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第六章二節b

「……俺が前に出るとアミエラとセルトの顔が立たないだろ」 「イケメンだから全面的に許すけど?」 「クロスを倒すのはこの僕だ! というか顔を立てられたくはない!!」  クロスに好意的なアミエラと、彼へのライバル心を燃やすセルトの二人の言葉はクロスの心配をあっさりと潰した。  遠慮しがちと言えば聞こえは良いのだが、ほぼ蚊帳の外になっているクラブスはクロスが本当に気をかけているのはルイであるのを感じ取った。故あって力を抑えねばならない彼女に代わり、彼は護衛という枠でのみ留めているのだと。  しかしそれをルイが受け入れるかはわからない。あえて素っ気なく、印象を悪くするのはそうした気遣いを悟られぬ為なのでは?とクラブスは推測を立てる。  少なくともルイはクロスのそれには気づいてはいない。あるいは、知ってて言わないだけか。  そんなクロスを取り巻くやり取りを見ている賢者リムゾンは、今度はワンドをじっと見つめているのにクロスが気づき、その様子にワンドも気づいてリムゾンと目を合わせやや照れ臭そうに上目遣いをする。 「えっと……その、すみません」 「いえお構いなく。それよりも、先程ワンド王子は声が聞こえる、と言いましたか?」  声が聞こえる。ワンドが召喚札師(リスナー)のカード入れに触れるなどして仲間(アセス)の思いを感じ取る不思議な感性。  ワンドは「賢者様と似たものですね」とやや恥ずかしそうに答えるものの、リムゾンの表情は目をやや大きく開いて驚きを見せ、それにルイが何かを言い出したくても言えないのか口を微かに開きかけていた。 「ワンド王子、あなたのその力は私が召喚札師(リスナー)の心を感じ取るものとは異なります。あなたの力は……」  リムゾンが真剣な表情と冷静な口調で答えかけたその時、クロス達召喚札師(リスナー)と賢者リムゾンは何かを察知する。それが何者かの接近によるものとわかったクラブスは、すぐにワンドの隣についた。  ゆっくり確実に歩を進め、神殿へと近づくその召喚札師(リスナー)を急ぎ神殿を飛び出したクロス達は補足し、神殿入口にてワンドもクラブスを隣に配して様子を伺う。 「やはり賢者の助力を仰ぎに来ていたか……ま、ちょうどいいか」  グレーの袖のない礼服をまとい、身体中につけた大小色とりどりの石飾り。緑の髪はやや長く棚引き、ふくらはぎにつけたカード入れも石飾りで装飾が施されている。  一見すると優男とも取れる柔らかい表情の男は、静かにクロス達とその後ろのワンドを見据えある程度の距離に来ると足を止める。 「お出迎えに感謝するよ賢者様。といっても、今日があんたの命日にもなるんすけどねぇ」 「今朝から動物達が騒いでいたのはあなたですね。名乗りなさい」 「おー怖、ま、美人だからいいけど。俺の名はトリスタン、今はデミトリア軍の上級召喚札師(リスナー)の一人を任されている」  強い口調で威圧するリムゾンのそれを軽く流した男はトリスタンと名乗り、その名前にクロス、アミエラ、セルト、リムゾンが反応し一気に警戒を強めた。そして彼の口からデミトリアの名も出た事により、敵だと認識できる。 「土地殺しのトリスタンか! このセルト=リックラスティが成敗してやる!」 「あらら、そっちの名前を知ってるのかい? ならわざわざ手持ちを紹介しなくても良さそうだ」  真っ先に前に出たのはセルト。気合も戦意も十分だが、微かに手が震えておりクロスも前に出て隣に並び立った。  土地殺しのトリスタン。その名前について訊ねるより早く、アミエラが嫌悪感を示しながら語りカード入れに手をかける。 「生命全てを抹殺するだけでなく、その場所の土地すらも殺してしまう地属性のエキスパート……早い話が極悪人だよ。鉄仮面女のルイはワンド君を頼むよー、あの二人だけじゃヤバイかもしんないからあたしも手伝ってくる」  アミエラの話はワンド達も聞いたことだけはあった。一つの街が死に絶え、土地も枯渇し使えなくなり滅んだという話……その殆どが住民が石化されてしまったり、あるいは文字通リ塵になったとも。  極悪人と称されたトリスタンだが本人は全く気にしてない様子であり、欠伸をする余裕すら見せている。 「三人がかりたぁ卑怯な事で」 「……てめぇみたいな殺人鬼に言われても説得力ねぇよ」  いつになくクロスも闘志が高まっているのをワンドは察した。それだけの相手、ということなのだろう。  しかし、召喚札師(リスナー)三人を前にして平然としているトリスタンの表情が決して強がりでないのは、召喚札師(リスナー)であるルイも感じ取って冷や汗を流す。 「クロス、やれるか?」  ルイから声をかけ、クロスは「あんたはワンドを守れ」とだけ答えてカード入れのボタンを外して臨戦態勢となる。  そんなクロス達のやる気を察してか否か、トリスタンは大きくため息をついてやる気を見せず、やや大袈裟に肩を上げて首を横に振った。 「できる事なら面倒なのは避けたいんだがねぇ……まぁ、こっちはこっちで仕事をこなすだけの事。死んでも一切責任は取る気もないが、な」  飄々とした振る舞いが一気に消える。低い声と凍てつく視線を放ったトリスタンが右足を強く踏み鳴らし、円環(サークル)を展開してクロス達三人を閉じ込める。  そしてカード入れのカバーを外して投げ捨て、三人を相手取る姿勢を見せクロスらも警戒を強めた。 「クロス、僕一人で構わないぞ」 「手が震えてる奴が言う台詞じゃないな。あくまで俺は仕事をするだけだ」 「ま、あたしら三人が戦えば何とかなるでしょ」  互いに声をかけつつも緊張は拭えないクロス達。三人を前にして普通の召喚札師(リスナー)ならばたじろぐなりするが、トリスタンは一切それがない。  同じデミトリア配下の上級召喚札師(リスナー)ルードと交戦経験のあるクロスは特にそれを警戒する。ルードは手加減していたものの、トリスタンからは容赦する気配は一切なく、また悪行を知る故に敗北は死につながると理解していた。 「さぁて始めますかね。戦場(ホーム)展開、死者の苗床!」  先手を取ったのはトリスタン。カードを引き抜き魔力を込めて詠唱、カードが弾け飛ぶと黒い煙が足下を覆い始めやがて円環内の地面が骨が覗かせる黒土の大地となった。
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