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第五章六節a

 結局、最後の一撃となった攻撃は互いに相手の急所に刃を当てる形で相打ちとなる。正確にはその場所へ刃を当てはしたが切る事はなく、余力も無いことから仲間(アセス)同士が引き分けという形で納得したからだ。  その結果にクロスの方はすんなり受け入れるものの、セルトはやや不満げであった。  とは言えセルトの実力を推し量るという目的は果たし、アミエラとルイも彼の力が合格点といったことでワンドも改めてセルトへの依頼ができるようになる。  宿の一階にてルイとクラブスを伴って依頼交渉をしているワンドとセルトの様子は、友好的のようだ。  事情を聞くセルトは情が移ったのかぽろぽろ涙を流し、それを何とかしようとするワンドの姿をクロスは宿の奥から見守り、上手く進んでるのを確認して自室のある二階へと向かおうとする。と、女将のアンナに呼び止められ二階のロビーに移動する。 「……面倒事か?」  神妙な面持ちのアンナの表情から何かを察したクロスがそう訊ねると小さく息をついたアンナは「大分ね」と答え、話を切り出し始めた。 「デミトリアがこの街の上の連中に圧力をかけ始めてる。もちろんここは永世中立だから侵略行為はないけれど、街の信頼って面から攻めてるらしいよ」 「要するにここから早く移動しといた方がいいって事だろ。わかってるさ」  独自の情報網を持つアンナが仕入れた話を聞いてもクロスは特段驚くことなく、淡々と答えを述べ手袋をしっかりとはめ直す。  オークションを開催できなくなった事は確かにデミトリア側の信頼を落としたが、同時に場所を提供したリックランプの街のそれも落ちる事となる。無論回復するのは難しくない事であるのだが、そこを拡げようと画策してるようだ。 「早ければ今夜にも発つ。そのほうがお互いにはいいだろ」 「クロスあんた……」  判断が早い、とは違うものをアンナは汲み取り表情を曇らせ言葉を詰まらせる。  良くも悪くも冷静沈着すぎるクロスを案じているのか、それとも別の事を心配しているのか……続けて話題を切り出そうとするも、いつの間にか壁に寄りかかって聞く耳を立てているアミエラに気づいて目を向け、彼女がんーと唸りながら唇に指を当てて考えるのを捉えた。 「今夜発つってもあんたカード足りないんじゃないの? 使用制限は大丈夫かもしれないけど、破壊(ブレイク)状態にされてる呪文(スペル)とかあるでしょ?」 「許容範囲だ、問題はない」 「ま、いっか。あたしが同行するのには変わりないんだし」  焦燥感に近いものをクロスから感じ取ったアミエラだが、そこには触れずに普段通りの装いをして彼の横を通って階段を下りていく。クロスも感じ取られたのを察しつつも何も言わず、彼女が完全に降りてから小さく舌打ちをする。 「自分の危機なんざ、誰かを失うよりは遥かにマシだ」  そう呟くクロスの脳裏に浮かぶ苦い記憶。今の自分の原動力にもなっている記憶をしばし思い出してからしまい込み、ワンドが自分を呼ぶ声を聞いてから普段通りのポーカーフェイスに戻ってゆっくり階段を降りていく。  その姿を見送るアンナは言葉をかけずに小さくため息をつくと「あんたは優しすぎるんだ」と漏らしてから同じように一階へと降りていった。 ――    デミトリアの圧力の話をアンナがワンド達に伝え、さらに今後の経路についての話し合いが始まる。元々デミトリアに対抗しうる召喚札師(リスナー)を見つけるのがワンドの旅の目的、ひとまずそれが果たされた今、次なる目標を定めねばならないからだ。 「召喚札師(リスナー)デミトリア……倒すとしても正直今の俺の力じゃ無理、と思う。まずは力をつけたい、どっかの誰かにも負けたくない」 「力を不足ーってのはあたしもおんなじかな。ま、簡単にほいほいと近道で強くはなれないんだけどさ」  セルト、アミエラ共に現状の力不足を自覚し口にすると、ワンドの表情はやや曇り始めクロスが軽く頭を小突き気を紛らわせた。  それから、二人の言葉の理由について彼は淡々と語り始める。 「召喚札師(リスナー)の強さはカードや仲間(アセス)の力もあるが、決定的と言えるのは本人の魔力の大きさが一番だ。戦いを重ねれば戦略的なものや、仲間(アセス)自身を鍛え上げるのはできる。カードも買うなりして手に入れる事で増やす事はできるが、魔力の量だけは簡単には増やせない」  召喚札師(リスナー)の基本にして重要な要素である本人の魔力の大きさ。人が元々持ち得るその力は生まれつき持つものもいれば、後天的に目覚めるもの、生まれつきあっても開花してないものなど千差万別。  魔力があってこそ召喚ができ、カードを操る事ができる。それが大きければ大きいほどにできる事も増える為に軽視できない。  その魔力の大きさは始めから大きな者もいるにはいるが、少ないものもいる。また最初こそ大きくても伸び幅が小さいものもおり、逆に伸び幅が大きくても最初は小さいなど個人差もある。  増やす方法については様々な方法はあるにはあるが、安全かつ確実に増やすやり方と言えるのは時間をかけて行うものしかなく、即時性があるものほど何らかの危険や不安定なさなど問題を抱えていた。
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