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第五章四節

 セルトが目覚めてからクロス達が向かったのはアンナの宿の裏にある召喚札師(リスナー)用の練習場。その一角にある模擬戦用スペースだ。  特殊な魔法による結界を張ってある為、円環(サークル)を展開する必要がなくまた周囲へ音や衝撃も普通なら漏れない。  利用客がクロス達しかいないのもありやるには好都合、位置についたクロスはため息混じりに深呼吸をし同じく配置につくセルトに目を向ける。 (やれやれ……これも仕事、か)  模擬戦スペースの横のベンチに座るワンド、ルイ、クラブス、アミエラの見守る中での戦い。正直やりにくいものの、ワンドの要望ならばとクロスは割り切り臨戦態勢となる。  かたやセルトは気合十分。こちらも臨戦態勢となりマントを位置を後ろ側へと移して両手を出しやすくし、同時に何処となく落ち着きがなかった雰囲気が目付きとともに変わり、クロスも警戒を強めた。 (……強いな)  威圧的ではないが確かな覇気が空気を張り詰める。鋭き眼差しから放たれるのは文字通り刃のように鋭利な闘志、気を抜けば切り刻まれるかのようなそれは確かな強さを示す。  互いにカード入れのボタンとホックとを外してカードを引き抜き、魔力を込めつつこの戦いの取り決めをし始める。 「ルールは破壊(ブレイク)されたら負けの一発勝負、疲弊(ダウン)制限は無し。ただしエスケープ等の強制疲弊呪文の使用は禁止でいいな」 「どんなルールだろうと勝つのはこの僕さ! 我が友にして我が剣、フォトン召喚!」  ルールに同意し先に召喚をしたのはセルトだ。手にしたカードを高く掲げると光り輝き、閃光を切り裂いて姿を表したのは装飾が施された白銀の鎧で全身を包み隠す白の騎士。盾と剣を持ち、ゆっくり着地してから直立しその神々しくも見える姿を見せつける。  セルトが召喚したのはナイトと呼ばれる比較的多い元人間の仲間(アセス)。人間に限らず何らかの理由で生命を落としたもの、この世への未練があるものなどが精霊化し現世に留まったもの。召喚札師(リスナー)でなくても守護の象徴としてレリーフとして象られる事が多い。 「クロス! 覚えてないだろうが彼はお前にこっぴどくやられた時に共に戦ったナイトだ! 今度こそお前の自慢のファイアードレイクを倒してやる!」 「セルト、熱くなりすぎだ。相手がそう都合よく望む相手を出すとは限らない」  臨戦態勢となってもやや興奮気味なセルトに対し、ナイトのフォトンは沈着冷静そのもの。また彼の言うようにクロスが都合よくファイアードレイクのエックスを出すとも限らない。  これに対してクロスはあえてセルトの意思に乗るか拒否かを選択する事となる。単純に考えた場合、一度で破壊(ブレイク)されれば負けなのと呪文(スペル)でそれを回避できないルールでエックスを召喚するのは適切ではある。単純な強さで言えばクロスの持つ最強の仲間(アセス)だからだ。  しかしセルトは自分と戦う為に来たのなら、エックスへの対策もしているのは想像がつく。過去にも勝利はしたが対策されて苦戦したというのあり、自分がファイアードレイクの使い手というのは名が通っているので倒そうと手段を講じる者は多い。 (エックス、行くか?) (判断は任せる)  仲間(アセス)との対話によりクロスはエックスの意思を聞くもそのまま返され悩む形となるが、見方を変えれば己が出なくても勝てる相手と判断したとも取れる。  エックスは確かに強い仲間(アセス)だが、彼以外の仲間達もまたクロスにとっては同等の存在、共に研鑽して高みを目指す存在なのだから。  クロスはカード入れから引き抜きかけていたエックスを戻し、別の仲間(アセス)を引き抜きその名を高らかに呼ぶ。 「道を切り開け、ギルツ」  引き抜かれたカードがその名を呼ばれ閃光と共に宿った仲間(アセス)が召喚される。  召喚された半月状の刃を手にする漆黒の毛並みの豹戦士ギルツはクロスの前に降り立ち、目の前のナイトのフォトンを捉えると目を細めゆっくり立ち上がりつつクロスの方に目を向ける。 「エックスを出さずこのギルツを召喚とは……マスターほどの召喚札師(リスナー)が、あのナイトの力を見極められないとは思いませぬが?」 「勝てるかどうかは俺の采配とお前のやる気次第、だ。少なくとも負ける見込みが大きければ呼ばない」  常に冷静沈着で表情も変わらず、声質も口調もブレない。それは揺るぎない自信と仲間(アセス)への信頼があるから。  自分が契約した召喚札師(リスナー)とはそういう人間とギルツは再認識して前を向き、やや前屈みに刃を構えた。  対するフォトンもまた突き立てていた剣を抜いて盾と共に構えて足を開き臨戦態勢へ。互いの仲間(アセス)が足に力を入れいつでも踏み出せる状態となり、召喚札師(リスナー)同士もまたカード入れに手をかけ指先をカードに触れる。  そしてそのまましばしの沈黙。お互いすぐに攻めずに脳裏に戦いの展開を描き始め、召喚札師(リスナー)は采配を、仲間(アセス)は勝利への道筋を最後まで読み切る。  今回は破壊(ブレイク)された時点で勝敗が決する。慎重に判断を決めねばリスクが大きく、またどちらが先に仕掛けるかも勝敗に左右するだろう。  ワンド達も固唾を呑んでその時を待つ。と、突然クロスが肩を撫で下ろして目を閉じると、出す気が弱くなり臨戦態勢が解かれたのがわかった。  張り詰めた気が切れた事で相対するセルトも釣られて臨戦態勢を解いてしまい、同様に彼の仲間(アセス)フォトンも構えを一瞬解く。  その刹那、クロスの目が見開きそれに合わせて仲間(アセス)ギルツがフォトン目掛けて駆け出した。構えを解きかけていたフォトンは盾での防御をするものの激しく切りつけて来たギルツの一撃に押され、踏みとどまれず大きくセルトの方へと押しこまれた。
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