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第五章五節a

 虚をつかれた事にセルトは目を大きく開き一瞬放心するがすぐに気を取り直し、軽く下唇を噛んでから強い眼差しをクロスへ向ける。 「クロス貴様! 卑怯だぞ!」 「勝手に釣られて気を緩めたのはお前の方だろ。呪文(スペル)発動、マジックプロテクト」  率直な感情を述べるセルトに対するクロスは淡々と戦いを進め、カード入れよりカードを引き抜き呪文(スペル)を発動。  鍔迫り合いをするギルツの身体を柔らかな光が一瞬包み込み、使われた呪文の効果を示す。自分の仲間(アセス)に対する呪文などの効果を無力化する結界を施すマジックプロテクトの呪文(スペル)。  ただし、無力化するのは自分の補助呪文も含む為に呪文(スペル)でのサポートはできなくなるデメリットもある。それが有利に運ぶ事もあれば首を絞める結果にもなり得る為、使うタイミングは相手の戦術や特性を理解してからかけるものだ。  あえて先手としてそれを使ったのは、セルトの仲間(アセス)フォトンの力を測るため。また自分に不利な面を作り出すことでギルツ共々さらなる強さを得るための二点、クロスのその意図を察したギルツは内心呆れつつも踏みこむ足にさらに力を込めフォトンを押し込む。しかし、不意をついたからと言って有利になり切れるかはまた別問題。  押し込まれつつもそれ以上は押されず、真っ向からフォトンはギルツの剣を盾で受け止めやがて徐々に押し返し始める。 「戦意をあえて落として虚をつくのは見事、何の合図もなしに呼応できた事からもそなたらの繋がりの強さは理解できる。心より敬意を表す。その上で、我が剣の下に切り伏せる!」  賛辞を述べた上でフォトンが攻勢に転じる。盾を突き飛ばすように押し込んでギルツを弾き返しつつ体勢を崩し、素早く剣を突き出して追撃。  この追撃にギルツは身を素早く屈めて紙一重で避けるものの反撃とは行かず、後退して距離を素早く取る。が、それに追従するかのようにフォトンは既に走り出して攻撃態勢となっており、半月状の刃を縦に構えたギルツは剣による一撃を防ぐが大きく側面へと飛ばされてしまう。  小さく舌打ちし己の読みの甘さを痛感しながらもクロスは表情には出さず、かたやセルトはフォトンが反撃に成功したのもあってか深呼吸を一度して間を置いてから平静さを取り戻していた。  召喚札師(リスナー)にとって、相手の平静さをいかに乱すかは勝敗に繋がる要素の一つであり、さらに突き詰めればいかにして相手の心を折るかまでいけば確実なものとなる。  最初の攻防のそれでセルト本人や仲間(アセス)フォトンの力と心は、戦いを見守るワンド達も少し理解する。やや冷静さに欠けるものの、フォトンが上手く間を作ってそれを補うらしい。  同じ召喚札師(リスナー)であるアミエラ、ルイはそれぞれの初見を述べる。 「単純バカかなーと思ったけれど、仲間(アセス)の強さはなかなかだねー」 「ナイトは数が多いが反面実力に開きがある。そうした意味ではフォトンというナイトはかなりの実力を秘めている。それを仲間(アセス)とする召喚札師(リスナー)もまた実力があるのだろうが……まだわからない」  フォトンの方の強さはわかった。あとは召喚札師(リスナー)たるセルト本人の采配などがいかほどかが判断材料となる。  クロスが仕掛けた策に引っかかりはしたが立て直した事で反撃の機会を得るが、やはりマジックプロテクトの存在が気になるのかカード入れのカードをすぐに引き抜かず、何かを思案していた。 (いきなり不意をしかけてマジックプロテクトまでかけるなんて……出し惜しんでは、いられない!)  何かを仕掛けてくるとわかったクロスは身構え、同じように飛ばされたものの起き上がったギルツも気を引き締め直す。と、ギルツに向かってフォトンが剣を下から上へと大きく振り抜き、すると地を走る白い衝撃波が猛スピードで迫りこれを難なくギルツは避けるが、セルトがカードを使うには充分なスキとなってしまう。 「道具(ツール)使用、シールブレイク! さらに呪文(スペル)発動、クイックチャージ!」  その二つの名を宣言した事にクロスの目がやや大きく開く。フォトンの持つ剣がやや大型の片刃剣へ変化し、さらにフォトンの足下に波しぶきのような円環が現れて魔法の付与を示す。  セルトの援護を受けたフォトンが三度ギルツへ接近、鎧をまとっているとは思えぬ速さで迫ると剣を振り下ろし、避けられはしたがギルツの身体から柔らかな光が割れるように消え去り、マジックプロテクトが消えた事を表した。 (退魔・封魔の剣シールブレイク……オマケにクイックチャージで溜めを減らすか、やりにくいな……!)  名の示す通りの効果を持つ剣シールブレイクと、召喚札師(リスナー)の消費魔力を増加させる代わりにカードの再使用を早めるクイックチャージの呪文。  召喚札師(リスナー)呪文(スペル)などのカードを一度使うと、次のカードを使うまでクールタイムが必要となる。強引に使う事も可能だが、ある方法を除くと無理に使うとクールタイムがさらに長くなってしまう。その為、クイックチャージのようなカードも存在しているのである。    呪文(スペル)道具(ツール)の併用による攻防力の増強に加えてフォトン自身の強さが合わさり、驚異的な強さとなるのは明白。  クロスはどう対処すべきか素早く判断し、さらにここから対処に対する手をセルトがしてくるのも考えてギルツを支えねばならない。ギルツもまた、クロスの緊張を感じ取り彼へ声をかける。 「流石にこれ程の強者相手は辛いものがあるな」 「負けるつもりはない」 「当然だ!」  いつものようにポーカーフェイスを貫き、いつものように平静さを装うクロスの淡々とした返答。僅かなミスも許されないという緊張はあっても、絶対相手に悟られてはいけないというクロスの召喚札師(リスナー)としての信念をギルツは再認識して吠えて威嚇し、自らを鼓舞してフォトンと同時に駆け出しそのまま刃と刃とを鍔迫り合わせる。 「呪文(スペル)発動、バインドアース」 「そうはいかない! 呪文(スペル)発動、インスタントシール! その効果により呪文(スペル)カードを封殺する!」  クロスの使おうとしたカードのイラストが鎖で覆われたものに変わって使用できなくなり、すぐにそれをカード入れに戻してクロスは別のカードを引き抜き、合わせてセルトと同じようにカードを使ってそれを使われる前にカウンターし妨害していく。  その間に互いの仲間(アセス)は激しい切り合いを展開する。金属と金属とがぶつかり合う音が鳴り響き、時には互いの体を刃が僅かに捉えて傷をつけていく。  が、呪文(スペル)による支援を受けてる事と、鎧で守られている部位の多さの違いからギルツの方が手傷が増えてきている。
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