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第五章三節

 真化(ネオリューション)についての疑問をワンドがさらに投げかけようとしたその時、ハントの耳が少し立って身体を宿の入り口に向けて何者かの来訪を察し、クロスも合わせて目を向けると扉をやや強く開けて来た来訪者が現れる。 「見つけたぜクロス! さぁ今すぐ勝負だ!」  翡翠にも似た美しい色合いのやや長めの髪をした澄んだ碧眼の男、歳はクロスと同じ程と思われる。  長めの白のマントの下には動きやすい軽装の鎧と下地、そして召喚札師(リスナー)である事を示すカード入れが備わったベルトをたすきがけしている。  一方的に勝負を挑む男がずかずかとクロスの前に来て指を突き出すものの、クロスは特に表情を変えずに何かを考え込む。 「……誰だ」 「なっ……!? ぐっ、このセルト=リックラスティの顔を忘れたとは言わせないぞ! この前の借りを兆倍にして返してやる!」  セルト=リックラスティと名乗る少年はクロスの知り合い、のようだがクロスはカウンターの方に目を向けて小さく息をつき「断る」と素っ気なく返答し、その態度にセルトの興奮もさらに高まりはじめた。  それを見兼ねたのか、ルイが口出ししようとするとその前にワンドがセルトの隣に行って彼を見上げ「あなたも召喚札師(リスナー)なのですね」と声をかけ、振り向くセルトに笑顔を見せた。 「めんどくさいから関わるな」 「駄目ですよクロスさん、ちゃんと召喚札師(リスナー)同士仲良くしないといけません。命令ですっ!」  言い返して命令という形を取り、流石にそれには逆らう訳にいかなくなったクロスはため息をついて席を立ちセルトと目を合わせる。対するセルトは先程までの興奮が冷めており、ワンドとクロスのやり取りにきょとんとしていた。 「く、クロスともあろうものが子供の命令に……? ぶふっ」 「それ以上余計な喋ったらこの場で……」  顔を背けて口を抑え笑いこらえるセルトにややどすの効いた声をクロスは出すものの、ズボンを引っ張るワンドが笑顔を向けて制止させ、舌打ちして言葉を切る。 「ねーねー、もしかしなくてもこの街の大地主の息子のセルト=リックラスティだよね? 金持ちじゃん」  カウンターの中からそう快活にセルトの情報を話すのはアミエラ。曰く、リックランプの街の大地主の息子、らしい。  なるほどとワンドもセルトの服などが質の良いものなのに納得がいき、知らなかったのかクロスもほうと反応を示す。 「その大地主の息子と因縁めいている、か。お前はつくづくトラブルを持ってくるな」 「……思い出した。半年前に勝負挑んで来た奴か。普通に挑戦を受けて、普通にやって普通に勝っただけだ」  苦言を呈するルイに答えつつ、クロスはセルトの事を思い出す。召喚札師(リスナー)として挑戦を受け、それで対戦した相手は数多くいれどもそれが多い為に苦戦しなければ印象も薄い。  自分の事をようやく思い出してくれた事にセルトはやや嬉しそうに振り返るものの、すぐに何かに気づいてルイ、そしてアミエラと顔を合わせてからクロスの方に目を向け、しばしの思案の後に怒りを爆発させた。 「貴様ぁ!! 朴念仁ぶってこんな美人を二人も従えるとは断じて許さんぞ!」 「仕事仲間だ。別に従えてはいない」 「例えそうでもこの僕ですら出会いがないのにズルいぞ!」  話の論点がズレ始めている事にクロスは内心呆れ、同じようにルイ、アミエラ、クラブスもセルトはめんどくさい性格なのだと認識し、なんの事かよくわからないがハントを頭に乗せてワンドも苦笑いする。 「兎にも角にも勝負だクロス! この半年間お前に勝つ為だけに鍛錬に鍛錬を重ねに重ねて来たんだ!」 「……この宿の女将が戻ってからならやってやる。留守任せられてるからな」  ここまでしつこいと流石にクロスも勝負を受けざるを得ないと判断し、応じる意思をクロスは示す。セルトもそれに納得したのか「よし! 絶対だぞ!」と言って立ち去ろうとする。  と、それを引き止めるようにワンドがセルトのマントの端を掴み、そのせいかはわからないがセルトは転倒し、さらにその衝撃で落ちた空の箱が頭に命中、当たりどころが悪かったのかそのまま目を回して気絶してしまった。 ――  ひとまず囲炉裏の側にセルトを寝かせ、帰ってきた女将のアンナがいきさつをアミエラから聞くとため息をつき、くわっと鬼の如き形相となってクロスの頭をやや強く殴り、声を出して痛みに耐える彼を叱り始めた。 「まーったくあんたってやつは本当に興味のない人の顔覚えないんだから! セルト坊やくらい覚えたらどうだい」 「っ……だからって、殴る事は……」  反論しかけたクロスにさらにげんこつを食らわせ黙らせるアンナ。母親に怒られる息子のようなそのやり取りにカウンターから出てきたアミエラはニヤニヤと笑い、ルイもフッと鼻で不幸を笑ってみせる。  クロスへの説教も一通り済んだところでアンナはセルトについて、カウンター席に座るワンドに紅茶を淹れながら話し始めた。 「セルト坊やは昔から親の威光に頼らず頑張ってる子でね、この街の誰よりも努力家で負けず嫌いなんだ。昔から召喚札師(リスナー)としては確かな腕はあるんだけど…負けず嫌いなもんだから格上にも挑んだりもするし、正義感も強いから色々大変みたいでね……それでもまっすぐな性格して頑張る姿に、私らも元気をもらってるんだ」  ふむふむとワンドは話を聞きながら差し出されたティーカップを受け取って紅茶を一口飲み、クラブスの看病のもと気絶してしまっているセルトの方に目を向ける。  召喚札師(リスナー)としての実力はアンナ曰く確か、性格もクロスへ対抗心はあれど悪人ではない。そんな事をワンドが考えてると察したのかクロスが大きくため息をつき、うんと何かを決めて頷いたワンドが身体を向けるとさらにため息をつきつつ目だけ向けた。 「クロスさん、セルトさんを仲間にしましょう。力を貸してください」 「俺はともかく、他のやつはどうなんだよ」  やはりかと思いつつクロスは自分以外の仲間の意見を求め、ルイは「実力を見てからなら」と冷静な意見を述べ、クラブスも頷き、アミエラも同様。  個人的にはめんどくさい性格のセルトと旅するのは反対ではあるが、ワンドの意向には逆らえないクロスは「了解した」とやや言いにくそうに答え、ワンドはそれに笑顔を見せて応えた。
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