昼前には野営地に到着した。  ちょっとした広場のように整備されたそこは、やはり土魔法等々で作られた休息用の小屋だとか水場、そして中央にはたき火用の石組みとあり、なかなかに快適そうだった。  ここで食事や用便など諸々を済ませたら、再び出発して、夕刻頃にはモンティラーダ郷に到着の予定だとか。  アレだ。「向こうの世界」の記憶で言うところの……アレ。ドライブスルー……じゃない、サービスエリア! そう、サービスエリアっぽい。  ま、基本的にこのダークエルフの隠れ路は、闇の森ダークエルフかその関係者しか使わないということなので、こういう野営地の管理なんかもダークエルフレンジャーの管轄らしい。  狩りや探索などで路をはずれての活動中にトラブルに見舞われた場合の避難所としても機能するよう作られているとかで、色々な備蓄や守りの為の設備もあるのだとか。    火を起こすと、セロンがやかんで湯を沸かし出す。  食事は携帯食で済ませるが、お茶は温かいものを飲むのだとか。  ドライフルーツやビスケット、というダークエルフの保存食を順番に食べる彼らを後目に、俺は俺で用意したお弁当を背嚢から取り出す。    (テケテテーン)焼き味噌おにぎり~!    そう、やはりお弁当と言えばおにぎり!  ぼ、ぼ、僕は、お、お、おにぎりが、す、す、好きなんだな。    まあ勿論所謂焼き海苔はない。  しかしレイフの父だというヤハル人さんの残した、和食に近い食材調味料に、ほぼ味噌と同様のものがあった。  そしてうるち米は無いものの、そこそこ似たような雑穀もある。  しかし粘りけの少ない雑穀だけでは、おにぎりにしようにもボソボソとしてうまく纏まらない。  で、試行錯誤とKUFUの末に俺とレイフは、粘りのある山芋の粉を混ぜることにした。  要は、ハンバーグを作るときのつなぎ、みたいなものとして、だ。  なんとか、なんとか、というレベルで、おにぎりに近い形が作られる。  そしてそれに、ヤハル人パパの味噌をこれでもか! と塗りたくり、焼き網で両面を香ばしく焼いたのが……これだ。    まあ、おにぎりというよりは半ば雑穀味噌煎餅、みたいな風味ではある。  しかしキニシナーイ。  こういうのは気分の問題。  俺はもう、「ちょっとコレじゃない感」に対しては開き直っている。  良いじゃないか、おにぎりモドキで。  雁が喰えないからがんもどきを作るのだ。  どうあれそれっぽいものが出来上がり、最終的に美味しく喰えればよかろうなのだーーー!! ノー! オニギリポリス!    一つ、取り出した味噌焼おにぎりモドキをちぎって、駕籠の中の地豚、タカギに食わせてやる。  うむうむ、美味そうに食ってるではないか。善哉、善哉。  そして俺も、大口を開けてかぶりつく。  ……うむ! これはこれで、良し!  ていうか焼いた味噌の香ばしささえあれば、だいたいオールオッケーだよねー。    ひとつをペロリんこと平らげて、もう一つに手を伸ばすとセロン、マノン等と目が合う。  ……あれ、何ですかその顔。  何か凄く嫌そーーーな顔、しておられますけど? 「それ、さーー……」  俺が手にした味噌焼おにぎりモドキに視線をやりながら、マノンさんが問いかけてくる。 「まさかと思うけど、それ、その……」  ハイ、何ですかあ? 何がご不満ですかァ? 「う……う……こ、じゃないよね……?」  子供かッ!? その発想、子供か!?    しかしこれが、子供じみた冷やかしの下ネタとかではなく、周りのダークエルフ達の殆どにはナチュラルにそう見えていたらしい、というのが非常に不満である。  ヤハル人パパの齎した食文化、あんまり浸透してません! 残念!   ◆◆◆    ちょうど味噌焼おにぎりモドキを二個食べ終わり、もう一つに手を伸ばしたときだ。  急に地面が揺れ出し、手にしたそれを取り落とす。  わ、勿体ない! 3秒ルール、3秒ルール! すぐに拾えば全然セーフ!  急いで追い掛けてみると、さらに揺れる。   おお、地震か? と周りを見回すと、ダークエルフ達もなかなかのビビり顔。  まあこのくらいの揺れならたいしたことも無いわいな、と、むしろ落ち着きフェイスでドヤってやろうと平静を装うも、次に来たのは地割れだった。  いやん、嘘ーん!? こんな程度で地割れって、この野営地の地盤緩すぎません? ていうかダークエルフ印の魔法建築でもあるんでしょ? 欠陥よ、欠陥建築! アネシ案件よ!?  地割れが起きると同時に、アランディ隊長が「最大警戒だ! 備えろ!」と叫ぶ。  とは言え何に備えろというのか。机の下に隠れる? いや机とかねえし、ここ。  ようやく焦り出した俺の足元が陥没したかと思うと、野営地のあちこちで悲鳴や驚きの声。  そして野営地の地面に大きく開いた穴の中から、盾と武器を手にした白骨死体が現れて、俺の脳内はパニックになる。   「死霊術か!?」  デュアンが叫んだ。  聞くだにいやな響き。白骨死体が武器持って襲ってきてるのが、ある種の闇の森特有の自然発生的現象なのか人為的な何かなのか俺には判断出来ないが、デュアンの言う死霊術ってのは多分後者だろう。  するってーとアレじゃね? 実はこの後に、もっとすげー死霊とかが控えているって展開じゃね? ノーライフキング的な奴が!?  ヤバいじゃん! 超ヤバいじゃん!  さっきまでのピクニック気分はどこへやら。  尻餅つきつつどこか隠れられる場所はないかと右往左往し、一台の荷車の影にバタバタと滑り込む。   「半円陣!」  アランディ隊長の指示が聞こえる。  半円陣? 円陣?  アランディ'sブートキャンプで陣形の話をしていた記憶がうっすらある。  真ん中に守るべき対象か術師を置き、盾となり剣となる戦士が円を組んで囲む。対多数の時の守りの陣形だったはず。  そんで、半……てのは、と見ると、野営地の崖側の壁を背にしての円陣を組みだしている。背水の陣ならぬ、背崖の陣。  やべ、出遅れる、と慌てる俺。急いでその円陣の中に入らないと、一人取り残されて動く白骨死体達に切り刻まれちゃう。  這い蹲りつつ両手足を闇雲に動かすが、前に進まないどころか立ち上がれもしない。  訓練ではなく、マジな襲撃。しかも相手は見るだに不気味な白骨死体。この白骨死体、よく見ると所々に赤茶けた色味がこびりついてる。  よく見なきゃ良かった。これきっと多分比較的新鮮なご遺体だわ。白骨化して間もない方だわ。    鼻息荒く、かつ浅くなる俺。  とにかく進まないし、身体がマトモに動かない。  意志が四肢に伝わらない。右手と右足が一緒に前に出ちゃう感じ。  それだけならばまだしも、ゆるんだ地盤がどんどん崩れていく。  足元覚束ない、身体も覚束ない。加えりゃ意識も覚束ない。  隠れていた荷車にすがりつくようにしてなんとか倒れないよう保っている。  白骨死体達は盾と剣を振るい、ダークエルフの使節団を追いつめていく。  そのうち一体が、逃げ遅れた俺に気付いたのかこちらへと来る。  振りかざされる長剣。それを見上げるような位置でへたり込んでいる俺。  ヤバい。超ヤバい。瞬間、頭に浮かぶのは先程見た、枯れ木のような化け物の枝で突き殺される鹿の姿。いや俺豚だけど、もはや俺はそういう獲物でしかない。  思わず目を瞑る。  瞑るが、予想してた衝撃は身体に届かず、響いたのは木製の何かが壊れる軽めの破壊音と悲鳴。  そう、悲鳴だ。  ピギーー! という独特のかつ高い悲鳴は、誰あろうそう、俺のタカギのブーだ!    荷台の上の駕籠が長剣の一撃でぶち壊され、飛び出した子地豚のタカギ。  拙い。これではタカギは、モンティラーダ郷でまったり種豚ライフを送る前に精肉にされてしまう。  タカギはお尻に怪我を負っている。悲鳴を上げつつ走り回るが勢いがない。これじゃ捕まってしまう。  俺は反射的に飛び出し、まるでラグビーボールを奪い取るラガーマンのようにタカギをキャッチして抱えるが、その瞬間に全身を激しい痛みと衝撃が襲ってきた。  何だ!? と見回す余裕も無いが、目の前にいたらしきマノンさんが驚いたように目を見開いていて、誰かが【石飛礫(ストーンバレット)】だ、とか言っていた。  身体を丸め地面に転がる。腹のところでタカギを庇うが、その 【石飛礫(ストーンバレット)】 は何故か俺のことを集中攻撃しているっぽい。痛い痛い痛い!  痛い痛い痛い……とは思うが、俺の肉々しい肉が防御力を増しているのか、痛い以上のダメージは今の所負っていない気がする。頭部はナナイ大先生謹製の鋼鉄兜で守られてるし、手足は抱え込んで丸まっている。  あとは、この白骨死体軍団をアランディ隊長達がやっつけてくれれば……と祈るも、その祈りの声は誰にも届かなかった。  轟音とともに 【石飛礫(ストーンバレット)】 以上の衝撃が襲って来る。大量の土砂が覆い被さって来たらしい。  俺はその土砂の勢いに押され、再び陥没し傾斜した地面を転がる。転がり、穴の奥へと落ちて行ったかのような浮遊感を感じていたが、そのまま意識までもが暗闇へと落とされる。  暗い、穴の奥底へと、身体も意識も落ちて行く。  暗い、真っ暗な、闇の奥へと。
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