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第四章八節

――リックランプの街。オークション会場近くにあるデミトリア軍リックランプ支部。  クロスとアミエラに召喚札師(リスナー)用のカードを奪われた事が広まり、信用を落としてしまう結果となった事でオークションも失敗に終わってしまい、その責任について支部長室にいるルードは冷や汗を流しながら大きな鏡の前に跪いていた。  そんなルードの背後にはバエルがおり、鏡の面が揺らめき五箇所の別の場所が映されると小さく頭を下げた。 「此度のルードの失態についてはその場に居合わせた自分にも責任があると考えます」 「情けはいらないぞバエル、全ては……このルードの力が至らなかった結果、だ」  鏡の正体は遠方との通信連絡手段。媒体として鏡を使い、複数人と顔を合わせての対話が可能というものだ。  バエル達の鏡に映るのはデミトリア軍の上級召喚札師(リスナー)四人、そして、デミトリア本人だ。 「まったくとんでもない失態をしたものです。これではリックランプの支配が進まなくなります……やはり私が担当した方が良かったのではないですか?」 「仮にリリル、貴様が担当していたとしてもあの召喚札師(リスナー)には容易く勝てないだろう。奴の仲間(アセス)にはファイアードレイクがいる、加えて真化(ネオリューション)も数回していた」  鏡の右上からした美しい声の主リリルに対し、バエルはクロスの強さについて冷静な意見を述べ、リリルの言葉を詰まらせる。  ファイアードレイク、その存在がいかに大きいかは言うまでもない。そして真化(ネオリューション)という言葉……それが意味する答えは、召喚札師(リスナー)として実力があればあるほどに理解が深く、慎重にもなる。 「だが負けた事は事実、即刻斬首すべきだ」 「物騒だねぇ火の召喚札師(リスナー)さんは。もっと穏便に行こうや。とは言え、やはり失態は失態。デミトリア様の判断の前に、風の公爵の意見を聞かせてくれないかい?」  左下と右下、それぞれ荒々しい声の主と飄々とした声の主。そして、飄々とした声の主に促されて口を開くのは左上の召喚札師(リスナー)。 「ここでルードを罰するのは容易いものの、空位となったデミトリア五剣召喚札師(クインスリスナー)に治まるべき者がまだ育っていないのも確かな事」  デミトリア五剣召喚札師(リスナー)……デミトリア軍における上級召喚札師(リスナー)の総称であり幹部である。  風の公爵と呼ばれた召喚札師(リスナー)はさらに今回の件における要点を口にした。 「今回の失態に付け加える事は三つ、相対した召喚札師(リスナー)が我らに匹敵する力の持ち主だと言うこと、制御の面ではまだ不完全な本物の人造仲間(ゲアセス)を使わずにルードは戦闘し敗北した事、そしてバエル殿の実質独断でかの召喚札師(リスナー)を見逃した事」  ルードを弁護している、訳ではない。客観的要素を加味して冷静に分析し、今回の処罰をどうするかデミトリアは耳を傾け続けていた。 「さらに言えば、我々がリックランプを支配しようものならかの国が黙っておりますまい。いずれは対立するものの、それにはこちらの準備も相応に必要と考えます」  高貴で沈着冷静、そんな男の声の主。彼の言うように不利な条件がルードにはあり、またデミトリア軍全体の事を見た時にルードを処断するか否かでどうなるかも変わってくる。  デミトリア五剣召喚札師(クインスリスナー)達の意見に静かに耳を傾けていたデミトリアは、息をゆっくり吸ってルードに対する処罰を口にする。 「今回のルードの失態については特別大目に見ておこう、だが二度目はないと知れ。 そしてバエル、ルードを倒したという召喚札師(リスナー)……素性については調べがついているのか?」 「クロス、という名前の召喚札師(リスナー)です。サラマンディス国の出身、フリーランスで名前は通っており実力者というのは調べがついています。今すぐ始末するならば……」  ルードの処罰を見送ったデミトリアは話題をクロスに向ける。上級召喚札師(リスナー)を倒したとなればどのような召喚札師(リスナー)から気になるもの。  それについてバエルがクロスの知り得た情報を伝え、さらにその始末をと言いかけたがデミトリアが「放っておけ」と言葉を遮り、その真意が見えぬバエルはやや驚く。 「ですが自分は……」 「奴らが本当に我らに楯突くならば容赦しない。だが召喚札師(リスナー)というのはこの世界の要にもなりうる、貴重な人材を滅ぼすのは本意ではない」 「……御意」  デミトリアはあくまでも様子見を示していた。仮に成長して脅威となってもねじ伏せる力があるという事でもあるのはわかっているが、バエルは手をやや強く握り締め不完全燃焼気味の己の意志を抑え込む。  その後、鏡よりデミトリアの姿が消え、続いて他の召喚札師(リスナー)達の姿も消えて連絡は終了。立ち上がるルードにマントを翻しながらバエルは部屋の出口へと向かい、一度足を止める。 「バエル。余計な世話かもしれぬが……」 「言われなくともわかっている。デミトリア様の判断に従うまでの事だ」  冷静沈着、のように見えて部屋を出たバエルは苛立っているのをルードは感じ取れた。もっとも、自分自身も今回は処罰なしで済んだが命がけでこれからの責務を果たさねばならない。  静かに嵐は吹き始める。最初は風の流れ、まだ見えぬ嵐……その中心にいるのは、ワンドという存在なのは、当の本人も誰も知らぬ事。 next…
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