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第五章七節

 クロスの話を聞けば聞くほどに、彼を理解すればする程に、ワンドは冷静に振る舞う裏側の姿が見えてきた。  傷ついた自分を他人に見せない、例えどんなに辛かろうとも守るべきものがいる以上は弱さを見せない。そんな決意の裏返しであり、同時に自分の為に戦うクロスを何とかしてあげたいとワンドに思わせる。  しかし自分に何ができる? カードの扱いはおろか、剣も魔法も使えない亡国の王子である自分に何ができるのか?  あまりにも自分が非力な存在という現実にワンドは打ちひしがれかけるが、それを察してかクロスが頭にそっと手を置き「心配するな」と声をかけ、普段通りの冷静な口調でさらに続けた。 「お前は俺が守る、最後までな」 「でも……」 「……本当に辛いときは、ちゃんと話す」  アンナから聞いたクロスの話には、さらに続きがある。それは普段から表情を崩さずにいるクロスが、ワンドと話している時だけは穏やかな表情をしているという。  もっともそれはクロスをよく知るアンナだからわかることであり、傍から見れば無表情で口調も冷静そのもので穏やかとは言い難い。  だがワンドはクロスが穏やかな表情をしているのが何となく理解できた。プラッタの街で出会い、ルイ達と合流するまでの間に共にいてくれた時も、炎の中で助けに来た時も、確かにクロスは自分に対して微笑んだ気がした。  アンナ曰く、ワンドの存在は殺伐とした仕事をこなす中で見つけた花のようなものだという。そしてクロスを支えて欲しいとも願いを受けており、ワンドもクロスの為にできる事を思っている。  今は何の力もない、しかし彼が健やかでいられるならばとワンドは笑顔を見せ、やや驚きつつもクロスもそれを受けて微笑んだ気がした。 ――   所変わってリックランプより北西の街リットヘム。大きな街ではないがリックランプに向かう旅人の休憩地点として栄えており、人口も多い。  普段通りならば夜でも賑わいを見せているのだが、この日は夜の帳が降りたように静寂そのものであり夜風のみが街を流れていた。  理由は単純明快、街にいる住人や旅人のみならず犬猫や植物などの生命全てがくすんだ灰色に染まって石化しているから。  そんな街にて唯一動く人影は、それを行った召喚札師(リスナー)である。 「ふーむ……どうやら読みが外れたようだねぇ。そうなると街以外、という事か」  飄々とした喋りをしながらランプの光の下に姿を現す緑髪の若い男。グレーの袖の無い礼服を纏い、大小様々な色鮮やかな石飾りを身体の至るところにつけ歩く度にカチカチと音を鳴らす。  そして彼の左ふくらはぎ横にはこれまた石飾りで装飾がされたカード入れがあった。 「おや、奇遇だねぇ最上級召喚札師(リスナー)殿。夜道の散歩かい?」  街の暗がりより姿を見せたのはデミトリア軍最上級召喚札師(リスナー)のバエルだった。辺りを見回し、生命全てが石化しているのを確認すると「相変わらず恐ろしいな」と言葉を漏らし、男の方に仮面で隠す顔を向けた。 「何故ここにいるのだ」 「たまたま近くにいたもんだから例の王子に挨拶をだな」  瞬間、男の答えに対してバエルがカード入れに手をかけようとすると「ってのは冗談」とすぐに前言撤回し、臨戦態勢になりかけたバエルに呆れつつさらに続けた。 「あの国の注意を逸らす陽動、それと例の王子の護衛を試して来いってデミトリア様からの密命さ。会議の場で言わなかったのは他の奴らから情報が漏れないようにって事らしい。ちなみに、陽動の為に何人だろうと殺しても構わないってのは承諾を受けてるがね」  飄々とした態度の中に見え隠れする狡猾さと狂気。それを持ってるが故の強さと任務遂行能力をバエルはよく理解しており、彼の話を聞いて納得し臨戦態勢を解いた。 「ま、最上級召喚札師(リスナー)殿は高みの見物しててくれ、かるーく撫でてくるだけさ。もっとも、近くに来すぎたら巻き込まねぇ自信はねぇですがね」  デミトリア軍五剣召喚札師(クインスリスナー)が一人トリスタン。その快活さの中に秘めた狂気が見据えるのは、ワンド達の存在であった。 next…
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