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第135話

 1人になりたくなり、城に到着するとそのまま竹林に向かった。洗われた気分になるのだった。乾燥した外の空気とは違う、わずかに湿気が喉や唇、気分を潤していく。形式だけだというのに役目を果たしている不思議な石を求め、枯葉を踏み締めていくと、人気(ひとけ)があった。珊瑚であるはずはない。山吹だろうか。ここへ積極的に訪れるとしたらその兄弟しか浮かばない。引き返そうとしたが耳に届いた声はよく知っているものだった。縹だ。足を止めてしまう。誰かと話し合っているようだった。しかしその相手の声は聞こえない。聞き役に徹しているのかも知れない。焼けなくてすまない。縹はぽつりとそう言った。話し相手の反応はやはりなかった。少し近付く。縹の後姿は確認できたが、他に人影は見えない。でもきっと、ボクも焼かれないから。声量は呟きに近かった。妙な会話に囚われる。焼く、焼かないとは何の話だ。空に溶けていく煙が、秋雲を歪ませる熱風が、脳裏を過る。焼けずすまない。静寂に染み入っていく声音はひどく落胆を示していた。焼けないとは何のことだ。何の話をしているのだろう。鳥肌に両腕を抱いた。死ぬのは、怖くないのだけれどね。先程目にした煙が喉を焼いていくようだった。足音が近付き、慌てて身を隠す。竹林の中ではよく目立つ病人の衣が緑を横切っていく。消えるまで目で追っていた。竹に喰われてしまいそうだった。誰と話していたのだろう。自滅的な興味だった。不安を確かめたくもあった。反対に、知ってしまったらつらくなるという確信もあった。分かっていたが期待してしまうわずかな余地がそこへ救いを求めてすらいた。並んだ石の前へ出る。強い酒の匂いが鼻に届いた。土と石は湿っていた。乾燥している季節を考慮してか、2本ずつ立てられた線香には火の点いた形跡がなかった。あの男の孤独を垣間見てしまう。ここで吐露するしかないというのか。誰に言うこともなく。石にしか話せないというのか。そこまで追い込まれているというのに。奥歯が痛んだ。合掌する。焼きます。石は何も返さなかった。焼きます。赤とんぼがどこかから飛ぶだけだった。焼きます。何故焼かれないと言い出したのだろう。胸を掻き毟りたくなった。焼くに決まっている。枯葉に覆われた土を握り込んだ。まだ胸の内では、天空へ長く(そび)えた煙突から吐き出されていく幻じみた人の証が吐き出され続けていた。
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