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第六章二節a

 クライサイ山の山頂付近は比較的なだらかな地形となり、住居を建てるには条件は良い場所である。そこに佇むのは魔法石という美しい緋色の魔力を持つ石で作られた神殿、その入り口前には円陣が画かれており、所々に召喚札師(リスナー)の使うカードの裏と同じ意匠が施されている。  召喚札師(リスナー)に関して詳しいという賢者リムゾン……いかなる人物かというのは、一行もあまり詳しくはない。 「賢者様…… どのような人でしょうか?」  そう言ってワンドが辺りをキョロキョロと見回しながら歩き進めると、神殿入り口の石扉がゆっくり開き始めクロスら召喚札師(リスナー)は一瞬身構える。  石扉を開けて短い段差を降りてくるのは金の裾を持つゆったりとした白の法衣を纏う人物。顔はフードで見えないものの、雰囲気からは邪悪さはなく、かと言って穏やかというわけでもないのがわかった。 「召喚札師(リスナー)が四人も……ですが、あなた方から邪悪な気を感じない」  透き通るような小さな声で話す法衣の人物はゆっくりと歩き進め、最も前に出ていたワンドの前へと歩み寄る。一瞬クロスも前に出ようとしたがルイが手を前に出して制止させ、ワンドがやや緊張した様子ながらも一歩前に出て法衣の人物を見上げた。 「賢者リムゾン様……でしょうか?」 「……あなたは?」 「僕はワンド=リースト=エメリアと言います。果たすべき宿願の為、賢者様の知恵をお借りするために仲間と共にここへ来ました」  法衣の人物は賢者リムゾンその人で間違いない。名前を訊ねられたワンドはやや緊張気味に自身の名を隠さず明かし、簡潔に来た理由を告げてリムゾンの反応を待った。  だが、表情は窺い知れないとは言えリムゾンがワンドをじっと見つめている事、そしてそれがクロスには自分がワンドに不思議な感性を感じた時によく似ている気がした。  リムゾンはしばしの沈黙の後にゆっくりフードを外して自身の素顔を晒し出す。エメラルドグリーンのウェーブのかかった長い髪を持つ、端正な顔つきの眼鏡をかける人形の如き無表情の若い女性。  賢者が女性ということにクロス以外は驚きを隠せず、その反応を見たリムゾンもまた氷解するように無表情から口元に笑みを浮かべ物腰柔らかい雰囲気となる。 ――  ひとしきりの挨拶が済むとワンド達は神殿内の応接間に通され、石造りの椅子に座りテーブルを前にし賢者リムゾンが慣れた手付きでティーポットを用意するのを見ていた。  一行の中でクロスだけは入口近くの壁に立っており、横目でそれを見たリムゾンが「お座りになられては?」と促すものの目を閉じて待機の姿勢を崩さない。 「クロスさん、賢者様に失礼ですよ」 「お気になさらず。私も賢者リムゾンの名を先代より継いで間もないものですから」  紅茶を淹れ終えたティーカップを盆で運んでワンド達の前に出しながらリムゾンは穏やかな様子で応対し、向かい合うように自身も席につくとさて、とひと呼吸置いてワンドの用件を訊ね、ワンドもまた自分のこれまでの経緯とここに来た理由を包み隠さずに述べ、リムゾンもしっかりと耳を傾け納得した様子を見せる。    一方でリムゾンはクロスが気になるのか、時折目線を向けて意識している仕草を見せていた。それにはワンドも気づいてはいるが、触れるのは見送りやや緊張した様子で彼女の返答を待った。  やがてワンドと、その隣のルイ、アミエラ、セルトにクラブスと顔を見合わせて小さく頷く。  「召喚札師(リスナー)の力を高める為の方法は確かに存在しますが、恐らくあなた方にはあまり効果は見込めないと思われます。特にクロス殿には全く効果はないでしょう。それは、本人がよくわかっていると思います」  方法はあれど効果は見込めない。そしてクロスはそれが意味を成さない。  その言葉にワンドは驚きを隠せなかったが、召喚札師(リスナー)である四人は特に驚かず、平静さを保っている。 「ま、そんな事だろうとは思っていたけれどね。あたし十分強いつもりだし」 「あ、アミエラさん! そんなあっさり……」 「ワンド様、落ち着いてください。ちゃんと理由があるのです」  足を伸ばし気楽な様子を見せるアミエラにワンドは慌てるものの、すぐにルイがその理由等について彼に説明をし始める。召喚札師(リスナー)にとって基本的な事、のひとつである物事を。 「召喚札師(リスナー)は魔道士などと異なり、自身の魔力が上げる方法が限られます。わかりやすく言えば成長の限界値に来ると召喚札師(リスナー)として充分な強さを持つということの証と言い換えられます」  成長限界。越えられない壁という存在……だが、ルイはそれとは別の事に対し疑問を抱く。 「ただ一つだけ……何故クロスだけ名指ししたのかは、私も理由を聞きたいところです」  丁寧なルイの説明はワンドも理解はできるが、やはり彼女が思ったようにクロスだけをリムゾンが名前を出した事は気にはなった。  同様にそれを気にするのは仲間も同じ。アミエラは横目でクロスに目をやり、セルトは悔しさを滲ませながら注目、当の本人は変わらず無表情で一応リムゾンに顔を向けているといった具合だ。 「先代と共に多くの召喚札師(リスナー)を見てきました。その心の形、色、仲間(アセス)との繋がり……そうした一人一人の個性を見極め、その召喚札師(リスナー)が行くべき指針を示し必要なら魔力を高め新たな召喚札師(リスナー)とするのが役目。ですがあなた方はそれをせずとも十分な強さを持ち、次にすべき物事もわかっています。私の手を借りなくても、魔力を高めるのは可能です」  丁寧な言葉で話すリムゾンの口より魔力を高める方法は一先ずあるらしく、その点ではワンドもほっと一安心できた。もちろんそれが容易いものでないのも想像がつくのだが。 「特クロス殿の心と仲間(アセス)との繋がりは稀に見るほどに良いものです。召喚札師(リスナー)デミトリアと渡り合う事もいずれ……」 「あくまで俺はワンドの護衛だ。それ以上の事はするつもりはない」  縄張りを守るかのようにクロスはリムゾンの言葉を遮り自らの意見を押し通してみせた。無礼は承知、というのが無表情ながらも全員に伝わり良くない印象を与える。  特にルイとセルトは反発意識が強く怒りをこみ上げさせるが、その前にワンドが場を取り持とうと必死の弁護を行う。 「クロスさんもいずれは僕の代わりに戦ってもらいます! とても強いのは皆さんわかっていると思いますし、仲間(アセス)との繋がりが強いのもわかると思います。僕も色んな召喚札師(リスナー)に会って、仲間(アセス)達の声を聞いて、初めてこの人はいい人と思えた:召喚札師ですから……だから、言う事、聞いてください」  途中から声が震え目を潤ませ始めたワンドにクロスはどう答えるか迷い、慌ててハンカチを何処からか取り出して涙を拭くルイに鋭い目つきで睨まれ、怒りこそないが細目でニヤニヤ笑いながら見るアミエラ、嫉妬の炎を燃やして睨むセルトと完全包囲され、観念したようにクロスはため息をついて頭を抱える。    
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