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第五章六節b

 安全策でゆっくり増やすのは得策ではあるが、その間にワンドの宿願を果たせなくなる可能性……ひいてはデミトリアが目的を達成し、手遅れになる可能性もある為、短期的かつ確実な方法が好ましいだろう。 「戦いを続けて限界と死線とを超えてけば自然に増えてくのも確かだ。多少の無理をすればいい」 「えーあたし傷物になるの嫌だよ。そーいう鍛え方するんならもっと楽な方法あればやるし」  クロスのまとめにアミエラが即応し頬を膨らませ、ため息をつくクロスとは対象的に雇い主のワンドはうーんと唸り始める。  しかし彼らの言うように強くなければデミトリアには勝てないだろう。このまま行っても無駄死になるだけであるし、彼らも自覚している。無論、ワンドとしてもそのような無茶な事はさせようとは思わない。  そんなワンドの心情を察してか、囲炉裏側に座って沈黙を貫いていたルイが「ワンド様」と呼びかけを前置きとし、クロスらも目を向けたのを確認してから丁寧な言葉で語り始める。 「強さを得る、という点に関して案があります。賢者様の力と知恵を借りる、というのはいかがでしょうか」  賢者の力を借りる。この世界に数人だけいるとされる魔法使い達の頂点と言われる人物の事であり、魔力の扱い、ひいては召喚札師(リスナー)に関しても豊富な知識を持つとされている。  ルイの提案はそうした意味では理にかなっており、強くなれずとも旅に役立つ知識を得られる可能性は高い。 「デスガ、賢者様がおられる場所はこの近くにあるのデスか?」 「そこまでは私もわからない。だが強くなるという事に関して危険は少なく済むはずだ。方法がなかったとしても、何かしら助言は賜る事ができるはず」  クラブスの質問に答えるルイは冷静さを装っているのがクロスにはすぐにわかった。本来なら彼女が護衛としてワンドを守りたいのに、理由あって他人に任せねばならいもどかしさが見え隠れしていた。  彼女が出した賢者という存在に関して、セルトが「この近くにいるのは……」と思案をし始め、その名を口にした。 「ここから北にあるクライサイ山にいる賢者リムゾンだな。会ったことはないけれど、確か召喚札師(リスナー)の扱うカードについて研究しているというのは聞いたことがある」  地図上で言えばリックランプの北部にあるクライサイ山。標高はそれ程ないが魔物が多く住む森林地帯の中にあり、周辺には街はもちろん村一つない場所だ。  一般人なら近寄るのは難しいが、召喚札師(リスナー)ならば森林や魔物という障害を問題とせずにいけるだろう。 「では賢者リムゾン様にまずは会いにいきましょう。その後は……えっと、また考えましょうね」  やや頼りない印象はあれど目的地を定めたのをワンドは穏やかに話し一同も納得する。  地理的にクライサイ山から見て更に北部にいけば中央・北・東大陸の境界にあたる大きな街もあり、東に進路を取れば東大陸の首都をはじめとする都市部が多くある。南方に行けばリックランプの街に戻る形だが、そこからもさらに多方向に道はあり、選択肢は非常に多い。 ――-  夜。夕食も済ませ、宿を後にする準備に勤しむワンド達。といってもワンドはレムリンのハントと共に退屈そうに宿の裏口で待機しており、小さく息をつく。 「なんかごめんなさい。って、君に言っても仕方ないよね」 「しー?」  抱っこするハントの頭を撫でながらワンドは目的地が決まった後のやり取りを思い出す。出発をいつにするかと言う事でクロスが提案したのは今夜、それに対しワンドの負担を訴えルイが早朝案を出したのだ。  言い争いになりかけたものの多数決でクロスの提案が通り、代わりにワンドを少しでも休ませるというのを承諾した。  セルトは一時離脱して実家に戻りデミトリアの圧力がどの程度なのか情報を収集しに行き、アミエラは長旅をする上で補充するカードのストックを確保しに行き、クロスは周囲の警戒と出発経路の安全確認。  クラブスとルイは護衛として残っているが、実質的にヒマというのもあってか女将のアンナに捕まって手伝いをさせられている。  夜のリックランプの街はまだまだ賑やかな声があちこちで聞こえ、大きな街というのを改めてワンドは思う事ができた。同時に今は無き祖国のエメリア王国とその城下の賑わいもまた思い出し、もう戻れない事に切なさも感じつつも今を大事にと考える。  少しすると見回り警戒を終えたクロスが戻り、ワンドの所へとやってくる。彼の帰還に耳を立てて反応するハントがワンドから離れ、クロスの足に掴まるとそのまま頭へと一気に駆け昇る。 「おかえりなさいクロスさん」 「経路は問題ない。予定通りにいけるはずだ」  ワンドの隣に移動しつつクロスは淡々と答え、何かを期待しているワンドの眼差しをひしひしと感じつつもあえてそっぽに目を向ける。期待されている、自分はあくまでも雇われの護衛というのに。 「……見てても何も出ないぞ」 「そうかもしれません。でも、クロスさんが傍にいてくれると落ち着くから」  国と家族を失って旅に出て、寂しいという気持ちもぐっとこらえて来た。ルイとクラブスもいたが、主従という関係もあってお互いに無理をしてる部分も少なからずあった。  兄のような存在、ワンドはそんな思いをクロスに重ね、それを察してかは定かではないがクロスも特に諫言せず好きにさせている。    しばしの沈黙の後、ワンドがずっとクロスを見ているとクロスが小さく息を吸って路地から見上げる空に目を向け、静かに語り始める。 「召喚札師(リスナー)として、守れなかったものもたくさんある。結果的に仕事自体は完遂していても、失ったりな……今回は、そうさせない」  何故自分でもそのような事を話したのか、クロスは言ってから疑問に思った。ワンドに対してなのか自分への戒めなのか、少なくとも、誰かに聞いて欲しいと何処かで望んでいたのかもしれない。  かたやワンドは小さく頷くにとどめ、クロスの二年前の仕事についてを思い出す。それはアンナの宿にあったクロスの受け取ったメダル等を見ていた際に、アンナが語ってくれたこと。  ある商家の長期の護衛任務を受け、十分な護衛が整ったのもあり契約更新せずそこで依頼完了となった。しかし、クロスが護衛から外れた後にその商家の者は全員死亡したという。  留まれば守れたかもしれない。だが次の依頼も来ていたというのもあり、そうもいかなかった。何より契約が切れれば無関係となるのも暗黙の了解として存在しているので、そう割り切るのが常、この世界では少なくない事である。    それでも、何も思わずにはいられない。後悔までは行かずとも、少なからずその経験がまだ尾を引いている……そう、聞いていた。
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